現代遊戯王におけるデッキ枚数論 ~初動のために誘発を削るな~

はじめに

初めまして、わにしまです。
最近約20年ぶりに遊戯王にハマっています。
というか、20年前は召喚権の概念や魔法と罠の違いすら理解していない状態だったので、ある意味人生で初めて遊戯王をプレイしています。

そのきっかけとなったのはYouTubeでの配信者さんたちの動画な訳ですが、その中で妙に気になったのが

「みんな、やけにデッキ枚数を40枚に抑えたがるな?」

ということです。

無論、「特定の札をピンポイントで引き込みたい」というのなら話はわかります。それが制限カードだったりするのならなおさらで、デッキ自体の枚数は極力抑えた方が確率は上がるでしょう。
しかし、「初動(や妨害)が何パターンかあり、どれを引いてもよい」という場合は話が違ってくるはずです。

というわけで今回は「実際のところ、デッキ枚数を抑える必要性は本当にあるのか?」について考察してみたいと思います。


カードの種類

デッキ枚数論を考えるにあたり、まず最初に「遊戯王におけるカードの役割」について整理したいと思います。
現在の私の知見では、特に初期手札5枚において、カードの役割はざっくり以下の3種に大別できます。

  1. 初動

  2. 妨害(手札誘発)

  3. その他

初動

デッキのギミックを動かし始めるためのカード群です。
これがなければ話にならないため、先攻ではいかにこのカテゴリのカードを手札に引き込めるかが最初の勝負と言っていいでしょう。
なお、初動には1枚で機能する1枚初動や、特定のカードが2枚集まって初めて機能する2枚初動などがありますが、話を簡単にするために本記事では1枚初動のみを取り扱います。

妨害

相手の動きを妨害するためのカード群であり、デッキテーマとは無関係な汎用カードであることが多いです。
昨今の遊戯王においては、手札から妨害を飛ばす「手札誘発」が基本となっており、後攻ではこのカテゴリのカードをどれだけ引き込めるかが勝負となります。
なお、実戦においては伏せカードなども立派な妨害ですが、今回の議論においては重要な要素ではないため、本記事においては 妨害 = 後攻で用いる手札誘発 として取り扱います。

その他

ギミックの中継となるようなカード群や、メインデッキに入るタイプのフィニッシャーなどです。
初期手札としては引き込みたくないカード群であり、これらのカードが手札に入ってきてしまうとそれだけで事故札となります。


デッキにおける濃度

ここまで遊戯王のカードを「初動」「妨害」「その他」の3種に大別してきました。
ここで意識して欲しいことは、「初動」や「妨害」は、そのカテゴリに属するカードなら基本的に何を引いてきてもいいということです。

例えば、2024年4月現在MDにおいて環境を席巻している【罪宝スネークアイ】においては、《“罪宝狩りの悪魔”》《黒魔女ディアベルスター》《原罪宝-スネークアイ》《スネークアイ・エクセル》《蛇眼の炎燐》《篝火》あたりが1枚初動になるわけですが(多いな……)、これらのカードはどこから引いてきたところでその後の展開は大して変わりません。

逆に手札誘発としてのメジャーどころは《増殖するG》《灰流うらら》《無限泡影》《エフェクト・ヴェーラー》あたりですが、これらもどれを引いてきたところで仕事を果たしてくれます(少なくとも、それを期待できます)。

つまり、気にするべきはデッキ枚数そのものではなく、デッキ枚数に対する各役割のカード群の濃度のはずです。

40枚デッキにおける初動札4枚と50枚デッキにおける初動札5枚は大して変わらないのだから、初動や誘発を削るくらいならデッキ枚数を多くするという選択肢も考えられるのではないでしょうか?

そこでここからは、実際の計算結果をみながら初動・誘発あたりのデッキ枚数は何枚まで許容されるのかを考えていきます。

実際に計算してみる

以下に引きたいカードの搭載枚数と、デッキ枚数あたりの初期手札にくる確率を示します。
もう少し正確に表記すれば、引きたいカード群を役割(初動・妨害)によらず目的札と称した上で、
"m枚デッキにおいてn枚積みの目的札が初期手札5枚に1枚以上含まれている確率"
を計算しています。

以降面倒くさいので、この確率を f(n, m) と表記することにします。
例えば、f(3, 40) = 33.8% です。

計算結果

表1. デッキ枚数あたりの目的札が初期手札にくる確率
図1. デッキ枚数あたりの目的札が初期手札にくる確率_図示版


さて、実際の計算結果をみてみると面白いことがわかります。
初手で目当てのカードを引き込むという点において、「目的札増加のメリットに比べれば、デッキ枚数増加のデメリットは軽微である」ということです。

例えば、ここに40枚ピッタリで構築されたテーマデッキがあるとします。
このテーマに新弾が発表され、初動が1種3枚増加したとしましょう。
では、この新規初動カードのために既存の初動を削るべきなのでしょうか?

答えは「No」です。

上の表を見ればわかりますが、例えばこの40枚デッキの初動札が現在9枚だったとして、これが45枚デッキになったところで

f(9, 40) = 74.2% → f(12, 45) = 80.6%

と、3枚の初動だけでなく2枚の不純物を許容してなお初手確率は上がっています。

これは別に初動9枚、デッキ40枚に限った話ではありません。
以下に  f(n, m) → f(n+3, m+5) の差分をまとめた表を示します。

表2. f(n, m) → f(n+3, m+5) の差分ポイント

見てわかる通り、どの関係においても負の値が出てきません。
もっというと、そもそも f(n+i, m+i) - f(n, m) は n < m である限り常に正の値をとります。

つまり、純粋に初動を増やせるのならば、そのせいでデッキ枚数が増えても気にする必要はない(むしろ初手確率は増加している)ということです。

当然、初動を手札誘発に言い換えても同じです。

初動の代わりに誘発を削る?

今の話は新規初動 vs 既存初動という観点だったのでまだわかりやすかったかもしれませんが、実際には新規初動のために手札誘発を削るという選択肢もあります。
このケースはどうでしょう?

実は、同じ表から初動を増やした際、デッキ枚数維持のために手札誘発を削る必要もないことがわかります。

例えば40枚デッキに12枚の手札誘発が入っていたとしましょう。
初期手札5枚に1枚以上の誘発を引き込む確率は f(12, 40) = 85.1% です。

ここで新規の初動を3枚入れるために手札誘発を3枚減らしたとします。
その場合、構築後のデッキで手札誘発を引き込める確率は f(9, 40) = 74.2% です。
この確率は f(12, 45) = 80.6% を下回っています。

つまり新規の初動3枚どころか、不純物2枚を入れてなお、デッキ枚数を膨らました方が初手で誘発を引ける確率が高いのです!

ちなみに、この場合は一般化すると f(n, m+i) と f(n-i, m) の比較になりますが、これも常に f(n, m+i) の値の方が上回ります。

「デッキ枚数を気にするあまり肝心のアタリ札を減らしてしまうのは、むしろ大損である」ということがよくわかるでしょう。

まとめ

今回の結果から「デッキの枚数を抑えるために初動や誘発を削るのは、むしろ損である」ということがわかりました。
デッキ枚数が増える罪より、目的札が減る罪の方がより重い、ということです。

もちろん、例外はあるでしょう。
例えば、デッキの全てがコンボパーツで構成されているロマン型デッキや、先攻ワンキル特化型デッキなどでは、不純物であるコンボ外の手札誘発を積むとむしろ勝率が落ちてしまうかもしれません。

ただ、そうでない大半のデッキにおいては、たとえそれが環境外のファンデッキであったとしても、デッキ枚数を抑えるということに神経質になりすぎない方がよさそうです。

初動に恵まれているような環境テーマなら特に「デッキ40枚に収まりきらなくなるけど、もうちょっと誘発積んでおくか」という判断は、かなり検討の価値があるでしょう。

この記事の限界と今後の課題

最後に、この記事で考慮できていないことについて触れておきます。

まず第一に、特定の役割を持つカード群の濃度をある程度自由に操作できるケースしか考慮できていません。
つまり「手札に引き込みたいカテゴリのカードプールが現代遊戯王において豊富に存在しない」場合は、当然ながら無力です。

妨害カードはテーマを選ばずに豊富な選択肢を持てますが、初動札の場合はテーマによってはそうもいきません。
また、《墓穴の指名者》《抹殺の指名者》といった規制がかかっているメタカードなどを少しでも初手で引き込みたい、という場合もやはりデッキ枚数は少なめに抑えた方がいいでしょう。

とはいえ、2種3枚の指名者カードを40枚デッキに積んだところで先攻で握れる確率は f(3, 40) = 33.8% であり、これと f(3, 45) = 30.4% の 3.4ポイント差が勝率にどの程度の影響を及ぼすのかはデータ不足につきよくわかりませんが。

第二に、カードごとの価値の差を考慮できていません。
実際のところ、例えば一言で「手札誘発」といっても《増殖するG》とそれ以外のカードでは明らかに頭一つ違う価値があります。
そのため、より実践的には上記の《墓穴の指名者》のようなケースも踏まえた上で、「あるカードが初期手札に来たときの勝率」をデータとして取得し、それぞれのカードごとに価値基準を重み付けした上で「この程度までならデッキ枚数を膨らましても、このカードを採用した方がいい」というラインを決めなければいけないでしょう。
これについても、大量の実戦データがあればある程度判断がつくかもしれませんが、そもそもデータ収集が現実的には難しいでしょう。

第三に、最初に書いたように今回の記事では1枚初動しか考慮していません。
実際には、特定のカードと組み合わさって初めて動作する2枚初動のようなケースも多々あるため、これらのケースは考慮されるべきでしょう。

この観点でさらに言及するのならば、今回の記事は初動と誘発をそれぞれ独立に考えています。
そもそも実戦においては「初動と誘発が、それぞれ最低1枚ずつ欲しい」というニーズも強いでしょう。
(このケースも「1枚初動と手札誘発の2枚初動」と解釈すれば2枚初動と同様の計算で求めることができます)

この問題に関しては完全に机上の計算で完結するため、もし次回があるとすればこの点について考えていきたいと思います。

以上、ここまで長々とお付き合いいただきありがとうございました。
本記事が少しでも皆様の遊戯王ライフの役に立つことを願っております。


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?