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僕と妹の電脳世界の大冒険 : 第3話「到着、魔法の存在する電脳世界…」

次に僕の意識が戻った時、僕は落下していた。

 眼下に広がる景色を見ると、僕はかなりの高度を猛スピードで落下中の様だった。
 ダメだ… また気を失いそうになるが、しっかりと目を開いて考える。

「このまま落ちれば、間違いなく僕は死ぬ… どうすればいいんだ…」

 落下中の僕は、両手に握りしめていたヨーコのタブレットを思い出した。

「ここへ僕を連れてきたのがこいつなら、これで何とか出来ないだろうか…?」

 僕は起動中のヨーコのタブレット画面を見つめて、もう一度『解放』をタップしてみた。

 するとどうだろう… またタブレット画面が赤い光を発し始めたではないか…?
 しかし、今度は光のオーロラではなく…無数の赤い霧状をした光の粒子が画面上から出てきて、まるで赤い雲のように僕の身体を包み込んだのだ。

今度は意識が途切れる事は無かった。
 赤い光の霧に包まれたままで降下し続けた僕は、やがて自分の足下に地面の感触を感じた。

 そして…赤い光の霧が晴れて解放された僕は、しっかりとした大地を両足で踏みしめて立っていた。
安心のため息とともに身体から力が抜けていく。
 僕は足で地面をってみた。大丈夫だ、確かに地面の固い感触が感じられる。
 自分の足で立つ事がこんなに安心する事だなんて、僕は今まで改めて考えた事が無かった。

だが、安心はすぐに不安に変わる…

「それにしても… ここは一体、どこなんだ…?」

 周囲を見回した僕は、そこが森の中を通る一本道だという事に初めて気が付いた。
 その道は僕らの住む現代社会の道路には程遠いが、それなりに人が通りやすい様に整えられている。
文明を持った人間が住んでいるのだろうか?

「道は一本道だけど… いったい、どっちに行けばいいんだ…?」

 困った僕は、また手に持っていたヨーコのタブレットを見た。
 だが、すでに電源が落ちたかの様に画面上の赤く輝いていた光は消え去っていた。

「電源が切れちゃったのかな…?」

 ヨーコのタブレットをリュックに入れ、代わりに持ってきた自分のスマホを取り出した。省エネモードを解除して画面を呼び出す。

「この世界でスマホなんて使えるのかな…」

 画面は僕が設定している通常の待ち受け写真が表示されている。
 ちなみに、待ち受け画面に使ってるのは僕とヨーコの写真だ。
 二人がほっぺたをくっつけ合って笑っている写真だ。家族でゲーセンに行った時に撮った写真だ。
 僕は残念ながら彼女がいないので、美少女である自慢の妹と撮った写真を待ち受け画面に使っているのだ。

「ヨーコ… お兄ちゃんが必ずお前を家に連れ戻してやるからな…」
 スマホの待ち受け画面で楽しそうに笑っているヨーコの顔に誓った。
 
 だが…待ち受け画面の上部に表示される電波状態を示すアイコンは、電波が全くつながっていない事を示していた。

「やっぱり、ダメか…」
 僕は頭をかかえてしまったが、さっきヨーコの机にあったノートに記載されていたのを、僕自身がヨーコのタブレットから転送しておいたURLの事を思い出した。

「あのURL… あれに繋がらないだろうか…? 電波が繋がらない状況なら、やっぱりダメかな?」
 ダメで元々…という思いで、表示されたURLをタップしてみた。

すると、どうした事だろうか…?
 僕とヨーコの待ち受け写真の画面が消えて、表示画面全体が赤い輝きを放った。
 この赤い光は、さっき僕をこの世界に連れてきたヨーコのタブレットが発していたのと同じ光のようだった。
 画面から赤い光のオーロラが立ち上ってきて、30㎝位の高さの赤いオーロラで出来た光の直方体を作り上げた。
 赤いオーロラの直方体の表面は、平面ではなく本物のオーロラの様にうねり波打っていた。
 その直方体の表面が、安定した一定の面を構成していないのだ

 しばらく見つめていると、表面がうねり続けていた赤い光の形状が直方体から変化し始めた。
微妙な蠕動ぜんどうを繰り返して変化していく…

 やがてうごめく赤い光は収束してまとまり、まるで人の形の様へと変化していったのだ。
 だが、人の形にしては背中の部分に羽根がある。鳥の翼ではなくて昆虫のはねの様だ。
それは、トンボの翅のような形状をしていた。
 
 ついに一定の形を形成し終わったのか、赤い光は変形を終了したようだ。

 その形状は…まるで30㎝ほどの少女の背中にトンボの翅を生やした、絵本に描かれる伝説上の妖精の姿そのものだった。
そう、赤い光のオーロラは赤い色をした妖精に変身していた。

 妖精は背中のはねを細かくふるわせながら、私の目の前で静止した。ホバリング(空中浮揚)しているようだ。
 その容姿は、中学生くらいの女の子の様な体型をした妖精だった。
 胸にもわずかにだが、年頃の少女の様なふくらみがある。

 妖精は僕の目の前でホバリングしながら、腕を腰に当てるポーズをして僕の方を見つめている。
そして、妖精が僕に言った。

「私はイフリーヌ… 炎をつかさどる聖霊よ。」
 驚いた事に、妖精は私に向かって人間の…しかも日本語でしゃべりだしたのだ。

 僕は驚きのあまり…妖精を見つめたまま開いた口がふさがらず、言葉を発する事も出来なかった。
 イフリーヌと名乗った妖精の小さな顔は、私の姿を見て微笑ほほえんでいるようだった。

「イっ、イフリーヌ…? 炎の聖霊…? ぼっ、僕のスマホから出てきた妖精がしゃ、しゃべった…」
どもりながら、僕はやっと声を発することが出来た。

「イフリーヌ… 君は一体…」
僕はイフリーヌに問いかけた。

「私はこの電脳世界における、あなたのスマートフォンのAIが具現化した存在…
この妖精の形は、人に視認しやすい形状を取ったの。
 私は、この電脳世界における火の神との盟約で炎を自在に操る事が出来る様になったわ。」
イフリーヌが僕に語った。

「AI… 盟約… 何を言ってるんだ、君は…?
僕にはさっぱり理解出来ない…」
 僕は現実に目の前に存在する妖精を否定するように、強く首を振った。

「あなたは理解したくなくても、私はこの世界にもう存在しているのよ。
この世界での現実を受け入れなくてはいけないの…セイジ。」
と、驚いた事に妖精のイフリーヌは僕の名前を呼んだのだ。

「どうして君は僕の名前を知ってるんだ…?」

「言ったでしょう、私はあなたのスマートフォンのAIだと。
 あなたはどんな時も私を持ち歩いていた。大切に扱ってくれたわね。
私は、いつもあなたと一緒にいたのよ。」

「その僕のスマートフォンのAIが、何でそんな姿になるんだ…?」

「それは… あなたが理解できるように説明するのはとても難しい…
 そうね、まず…ここは現実の世界では無いのよ。
 世界最高レベルのスーパーコンピュータの内部に構築された仮想の電脳空間ね。
バーチャル・リアリティーの世界なの。分かる?」

「うん… なんとなく…」
 僕はそう答えたが…本当の所は、あまり分かっていなかった。

「この電脳空間の中では、セイジも私もデータとしての存在なの。」

「ええっ! じゃあ、僕の本当の身体はどうなったんだ…?」

「あなたの身体は現実の世界にちゃんと存在してるわ。ヨーコもね。」

「でも…」
僕にはイフリーヌの言う事が理解出来ない。

「聞いて。ここに存在するセイジは現実世界のあなた自身をデータに変換したものなのよ。
 つまり、本物そのままのデータとしてのセイジがこの仮想空間の世界で生きているのよ。記憶も知能も身体能力もそのままでね。
それが、この世界でのあなたよ。」

「じゃあ、この僕は本当の僕じゃなくて… 僕のデータなのか?」
僕は訳が分からなくなってきた。

「そうよ。私自身は、元々スマートフォンのAIとして構築されたプログラムデータなの。
 だから、この電脳世界ではデータのセイジと話が出来たり、私の姿も妖精の形のデータとして具象化する事が出来るのよ。
何でもかんでも出来る訳ではないんだけどね…」

今の説明で少し分かって来た。
「じゃあ、僕の身体も記憶も、考える思考も全てが本物のセイジと同じって事なのか…」

「その通りよ。今私が会話しているセイジは、この電脳世界の仮想空間の中で生存する人間セイジなのよ。
 現実世界の本物のセイジとは、同じであって同じではないの。」

少しずつだが、僕にも理解出来てきた。
 今考えている…この僕は、現実の世界で生存しているセイジのデータとしての存在なんだ。
 身体的な特徴も頭の出来や思考パターンまでが、オリジナルの僕と全く同じに作られているんだな。

「そんな事が出来るなんて、まるでこの電脳空間ってのは魔法の世界だな…」
僕がつぶやいた独り言ひとりごとを聞き取ってイフリーヌが答える。

「その通りよ。この世界では魔法が現実のモノとして存在するのよ。」

「魔法の世界…」

 僕はこの魔法が当たり前に存在する電脳空間という仮想の世界で、ヨーコを捜して連れ戻さなければならないのか…?

 正直言って、僕は目の前に浮かぶイフリーヌ目の前に浮かぶを見つめながら眩暈めまいがしてきた…
 
 もう… 僕の頭の容量を、すでに大幅に超えてしまっていたのだ。

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