人工イクラの化学

かつて、人工イクラというものが存在しました。
味も見た目も本物そっくり。
そのためか、いつの間にか知られることなく消えて行きました。
理由は、安価なイクラがロシアから大量輸入されるようになったためです。

写真は本物のイクラです。
イクラはロシア語由来で「小さな粒々のもの」「魚卵」という意味。
日本ではサケの卵のみを指しますが、ロシアでは小さな卵はどれもイクラのようです。
従って、キャビアもイクラになります。
ちなみに、ロシアではあまりサケの卵を食べません。
日本のように大量消費する国は他にないです。

人工イクラを作ったのは日本カーバイド工業という会社。
カプセルの研究中に偶然発見したそうです。
アルギン酸ナトリウム水溶液を乳酸カルシウム水溶液中に滴下すると、球状のゲルが得られます。

それでは、作ってみましょう。
人工イクラは数種類の実験セットが販売されています。
今回はニチガさんのキットを使いました(お勧めです)。
計量スプーンとスポイト、食用色素、作り方の説明書付きで分かり易いです。材料は全て食用可です。

まず、アルギン酸ナトリウム1gを水100mlに少しずつ入れながら溶かします。

ミキサーがあると直ぐに溶かすことができますが、手で混ぜて溶かすのは大変です。その場合はある程度混ぜた後、ラップをして冷蔵庫で一晩そのままにしておくと、粉の塊が水を含んで溶かし易くなります。

綺麗に溶けました。
ここで、添付の食用色素を好みの量加えて着色します。

入れすぎました。笑
少しづつ確認しながら入れてください。
透明なままでも良いんですが、見え難いので着色するのをお勧めします。

次に、乳酸カルシウム2gを水200mlに溶かします。
最初は濁っていますが、混ぜていると段々溶けて透明になります。

これで準備OK!
スポイトでアルギン酸ナトリウム水溶液を吸い上げます。
乳酸カルシウム水溶液に滴下すると...

球状のゲルになります。
液面から5cm以上の高さから滴下して下さい。
ある程度高さが無いと綺麗な球状になりません。

上手くできました。
よく見ないと本物のイクラと間違えてしまいそうです。
水で洗って食べてみると、イクラのような食感がします。
色を付けただけなので、味はしません。

アルギン酸ナトリウム水溶液に食用色素を混ぜれば人工イクラのようにカラフルなゲルを作ることが出来ます。
更に、コーヒー、抹茶、ジュースなどを混ぜることで味を付けることが出来ます。
料理にも人工イクラの手法は使われます。
例えば、樋口直哉さんのnote。
「抹茶のスフィア」というデザートを紹介されています。
これは人工イクラの作り方と逆で、
アルギン酸ナトリウム水溶液の中に、キサンタンガムで粘性を与えた乳酸カルシウム水溶液を落として作っています。面白いアイデアですね。

「つかめる水」「たべる水」といった商品がありますが、
これも人工イクラと同じ材料を使っています。

こちらは以前作った、蛍光色素を入れた人工イクラですw

下の写真のようにカラフルなものも作れます(マガジンの表紙に使ってる写真です)。

人工イクラに使われるアルギン酸ナトリウムと乳酸カルシウムは以下のような構造です(塩化カルシウムでもできます)。

人工イクラが出来る仕組みは、以下の通りです。
乳酸カルシウム中に存在するカルシウムイオンが
アルギン酸ナトリウムのカルボキシル基どうしを繋げて橋架けします。
これによってアルギン酸ナトリウムの三次元ネットワークが作られるんです。

実は豆腐と同じ原理(二価の金属イオンが分子鎖を橋架けする)なんですね。

ところで、本物の人工イクラはもっと高度な技術を使っていました。
二重管ノズルを使い、外側にアルギン酸ナトリウム水溶液、
内側にサラダ油を入れて滴下します。

本物のイクラに見られる、中の赤い玉はこうして作られていました。
僕は化学繊維メーカーでノズルを使う研究をしていたことがありますが、
二重管ノズルの扱いはとても難しく、
溶液の粘度や押し出すスピード・ノズル径・湿度など、様々な要素を細かく調整する必要があります。
難易度は高いですが、この手法で人工イクラを作ってみたいと考えています。

本物そっくりの人工イクラはなくなりましたが、
その技術は理科の実験や料理の手法として広まりました。
実験キットは入手し易いので、興味があればぜひ試してみて下さい。

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