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「私は軍人だ」ドズルとコーヒーと軍人という生き方~機動戦士ガンダム 第35話「ソロモン攻略戦」感想

先鋒隊と合流

前回、サイド6を出港したホワイトベース。ティアンム艦隊の先鋒隊と合流である。正確な数は分からないが、みたところ先鋒隊は戦艦数隻といったところだろう。

カイ「ミサイルを抱えたぶっさいくなのいるけど、あれなんだ?」
クルーA「パブリクタイプの突撃艇ですよ」
カイ「突撃艇?ってことはまた厳しくなりそうだな、おお、やだやだ」

カイはパブリクをみて「ぶっさいくなの」と言っているが、個人的にはあまりぶっさいくとは思わなかった。

ワッケイン再び

ワッケイン「そうだ。任せる」
連邦士官A「艦長、ホワイトベースの艦長がお見えになりました」
ワッケイン「ん、ご苦労」
ブライト「・・・ブライト・ノア中尉であります」
ワッケイン「ご苦労だったな、ブライト君」
ブライト「ご無沙汰であります、ワッケイン司令」
ワッケイン「司令はやめてもらおう、お偉方が集まれば私などあっという間に下っ端だ。んん?」
ブライト「は?」
ワッケイン「貴様もいっぱしの指揮官面になってきたかな?結構なことだ。見たまえ」
ブライト「は」
ワッケイン「これが現在我々の通っているコースだ、主力は大きく迂回して進んでいる」
ブライト「これは。やはり作戦目標はソロモンですか?」
ワッケイン「そうだ。ホワイトベースは我々と共にソロモン攻略の先鋒となる」
ブライト「そうですか、大変な任務ですね。我々にできますか?」
ワッケイン「君自身、そんなことを考えられるようになったのもだいぶ余裕が出てきた証拠だな。大丈夫だ」
ブライト「しかし、ホワイトベースのパイロットは完全にオーバーワークです。ことにアムロは・・・」
ワッケイン「ああ、あのガンダムの坊やか。素晴らしい才能の持ち主だ。彼は我々とは違う」
ブライト「違う?どう?」
ワッケイン「そう思えるんだ」

先鋒隊の艦長はワッケインだった。ワッケインといえば第4話「ルナツー脱出作戦」でホワイトベース側にやたら高圧的で尊大な態度をとっていたルナツー司令である。なつかしい顔の再登場だ。

第4話「ルナツー脱出作戦」では士官候補生であったブライトを舐めきり、敬礼すらしなかったワッケイン。今回はホワイトベースの正式な艦長に就任していることもあり、ブライトに対しきちんと敬礼をする。今回、以前のようないや~な感じはまったくしない。

さらにアムロのことを「素晴らしい才能の持ち主だ。彼は我々とは違う」とほめちぎっている。ワッケインがアムロの戦いぶりを見ていたのはルナツー脱出の時のシャアとの戦闘だけだ。それをみてここまでべた褒めできるものだろうか。それとも、ルナツー出港後のホワイトベースの活躍をどこからか聞いて、そう思ったのか。

なお、ワッケインがここまでアムロを評価する様を描くのは、アムロがニュータイプで特別だということを印象付けるためである。

そのアムロだが、ブライトのいう通り、目がかすみ見間違いをしてしまうほどオーバーワークで疲れている様子が描かれている。

パプア補給艦

ドズル「パプア艦でたった1機のビグザムだけだと?」
ジオン士官A「は、現在はこれしか出せぬ、と」
ドズル「ええい、兄上は何を考えているのだ?今あるリック・ドムでは数が足りんのだ。新鋭モビルスーツの1機をよこすくらいならドムの10機もまわさんのか?」
ジオン士官A「じ、実は」
ドズル「なんだ?」
ジオン士官A「今回のビグザムも試作段階でして、開発は急いでいるのですが、なにぶん各方面からの要請が、その・・・」
ドズル「もうよい、うせろ」
ジオン士官A「は」

ソロモンにパプア補給艦が帰港する。パプア補給艦も久々の登場だ。

このシーンのドズルと部下の会話に見覚えがあると思って振り返ってみたら、第3話「敵の補給艦を叩け!」でのドズルとシャアの会話のリバイバルである。

シャア「パプア補給艦?あんな老朽艦では十分な補給物資は・・・」
ドズル「現状を考えるんだ」
シャア「しかし・・・」
ドズル「十分な戦力で戦える昔とは違うんだぞ。シャア、ザクは2機送った。ムサイを潰しても連邦の機密を手に入れるんだ」
シャア「はっ!(3機のザクを要求してこれか。敵のモビルスーツの性能が皆目わからんのに)」

第3話「敵の補給艦を叩け!」

しかも前回はシャアにわずかな補給しか送らなかったドズルが、今回はギレンの補給に対して愚痴をこぼすという皮肉とも言うべきシーンである。

ビグザム

ドズル「ええい、ビグザムの組み立てを急がせろ!」
ジオン士官B「は」
ドズル「それにだ、ティアンム艦隊の動きは掴めんのか!?」
ジオン士官B「申し訳ありません。ミノフスキー粒子の極度に濃い所を索敵中でありますが、ダミーが多くて・・・」
ドズル「それが戦争というものだろうが!」

今回登場する新型モビルスーツはビグザムである。ただ、登場はするが出番はない。次回までお預けである。

ドズルも現在接近中のホワイトベースらの戦力を見て、これが陽動作戦であり他に本隊がいることは把握できている。しかし、ティアンム艦隊本隊の動向は掴めていない。まもなく戦闘開始だが、果たして・・・。

水先案内人

ジオン兵A「物資搬入急げ!」
ジオン兵B「移送パイプ解除!バルブ閉鎖!」
ジオン兵C「艦内気圧チェック!急げ!水先案内人!どうした!?」

ソロモンからサイド6に場面が移る。ザンジバルが出港するようだ。

ここで「水先案内人」という言葉が登場する。水先案内人とは日常語として使用する場合は、

「(比喩的に)先導して行く先を示す人・役目。」

weblio辞書 -「水先案内人」

という意味である。しかし、本来の意味は異なる。本来は

水先案内人(みずさきあんないにん)とは、船舶の運航時に乗組員に適切な水路を教えるとともに、そのための操船を指示する人。

Wikipediaー水先案内人

という意味だ。なお、日本での法令上の正式名称は「水先人」であり、「水先法」という法律で定められている。

サイド6にも出入港時に戦艦などを先導する役割の水先案内人がいるということだ。製作者のこだわりを感じる非常に細かい描写である。

カムラン監察官!?

シャア「ご苦労でした、カムラン監察官殿。封印は解いていただけましたかな?」
カムラン「封印は取りましたが、領空内での発砲は・・・」
シャア「承知している」
カムラン「早く出て行ってもらいたいもんだな。二度と来てもらいたくない」
シャア「言葉には気をつけたまえ、ミスター・カムラン」
カムラン「なに?」
シャア「サイド6が生き延びてこられたのもジオンの都合による。その辺をよーく考えるのだな」
カムラン「く・・・お目こぼしだとでもいうのか?」
シャア「ララァ、何をしている?」
カムラン「・・・ど、どなたです?」
シャア「私の妹、とでもしておいてもらおう」

カムランの肩書が「監察官」となっている。前回までは「検察官」だったが、どっちが本当なのか。カムランの業務内容からして監察官の方がそれっぽいだろう。

相変わらずララァの描かれ方が特徴的である。全身からオーラのような光が出ているし、細かな光に包まれながら浮遊する様は神秘的だ。

シャアがララァのことを「妹」と言っているが、実の妹であるアルテイシアのことはもういいのだろうか。優しい優しいアルテイシアが変わってしまったことに失望し、新しい「妹」としてララァに入れ込んでいるのか。

シャアがララァのことをどう考えており、どうしたいのかについてはまだ見えてこない。今しばらく要観察である。

連邦軍の作戦

ワッケイン「現在我が艦隊は、敵の宇宙要塞ソロモンから第3戦闘距離に位置している」
ブライト「目と鼻の先か」
ワッケイン「以後は敵と我々の間を邪魔する物は一切ない」
カイ「やれやれ・・・」
ワッケイン「艦隊、横一文字隊形に移動」
ブライト「フラウ・ボゥ、カツ、レツ、キッカは?」
フラウ「重力コアのEブロックにいます」
ブライト「ハロもか?」
フラウ「はい」
レツ「こんなとこにじっとしてんなんてさ」
キッカ「こんなの着てなきゃ戦えんだ!」
ワッケイン「戦法は正攻法、突撃艦パブリクによるビーム撹乱幕を形成する」
ワッケイン「全艦、正面より進攻する」
カイ「じょ、冗談じゃないよ。たったこれだけじゃ死にに行くようなもんじゃねえか」
アムロ「大丈夫ですよ、カイさん。連邦軍だって考えてますよ」
カイ「そんなこと言ったっておめえ!!」
セイラ「無駄口がすぎるわ、カイ。主力のティアンム艦隊を信頼するのね」
ワッケイン「諸君達は15分だけ持ちこたえればいいんだ。その間に本隊が対要塞兵器を使用する」
アムロ「対要塞兵器?なんだろう?」
ワッケイン「攻撃開始。マイナス8。パブリク各機、3、2、1、0!発進!」

このシーン、ワッケインのセリフとホワイトベースのクルー達の反応をカットバックの手法で見せることで、自然に今回の連邦軍の作戦内容が容易に理解できるようになっている。よく練られた構成だ。

ワッケインの艦隊とホワイトベースは先鋒隊としてソロモンに攻撃を仕掛ける。

ただ、戦力としてはホワイトベースを含めて戦艦数隻程度であり、ソロモン攻撃には戦力が圧倒的に不足している。これだけでソロモンを落とせるはずもなく、本当に大丈夫かと思うが、実はこれは陽動作戦。ソロモンの注意をホワイトベースら先鋒隊に引きつけておき、その隙にティアンム率いる本隊が対要塞兵器で一気に片をつける作戦だ。

ホワイトベースらの役割は、本隊が新兵器を使用するための15分という時間を確保することである。

対するソロモン。左端に小さく描かれているムサイと比較すればソロモンのデカさはある程度想像できる。そこに搭載されている戦力もそれなりであろう。

突撃艇パブリクが口火を切る。背後には損傷したコロニー。かつてこの場所にサイドがあったということだろう。

ビーム撹乱幕?

ドズル「敵は強力なビーム撹乱幕を張ったぞ。リック・ドム、ザクの部隊は敵の侵攻に備えろ。敵は数が少ない、ミサイル攻撃に切り替えるのだ。ミルヴァ艦隊、左翼に展開しろ。ハーバート隊、後方を動くな。ティアンムの主力艦隊は別の方角から来るぞ」

ドズルはテキパキと指示を出しており、有能な指揮官という雰囲気がぷんぷんする。

ビーム撹乱幕なるものが突然登場するが、この画像でどういうものかがよくわかる。ビームの進行方向を変えたりするものらしい。原理は不明である。

モビルスーツ隊発進!

連邦兵B「ビーム撹乱幕、成功です!」
ワッケイン「よし、各艦、任意に突撃。我が艦もジム、ボール、各モビルスーツ隊発進!」

パブリク突撃艇によるビーム撹乱幕の形成に成功。すかさず連邦軍の新型モビルスーツジムとボールの出撃を出撃させる。第29話「ジャブローに散る!」でシャアのズゴックに瞬殺されて以降、出番のなかったジムだが。今回満を持しての出撃である。

ボールは今回が初登場だ。サイヤ人の宇宙船に2本のロボットアームと砲塔をつけたような造形。なんかかわいい。

「このソロモンが落ちるものか」

ドズル「ラコック、ここを頼む」
ラコック「は、閣下」
ドズル「すぐ戻る」
ラコック「は」
ドズル「万一の事がある、女どもは退避カプセルに移れ。急いでな」
ゼナ「戦局はそんなに悪いんですか?」
ドズル「急げ」
侍女A「はい」
ドズル「このソロモンが落ちるものか。万一だ、万一の事を考えての事よ。ようやくにも手に入れたミネバの為」
ゼナ「お声が大きいから」
ドズル「ははははは、急げよ」

ドズルがプライベートスペースに控え、女性陣に退避カプセルに移るよう指示する。

「このソロモンが落ちるものか」と威勢のいいことを言っているが、これは家族を安心させるためのハッタリだ。ティアンムの本隊の動向が把握できておらず、どこからどのような攻撃がやってくるのかがわからない状況ではソロモンの勝機は薄い。

おそらくドズルはこの時点ですでにソロモン陥落を覚悟し、せめて家族だけでも生き延びることができるよう退避させようとしているのだろう。

ただ、ドズル自身は逃げようとする素振りはない。

ティアンム登場!

ティアンム「ミラーの準備はあと?」
連邦兵C「は、あと4分ほどであります」
ティアンム「ん、ソロモンもそろそろこっちに気付くぞ」

これまで何度もその名前だけが出ていたティアンムさんの初登場である。意外と普通のおっさんだ。

そのティアンムが準備しているのは大量の鏡。ワッケインが言っていた「対要塞兵器」とはこのことだったのだ。これで太陽光を反射し一点に集中させ、その熱でソロモンを焼く作戦である。この作戦の原理は非常に分かりやすい。小学校の理科で習う程度の知識があれば十分だろう。果たして、その威力は・・・。

衛星ミサイル

ラコック「なに?馬鹿な、サイド1の残骸に隠れていたのがわかりましたぁ?」
ドズル「どうしたか?」
ラコック「ティアンムの主力艦隊です」
ドズル「ん、衛星ミサイルだ!」

ソロモン側も連邦軍の主力艦隊をようやく捕捉した。すかさず衛星ミサイルを飛ばす。

ドズルが「衛星ミサイル」と呼んでいるのはこんな感じのものだ。宇宙空間に漂っている小さな岩石にロケットエンジンが搭載されている。これを飛ばして敵に直接ぶつける兵器のようだ。こちらも原理は非常にわかりやすい。

「国中の物笑いの種になるわ」

ドズル「敵本隊に戦艦グワランとムサイを向かわせろ」
ラコック「第七師団に援軍を求められましては?」
ドズル「すまん。キシリアにか?フン、これしきの事で。国中の物笑いの種になるわ」

ラコックが「キシリアに援軍を求めては?」と提案するが、ドズルは「国中の物笑いの種になるわ」という理由で却下する。このあたり、戦争の帰趨よりも兄弟間のメンツが優先されているところにジオン軍の病理が見て取れる。

先ほどのギレンからの補給に愚痴をこぼしていたシーンも、この兄弟関係を考慮すれば、単純な戦力不足という以外にも兄弟間の不協和音が影を落としているという事情もあるのではないかと思わせる。

ジオン軍の弱点はこの3兄弟が微妙に一枚岩になりきれず、相互に牽制しあっているところにある。

このような微妙な権力バランスになってしまっているのはガルマが戦死したことに原因があるのか、はたまたデギンの力が弱まってきているからか、それとももとから兄弟仲が悪いのか。

ソーラ・システム

ドズル「な、何事だ?」
ジオン兵E「第6ゲート消えました、敵の新兵器です」
ドズル「な、なんだ?」
ジオン兵E「レーダー反応なし、エネルギー粒子反応なし」
ドズル「レ、レーザーとでもいうのか?方位は?」
ジオン兵E「敵主力艦隊です」
ドズル「グワラン隊が向かっているはずだな?」
ジオン兵F「こちら、45メガ粒子砲、どこへ攻撃すればいいんだ?うわあーっ!!」

ソーラ・システムでソロモンが焼かれる。ティアンムの作戦が見事に決まった瞬間である。ソロモンは何が起きているのか把握することができず大混乱だ。

ティアンム主力部隊に向かっていたグワラン隊もなすすべなく消え失せてしまった。

この様子だと連邦側のモビルスーツもいくらかは巻き込まれているのではないかと心配になってしまうくらいの威力である。

ハヤト負傷

ハヤト「うわーっ!うっ、こ、このっ!ま、まずいな、弾倉ロックが切れたか。ひ、引き返すしかないのか」
マーカー「ガンタンク着艦しました。損傷度B、パイロット負傷しています。戦力はガンタンクが後退したことにより11パーセント低下しました」

ハヤトのガンタンクが損傷。ホワイトベースに帰艦する。そもそもガンタンクは形状からして宇宙空間での戦闘を想定したものではないから、ここでガンタンクが戦線離脱してしまうのはハヤトの責任ではない。コアファイターで出た方が良かったのではなかろうか。

宇宙服が破損し、それをテープで修復する仕草などが何のセリフもなく描かれている。この自然な動きからハヤトも戦争の中で成長していることをうかがわせる。

サンマロ「マサキ軍曹、輸血の準備を。すぐ楽になる」
フラウ「手伝える事あります?」
サンマロ「あ?AB型の血液ビンと輸血セットを持ってきて」
フラウ「ハヤト!」
サンマロ「急いで!」
フラウ「はい!」

ハヤトの血液型はAB型のようだ。

このハヤトを見たフラウボウのリアクションで、ハヤトの負傷の深刻さが描写される。

これとまったく同じ演出は第2話「ガンダム破壊命令」でも行われていた。そのときは負傷したパオロを見たフラウボウとブライトの反応でパオロが回復不能な傷害を負ってしまったことが描写されていた。

第2話
第2話

サンマロは「ハヤトにはもう一本輸血する」ともいっており、ここからもハヤトの負った傷害の程度が甚だしいことがうかがえる。

ハヤト「ううっ、く、来る!ド、ドムが!あ?・・・フラウ・ボゥ」
フラウ「静かにね。あなたは十分に戦ったわ。もう静かにしてていいのよ」
ハヤト「みんなは?」
フラウ「無事よ。元気に戦っているわ」
ハヤト「そう。く、悔しいな、僕だけこんなんじゃ。セイラさんにもカイさんにもかなわないなんて。な、情けないよ」
フラウ「なに言ってるの、ハヤト。立派よ、あなただって」
ハヤト「やめてくれよ慰めの言葉なんて。こ、こんな僕だってね、ホワイトベースに乗ってからこっち、アムロに勝ちたい、勝ちたいと思ってて、このざまだ」
フラウ「ハヤト。アムロは、違うわあの人は。私達とは違うのよ」

ここでハヤトが負傷し、悔しさをにじませるシーンを入れるのは、アムロとの対比を描くためである。

ニュータイプで特別な力をもっているアムロとそうではないハヤトを対比することで、アムロの非凡さを強調する効果がある。

それにしてもハヤトがここまで自分の心情を吐露するのも珍しい。前回は入港するザンジバルを見てリュウのことを思い出し飛び出そうとするハヤトが描かれていた。今回はそれとはまた別の一面が見られた。

考えてみれば、ハヤトもアムロも境遇はまったく同じであった。サイド7での奇襲以来なりゆきでパイロットにおさまったにすぎない。もとは戦争とは無縁のただの少年である。

しかし、戦いの中でいつのまにかハヤトとアムロとの間にはかなりの差ができてしまった。周囲はアムロのことを特別だともてはやすが、その陰でハヤトもパイロットとして努力してきた。しかし、それでもアムロにはかなわない。

ここで悔し涙を流すところが実直なハヤトらしい。

なお、このシーン血液バッグをぶら下げて輸血する様子が描かれている。最初見た時重力のない宇宙空間でどうして輸血が可能なのかよくわからなかった。

この場所、ホワイトベース内の重力ブロックで、遠心重力装置で疑似重力を人工的に作り出している場所で、この空間には重量類似の力が働く。なので、血液バッグによる輸血も可能というわけだ。

その証拠に映像でも天井や床が弧を描くように湾曲しており、この空間が回転することがわかる。

ドズルとコーヒー

ラコック「ガトル第2、第6戦隊応答なし。グワラン応答なし」
ドズル「ラコック、すまん、コーヒーを頼む」
ラコック「は」
ドズル「残ったモビルスーツを戻させろ、ソロモンの水際で敵を殲滅する!」

連邦軍の作戦が決まり、ソーラ・システムでソロモンは大打撃を被った。ティアンム主力部隊に向かったグワラン隊もやられた。状況はドズルにとってかなり厳しい。モビルスーツを後退させ防衛ラインをさげる。

コーヒーを頼むのは自分を落ち着かせ平静を装うためだ。

この回で、ドズルがコーヒーを飲むシーンが2回出てくる。1回目はラコックから手渡されたものを飲み、2回目は「ラコック、すまん、コーヒーを頼む」と自分から頼んでいる。この違いによってドズルの心理的な余裕が失われていく様子を描いている。特に2回目にラコックにコーヒーを頼むとき、わずかだがドズルの指先の泳ぐ仕草が見られる。ここにドズルの苛立ちや不安を見て取ることができる。

逆に言えばドズルの焦りを感じさせる描写はこれくらいしかない。

第23話の感想記事でも書いたが、頼れる指揮官の絶対条件は部下を不安がらせない振舞いができることである。映像をみていてもドズルの心情を推し量ることができる描写は実に少ない。それはドズルが戦況にかかわらず努めて平静を装っているからである。ドズルはこの意味で有能だ。ガルマとは大違いである。

アムロ「後退するのか!?どこから突入するか?あれか?新兵器の破壊した跡は。すごいな。行くぞ!!」

ガンダムがソロモンに進攻する。行手にはムサイが立ちはだかるが、アムロは砲塔とブリッジを的確に撃ち抜きこれを撃破。

まったく無駄玉を撃つことなく、必要最小限度の動きと弾薬でムサイを撃破している。無駄玉を撃ちまくりあっという間にエネルギー切れしていた頃がもはや懐かしい。

連邦兵F「ホワイトベースより入電。味方のモビルスーツがソロモン内に進入しました」
ティアンム「ようし、本艦、各艦からもモビルスーツ隊を出す」
連邦兵F「了解。タイタンより各艦へ。モビルスーツ・ジム及びボールの突入隊を発進させろ」

ガンダムがソロモン内に進入したとの報を受けて、ティアンム艦隊からジム、ボールの大軍が出撃する。ここで一気に決めるつもりだ。ソロモン攻略ももはや時間の問題だろう。

援軍・ザンジバル

シャア「ソロモンが救援を欲しがっている?」
ジオン兵G「はい。暗号電文で細かいことはわかりませんが、ともかくキシリア様の命令です。ソロモンへ向かえ、との事です」
シャア「ララァ、いいな?いよいよ戦場に入る。ザンジバル、最大船速。目標、ソロモン。各員、第3戦闘配備」

ザンジバルでサイド6を出港したシャアとララァ。キシリアの命令でソロモンに向かうことに。少し前までキシリアに援軍を求めることを躊躇していたドズルだが、ようやくキシリアに援護を依頼したようだ。

ソロモンとホワイトベース・ワッケインの先鋒隊とティアンム艦隊本隊の位置関係は、作中ではよくわからなかったが、もっと早い段階で月のグラナダから援軍が駆けつけていた場合、戦況はどうなっていただろうか。

ホワイトベースらの後方や側面から攻撃を仕掛けることができれば、連邦軍の陽動作戦は奏功しなかったかもしれない。ここはドズルの決断が遅れたと言わざるを得ない。そして上述のようにその背景としてザビ家内の微妙なパワーバランスがある。

このシーン、肩でそっと手を重ねるララァとシャア。セリフは非常に少なく、必要最小限の会話しかないが、この手を重ねる描写だけで2人の厚い信頼関係を余すことなく表現している。第12話「ジオンの脅威」のランバ・ラルとハモンを彷彿とさせるシーンだ。

第12話

「私は軍人だ」

ドズル「ゼナはいるか?」
ゼナ「あなた、いけないのですか?」
ドズル「馬鹿を言うな、ソロモンは落ちはせんて」
ゼナ「では」
ドズル「いや、脱出して姉上のグラナダへでも行ってくれ」
ゼナ「いけないのですか?」
ドズル「大丈夫だ、案ずるな。ミネバを頼む。強い子に育ててくれ、ゼナ」
ゼナ「・・・あなた」
ドズル「私は軍人だ。ザビ家の伝統をつくる軍人だ。死にはせん。行け、ゼナ!ミネバと共に!」

ゼナとドズルの会話が実に感慨深い。

子供を抱えドズルに駆け寄るゼナ。ゼナはドズルに「いけないのです?」と2度問いかける。しかしドズルは問いには答えず話をはぐらかす。

「大丈夫だ、案ずるな」とゼナを安心させる言葉をかけつつ、「ミネバを頼む。強い子に育ててくれ」と言うドズル。セリフの内容からしてドズルの覚悟はすでに決まっている。

ゼナもそのドズルの覚悟を感じ、「・・・あなた」と声をかけるのが精一杯。

ゼナとミネバを乗せた船がソロモンから飛び立った。

ラスト、ドズルはデッキを移動しながら各部隊にテキパキと指示を出す。眼前には不気味に照らされる新兵器ビグザム。次回はドズル自らが新型モビルスーツ・ビグザムで出撃だ。

第35話の感想

今回もてんこ盛りだったが、今回はなんといってもドズルである。

ギレンからの補給が乏しいことに腹を立てている描写からは、直情的で気分屋で部下にも当たり散らすような人間なのかとも思えたが、ドズルはそういう人物ではなさそうだ。

戦場での指揮はテキパキとしており、戦況の把握も的確だ。取り乱したり部下を怒鳴り散らしたりといったこともない。常に冷静沈着だ。もちろん内心焦りや不安はあるであろうが、そうしたものは一切見せない。有能な指揮官である。

戦闘中ちょいちょいプライベートスペースに引っ込み、家族と会話をするシーンも印象的だ。その際もハッタリを言ったりして常に家族を安心させることを最優先している。

ドズルは自分のことを「私は軍人だ」と評していた。ここで想起されるのは、第11話「イセリナ、恋のあと」でガルマのことを「あやつこそ俺さえも使いこなしてくれる将軍にもなろうと楽しみにもしておったものを・・・」というシーンである。

第11話の感想でも書いたが、ドズルはガルマの人を惹きつける魅力を見抜き、ゆくゆくは自分をも使いこなしてくれるような偉大な指導者になることを期待していた。ドズルは弟であるガルマに使われる未来を思い描いていたのだ。

逆に言えばドズルは自分がどういう人間で、何に向いており、何に向いていないかをよく知っていたのだ。

第34話「宿命の出会い」で「ドズル中将もコンスコンも目の前の敵しか見ておらん。その点キシリア殿は違う。戦争全体の行く末を見通しておられる」というシャアのセリフがあった。

ドズルは戦争の現場ではきわめて有能な指揮官として振舞うことができる。しかし、言ってしまえばそこまでの人物であり、戦争全体を考える力はない。そしてそのことをドズル自身よく理解している。

こう考えてくれば「私は軍人だ」というセリフには「私にはこういう生き方しかできないのだ」という悲哀めいたものを感じる。そういう自分の人生に巻き込んでしまった家族への申し訳ない想いもにじませる実に深いセリフだ。

「行け、ゼナ!ミネバと共に!」というセリフはドズルの覚悟を明確に示したものだ。ミハルの「この仕事が終わったら戦争のない所に行こうな、3人で」というセリフと対比すればその意味がより明確になる。

ドズルの中にはゼナ、ミネバと3人で生きていくという未来像はない。ドズルは軍人としてここソロモンで散っていく覚悟なのだ。

さて、次回はビグザムの登場である。ドズルがどのように散っていくのかも見所だろう。ぜひガルマに負けない死に様を見せてもらいたい。

次回予告を見ているとスレッガーに関しても「おやっ?これはまさか・・・」という感じもしないでもない。

次回も楽しみである。


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