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巨樹に親しむ 野間の大ケヤキ by 前中久行(GEN代表)

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 どの地域であっても比較的身近に大きな樹木があります。大きな樹木をみると感動します。その大きさとともに経過した悠久の年月へ想いがいたるからでしょう。今回は大阪府にあるケヤキの巨樹を紹介します。寄生しているヤドリギもとりあげます。
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 2月と3月のGENなんでも勉強会では、ヨーロッパの巨樹や森林が取り上げられています。2月の勉強会では、ミュンヘン市内に点在する巨樹についてお話しいただきました。彼の地での人と森林の関わりについて興味深いお話でした。https://www.youtube.com/watch?v=v-_oc6Hch0o&t=1s
それにあやかって、今回は、私が保護増殖に関係している巨樹、大阪府能勢町にある野間の大ケヤキを紹介します。

 元は有無(アリナシ、蟻無)神社があったのですが、明治の終わり(1907)に野間神社に合祀されて、ケヤキと祠が残りました。その後も地元の人々に守り育てられてきました。1948年に国の天然記念物に指定されました。独立木で圧倒的な大木です(写真1)。周りが比較的開けていて木全体を見渡せる景観が素晴らしいです。

 現地の説明板によれば幹回り約14m(円周率で割って直径に換算すると4.5m)、高さ30m、枝張は南北38m、東西42mです。

 大阪府全誌第3巻(1922)によれば有無神社の「槻の大木は繁茂して幹圍拾數尺に及べり」とあります。この記載の根拠原典とその年代はわかりませんが、周囲長がせいぜい5 m程度だったことになります。5mが現況の14mにまで成長するか?とも感じますが、ケヤキは比較的成長が早い樹種でありケヤキの生育適地であること、大ケヤキの現状の根元は数本の幹が合体癒合した合着木で、合着すると幹は突然太くなります。このようなことから十数尺から現状への成長はありえると考えています。

 大阪府あたりではケヤキ(Zelkova serrata (Thunb.) Makino)の天然木の生育は谷筋の湿ったかつ排水の良い崩落堆積土に限られます。樹形も丸っこいのが普通で関東地方のホウキ型樹形と異なります。大ケヤキは谷筋を流れてきた川が平野に開けた直後の自然堤防地にあり大阪地方における典型的なケヤキ生育地です。

 初夏にはこのケヤキの洞ではフクロウやアオバズクが子育てします。隣接する能勢町けやき資料館では、ケヤキに関する資料や枯れた旧主幹の年輪断面などが展示されています(火水曜は休館)。

 冬にはキレンジャクの群れがやってきてケヤキに寄生するヤドリギ(Viscum album L. subsp. coloratum Kom.)の果実をついばみます。ヨーロッパとくに北欧では、落葉樹についているヤドリギの葉が冬も緑を保っていることから生命の存続と復活の象徴と考えられてクリスマスの植物として飾られています。植物体は金緑色とでもいうような一種独特の色です。世界の信仰慣習や民俗情報を集積したフレイザーの「金枝篇」の書名はヤドリギにちなんだものです。

万葉歌人大伴家持の歌「あしひきの山の木末(こぬれ)のほよ取(と)りてかざしつらくは千年(ちとせ)寿(ほ)くとそ (万葉集4136)」の「ほよ」はヤドリギです。挿頭(かざし)として身につけその生命力にあやかることを願った歌です。

 冬空に枝条を広げる大ケヤキに点在するヤドリギをみる時(写真2)、私はヤドリギの植物生態とともに人間生活との深い関わりに感慨をおぼえます。

 ヤドリギは常緑の半寄生植物で、根が寄主植物に侵入し水と無機養分を吸収します。炭水化物は葉で光合成して生育するので半寄生といいます。ヤドリギが水と無機栄養を大ケヤキから取っているのでなんらかの影響があることは確かです。その影響が耐えられる範囲内か致命的かが問題になります。

 野間の大ケヤキではケヤキ本体が天然記念物に指定されていることから現状変更の許可を受けたうえで、ヤドリギを除去しています。

 ヤドリギの幹や枝は毎年1節ずつ成長するので節数を数えることで樹齢がわかります(写真3)。2023年に除去したヤドリギの樹齢との平均個体生重量の関係は、3年:14グラム、4年:50、5年:133、6年:260です(図1)。前回6年前に除去したので樹齢7年以上のヤドリギの実測値はありませんが7年以後はさらに急激な増加が予想されます。2023年の1月に除去したので現状ではヤドリギは目立ちません(キレンジャクさんごめんなさい。ヤドリギを身近に観察したい方には京都伏見の水路沿い遊歩道をおすすめします。複数の種類の木にヤドリギが寄生していて数メートルの距離で観察できます)。

 最近15年間以上は大ケヤキ全体の姿に大きな変化はありません。葉や小枝の繁りはむしろ密度が高くなったと感じています。枝枯れや強風による枝折れも発生しますが大木なのであるのが普通です。地域の人々と来訪者の注意深い観察と対応と気遣い、それに周期的なヤドリギ除去の効果が相まって大ケヤキは健全に繁茂し続けています。

 

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