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変化点内容に対する横並びとは|トヨタ流開発ノウハウ 第22回


◆現状の設計手法について


現状の設計の進め方の多くはモジュラー設計(流用設計)です。

ただし、標準化したモジュールを流用のみで新しい製品を創造することは難しく、必ず新しい設計要素を組み込まなければなりません。

新しい設計要素を組み込まなければならない原因は、標準化したモジュールを未来に起こるであろう市場のトレンドを全て予測し、組み入れることができていないことです。

しかし、お客様の多様化が進んだ今の市場を見ていると、全ての市場のトレンドを予測することは不可能に近いでしょう。
また、新たな技術革新も進んでいく中で新規技術要素を組み込まなければならないため、新規設計領域が発生することは必須です。

この新規設計領域をうまくコントロールしていきながら、ロス・ミスなく設計を効率的に進めて行かなければなりません。
では、設計の仕組みとしてどのようなことを導入しなければならないのでしょうか。それは私が提唱する「変化点管理」です。

◆変化点管理の考え方


「変化点管理」の考え方は昔から設計者の中に存在するものですが、変化点管理を仕組み化したシステムはほぼ無いに等しく、設計者に任されてしまっている状態がほとんどです。

さらに、どのような変化点にするかを判断するのは容易ではなく、設計担当者1人で適切な判断をするのは非常に難しいでしょう。
そのために「変化点管理」を仕組み化し、設計組織全体で正しい変化点を判断しなければなりません。

正しい変化点を捉えることにより、設計の後工程での詳細設計時に発生するロス、ミスを低減でき、フロントローディングが実現できると考えます。

ある意味では「変化点管理」も問題の未然防止の1つかもしれません。
さらに正しい変化点を抽出したら、新規設計要素を組み込んでいき、新規設計部分と既存設計部分のインターフェースを合わせていかなければなりません。

その際に既存設計部分を変更しなければならないときがあるでしょう。
その時に必要な考え方が「横並び」です。

トヨタ自動車では、この「横並び」という言葉が設計部門で飛び交っています。
この「横並び」こそが重要で問題を発生させないようにするための考え方の1つでもあります。
では、「横並び」とはなんでしょうか。言葉の定義を解説していきましょう。

横並びとは、機械部品であれば、「同じ機能を持った部品同士を比較した時に形状や寸法が類似していること」です。
また、ソフトウェアであれば、「同じ機能をアウトプットできるソースコードに対して、定数が類似していること」です。

要は形状や寸法、定数が類似していることを確認し、過去の実績を踏襲するという考え方で、一番の目的は「特異点のような新しい設計要素を出来るだけ除外し、安定した品質を確保する」ことです。
もちろん、類似形状だからと言って問題が発生しない保証はないでしょう。しかし、過去の実績である程度品質が確保されている部品の考え方に合わせていくことは必要で、全ての部品について、新たなに品質を全て担保していくことは多くの労力がかかってしまいますし、抜け・漏れも発生してしまうでしょう。

設計検証時に「横並びから外れていないか?」を確認する事により、品質を担保し、横並びから外れる部分に対しては、技術的根拠である必然性を明確にし、品質を担保していくことになります。
このようにして、過去の実績をうまく活用しながら設計を進めて行くことが一番の設計リードタイムの短縮につながるでしょう。
 
それでは全体像をまとめながら、詳細内容を解説していきましょう。
 

◆「変化点管理」詳細内容説明


「変化点管理」+「横並び」= 設計品質を担保するための仕組み

1.変化点管理
 (1)流用元(選定したモジュール)の選定根拠明確化
 (2)流用元と開発品との仕様・スペック・構造比較
 (3)変化点・変更点を4つの視点で抽出
   ① 設計の変更点
   ② 条件・環境の変化点
   ③ 材料の変更点・変化点
   ④ 製造工程の変更点
 (4)各変更点・変化点への対応策(新規設計内容)

2.横並び確認
 (1)新規設計部分と比較する流用元(選定したモジュール)確認
 (2)新規設計内容との比較
 (3)横並び判定(横並び内か外かを判定)
 (4)横並び外の場合の対応策
   (外れている根拠の明確化と容認していいかの検討)
 

また、この横並びは過去の実績≒コア技術とも強い結びつきがあります。

コア技術の内容に記載されている「正しい使い方」で設計を進めていくことにより、自然と横並びを確認していることになり、先人達が開発した技術を使用することとなります。
 
この横並びを確認せずに設計者の思い込みで設計してしまうことが非常に多いのです。
その結果、昔の製品の性能や品質に及ばず、お客様からは「昔より性能落ちたね」「昔より使いにくくなったね」など、「改悪」に繋がってしまいがちです。
この改悪にならないためにも、上手く過去の実績を活用しながら設計を進めていくことが今の時代では重要なのです。
 
皆さまいかがでしょうか?

変化点を見極め、変化させた内容の品質が担保されているのかを常に検証していく仕組みを「変化点管理+横並び」で実現してみてはいかがでしょうか。


講師プロフィール

 株式会社A&Mコンサルト
代表取締役社長 | 中山 聡史

2003年、関西大学 機械システム工学科卒、トヨタ自動車においてエンジン設計、開発、品質管理、環境対応業務等に従事。ほぼ全てのエンジンシステムに関わり、海外でのエンジン走行テストも経験。2011年、株式会社A&Mコンサルトに入社。製造業を中心に自動車メーカーの問題解決の考え方を指導。2015年、同社取締役に就任
主なコンサルティングテーマ
設計業務改善/生産管理・製造仕組改善/品質改善/売上拡大活動/財務・資金繰り
主なセミナーテーマ
トヨタ流改善研修/トヨタ流未然防止活動研修/開発リードタイム短縮の為の設計、製造改善など
※2023年9月現在の情報です

近著


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