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多様性に対して自らをひらき学んでいく場や関係性を構築していく

 次年度から担当する教育フィールド体験科目が、初年次教育となることもあって、『進化する初年次教育』(初年次教育学会編、世界思想社、2018年)を読む。

 初年次教育は、「レポート・論文などの文章技法」や「図書館の利用・文献検索の方法」を教え、「プレゼンテーション」や「ディスカッション」に取り組み、「大学教育全体への動機づけ」や「論理的思考や問題解決能力の向上」が図られる。本学でも、「大学教育入門セミナー」が1年生の前期に位置付けられている。初年次教育は、大学生になることを支援するプログラムだというイメージがある。そこには、高校までの学びのあり方を脱学習し、学生の授業観や学習観を変革していくことが期待されている。教員養成教育では、学生の学習観や授業観の転換は、小学校や中学校の授業を改革していくうえでも、重要な役割を持っていると思われる。

 しかし、特定の科目を初年次教育として位置付けると、教職員の中に、初年次教育担当者とそれ以外という区分を生んでしまうという。教職員の当事者式の問題である。初年次教育は、組織的な取り組みとして実践されて意味がある。少なくとも、教職実践基礎コースの教員で初年次の科目を担当する教員間の協働が必要なのである。教育フィールド体験科目そのものをどうするかだけでなく、カリキュラムマネジメントを図り、科目の位置づけや役割等を検討する協働が必要になる。たとえば、金沢工業大学では、特定の科目で技術者倫理教育を担うのではなく、それぞれの科目の中に倫理的な問題を埋め込み、カリキュラム全体で技術者倫理教育を行っている。カリキュラムデザインのFDが、求められているのである。

 本書から学んだ点は、次の2点である。

 一つは、初年次教育の役割は、高校からの受け身の学びから、大学生にふさわしい主体的な学びへ円滑に移行させるだけではなく、大学入学後の早い時期に卒業後のキャリアを視野に入れた動機付けが求められている点である。初年次教育には、学士課程を修了した後に生きていくことになる社会へ意識を向かわせる役割もあるというのだ。

 二つには、他者理解は、フィールドワークや当事者の話を聴くという決められた枠組みのなかで行われるものでもなく、ボランティアという思いやりの涵養を目的とした中でのみ行われるというものでもないという指摘である。他者にとっては自らも多様な人間の一人であり、多様性があればこそ、互いに学ぶこともそれだけ大きくなる。そのような多様性に対して、自らをひらき、学んでいく場や関係性を、初年次教育から構築していくことの重要性である。学生個々の能力をどう育むかではなく、多くの科目をともにする学生同士の関係性や場を育み、論理的なコミュニケーションが成立する空間をつくり出すことが求められている。

 そのさい、ワークショップにおいて、戸惑いを感じている学生への声がけを行ったり、ペアワークのパートナーになったりするT・Aの活用を考えたり、振替シートを用意し、印象に残ったことや疑問に思ったこと、不安に思ったことなど、自分や他者に対する気づきを記録化し、複数の教員の目を通すことで、安心して課題に取り組む「みまもり」機能を確保することが参考になった。

 新しく設定する科目のデザインに、新鮮なヒントをいただいた。

 

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