走る!

 廊下を走るな。言われてるけどさ、走るよね。
 前を見てもずーっと同じような景色、左に校庭、右に教室の窓、あ、はっきり分かるわけじゃない、なんとなく記憶にあるような、昔見たような、あれ、もしかして、夢かなこれ、そう思いながら走る走る! 
 多分ずっと走っていて、だから肺が焼けるように熱くて、ハアハア荒く呼吸してるのに、頭ン中、酸素は足りてない。こっちでいいのかな、目的地、方向はあってるのかな、思うのだけど、ただまっすぐな廊下がずっと続いている。だから、とりあえず前方へ、だってさ、なんか、ほら、後ろ、ちょっと湿ったような音が、ピタピタって感じで、追いかけてくるような来ないような、はっきりしないから振り向きたいけど、でも多分振り向いた瞬間に何かが決定的に決定する、なんてことあるでしょ? ヤな感じの生臭いやつが、もっとはっきりとした怖い奴になる、きっとそう。
 だからずっと走っていて、それでも廊下はずっとまっすぐ続いていて、校庭は夜のようにひっそりとしていて、教室の窓もずっと、さっきからたくさんの窓が閉じられただけで、あ、これが突然ばっと開いたら、多分血のりのようなものにまみれた何かがどひゃっと出てきそうで、そう考えると少し校庭側の方に移動しながら、とにかく走る走り続ける。
 とは言え校庭側の窓からはごろごろと遠い雷のような、あるいは巨大な意地悪な竜のいびきみたいな音が低く聞こえてきていて、やっぱりそうなると真ん中だよ、真ん中をとにかく走る。
 早くどこかにたどり着かないと、ほら、もう目が覚めちゃうじゃん、って多分僕はもう目覚めたくはないんだね。

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