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寒天

寒天は長い歴史を持つ、日本人に最も馴染みの深いゲルです。寒天は「ところてん」と同じ、テングサ・オゴノリなどの海藻から出来ています。英語ではagarなのでアガーとも呼ばれます(発音はエイガーです)。

寒天が発見されたのは今から300年以上前の江戸時代初期です。京都の美濃屋という旅館を営んでいた美濃太郎左衛門という人が発見しました。冬のある日、外に捨てていたトコロテンが乾燥し、白くなっているのを見た太郎左衛門は、その乾物でトコロテンを作ってみました。するとどうでしょう。いつも作っているトコロテンよりも綺麗で、海藻臭さのないものが出来たではありませんか。実は、外に捨てられたトコロテンは早朝に凍結・昼間に解凍することを繰り返して乾燥し、不純物が取り除かれたのです(これが凍結脱水です)。ゆっくりと時間をかけて凍結・乾燥したことで、寒天を構成するアガロースが水素結合を形成し、三次元網目構造が出来たと考えられます。このアガロースはゲル化し易く、低濃度(1%)であっても溶かして冷やせば簡単にゲル化します。ちなみに、トコロテンは6世紀より前に中国から伝来したと言われています。

長野県の諏訪地方は、寒天を作るのに適した気候を持っており、古くから寒天の製造が盛んです。現在でも最大の生産量を誇ります。

寒天は食用だけでなく、細胞培養にも使用されています。結核菌・コレラ菌の発見で有名な細胞学者、ロベルト・コッホが細胞培養に寒天培地を採用したことで、寒天は瞬く間に世界中に広まりました。他に、生体物質の分離にも活用されています。寒天は化学研究に於いて様々な用途に使用されており、最先端の研究を支えているんです。

寒天そのものを食べる習慣は少なくなりましたが、料理に寒天の粉末を加えたり、医薬品や研究に使用されたりと、見えないところで私たちの生活を支えています。

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