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『魔女の遺伝子』の設定などなど1

 拙作『魔女の遺伝子』は、過去に書き出しだけ作っておいたものを、創作大賞2023に合わせて加筆修正したものです。中身は結構いろいろな要素を詰め込んでいるので、現実とフィクションの境界が曖昧な人からすると、やや混乱しやすいところがあるかもしれません。なのでこれから少しずつ設定の解説をしていこうと思います。

(一部ネタバレを含むので、苦手な方は直接本編をお読みください)


当作はフィクションです

 あたり前ですが、当作はフィクションです。実在の団体や人物とは一切関係ありません。この決まり文句を前置きとして提示しないと面倒ですから、改めて宣言しておきます。

 とはいえ現実から引っ張ってきた要素は多く、また元ネタの国や時代が離れているケースも多いし、そういった要素は今後も増やす予定なので、先にその辺りの解説をしておこうかと思います。


「魔女狩り」と「ペストの大流行」と「ユダヤ人迫害」をミックスした

 この話の表の重要な部分に「魔女狩り」があるのは、読んでいただければすぐにわかります。加えて500年前にパンデミックによる社会不安が起こったという点は、十四世紀の欧州における「ペストの大流行」から引っ張ってきています。そしてその二つを繋ぐために、構想段階では考えていなかった「ユダヤ人迫害」をモデルとして追加しました。

 ペストが欧州で最も深刻な被害を及ぼしたころ、ユダヤ人でペストにかかる人が少なかったため、「ユダヤ人が井戸に毒を撒いた」という悪質なデマが広まったそうです。
 当作ではこの「ユダヤ人の感染者が少なかったため、彼らが井戸に毒を撒いたというデマが広がり、迫害に拍車がかかった」という経緯をそのまま能力者に当てはめて、「能力者の感染者が少なかったため、彼らが病を蔓延させたというデマが広がり、迫害に拍車がかかった」という形にしました。

 ここまでが作中の500年前の元ネタですが、どうせならこのまま能力者の設定をユダヤ人から引っ張って来ようと考え、当初の予定から大きく設定を変更することにしました。


陰謀論にありそうなことを本当にやる話

 ユダヤ人といえば様々な荒唐無稽な陰謀論が未だに流れていますが、先に言っておくと、私のユダヤ陰謀論に対する考えは「中には事実もあるかもしれないが、おそらくそのほとんどは、教育熱心なユダヤ人がなるべくして裕福になったことに対する嫉妬から生まれた妄想」です。あとは「時の為政者が民衆に共通の敵を示すのに利用した」というのが実態だと思っています(個人的な考えなので、陰謀論者の方はいちいち私に反論しに来ないように)。

 さて、現実では眉唾物のユダヤ陰謀論ですが、フィクションの物語に転用するには非常に扱いやすいものです。既存の作品でも、ユダヤ陰謀論をモデルにしたものは、有名無名を問わず山ほどあるでしょう。
 しかしこのての陰謀論は散々擦られてきたネタですから、そのままの形で流用しただけでは、ストーリーが陳腐になる可能性があります。それに、単に「迫害を受けた人々が実は裏で世界支配を企んでいて……」というのは、まさにユダヤ人を迫害してきた人の妄想であり、正直あまり好きではありません。

 なので私は、「あまりに迫害が酷すぎたため、自衛と復讐のため、世界を仕切っている既得権益者を葬ることに決めた」という理由付けを、ヴァネッサたち、能力者の子孫に付け加えることにしました(これについては第十一話ぐらいでクリスの口から語られる予定です)。


過去の設定のモデルを中世にすると困ることに気付いた

 あとは作中の過去の時代設定について。現実世界でペストの大流行が起きたのは十四世紀ごろですが、そこに時代設定を合わせると、ストーリー上の重要なポイントが弱くなってしまうため、十六世紀のエリザベス朝時代のロンドンをモデルにすることにしました。これについては来週投稿する予定の第九話で少し触れます。


当作は登場人物個人の心情に焦点を当てています

 ここまでの話で察した方もいるかもしれませんが、これらの設定は作品の本筋を活かすためのもので、作者としては、世界観にほとんどこだわりを持っていません。世界観の設定は登場人物の心情を描くのに最適化するようにしているので、モデルとなった現実世界の特定の時代に肉薄させる気は正直言ってありません。

 なのでフィクションの物語に現実の歴史の再現を求める人には、当作はあまりおすすめできません。その代わり、登場人物の心情、悩みや葛藤を描いた作品が好きな方は、それなりに楽しめると思います。


 第九話を執筆中の現段階ではこんなところです。文体はかなり平易で読みやすいものにしているので、まずは第三話あたりまで読んでいただければ幸いです。


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