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ヒコロヒーはもう「成功を怖れない」

ヒコロヒーの「覚悟」
・ヒコロヒーが、番組制作のスタッフまでも綿密に事前検討する「仕事術」を披露した「太田上田」という番組でしたが、それの4分ぐらいの限定youtubeが、追加して6月12日に公開されて、そのなかでヒコロヒーは「もはやワシはスターになることを怖れないぞ!」「成功を怖れない!」と高らかに宣言していました。
 テレビでのタレントとしての成功を拒否し、あくまでお笑いを追及するという芸人のある種のステレオタイプがありますが、若いころ固執していた、そういう狭いステレオタイプから脱却するんだという「覚悟」を、みずから表明してみせたわけです。テレビに出るようになって、求められたきれいごとを言う自分に、「ゾンビ化しているのではないか」という不安をちょっと前は述べてもいましたが(@「岩場の女」#45)、それを吹っ切ったということなのでしょう。
・また、関西における吉本独占の中での、松竹芸能の芸人たちが持つ遠慮・引け目感に由来する「弱者芸」への批判も、ヒコロヒーは口にしていました。「弱者」の目線のもとずく芸能・文学は、考えてみれば自然主義からはじまる日本文学の歴史においてむしろメジャーであったとさえいえるでしょう。そんな深みを持つ「弱者芸」という言葉を選ぶ彼女のセンスに、ちょっと感動しました。
・ともあれ、ヒコロヒーは、あたらしいステージに到達してその「覚悟」を「成功をもう怖れない」というすばらしいフレーズでまとめてみせたのでした。たぶん「太田上田」のスタッフもその意気を感じたからこそ、あえてそこの場面を切り取って遅ればせながら配信したに違いありません。
・「金借りチャンネル」からはじまって、この1年間でのヒコロヒーの芸能人すごろくの進み方のスピード、成り上がり方を、リアルタイムで目撃している私たちファンにとっては、今はまさに至福の時だと思います。まるで「ヘタレ」から「スキャンダル」「総選挙1位」へと駆け上がっていったころの指原と同じような幸福感をファン(自分)に与えてくれています。そして、演技や文章、映画製作までヒコロヒーのポテンシャル、「伸びしろ」は、まだまだ大きそうで、楽しみです。

余談その1:ヒコロヒーはちゃんとみなみかわをフォローしている
・最近の話題でいえば、かつてヒコロヒーと漫才ユニットをつくってM1に出て、ヒコロヒーが世に出るきっかけを作った松竹芸能の先輩のみなみかわという芸人の急激な露出でしょう。
 性格にくせがあり、つねに敵を作り続けて、自分が所属する松竹芸能の不満を公表してまわる芸人に、会社が助けないのはある意味当然ですが、それを不満に思ったみなみかわの奥さんが、みずからオファーDMを吉本の東野さんに送り付け、それを面白がった東野と千原ジュニアが、youtube番組に出演させてあげるという流れになっています。地上波のテレビにも最近、徐々に出るようになってきました。
 さらばの森田は当初、ヒコロヒーは先輩みなみかわとの関係をスパっと切った、と言っていましたが、じつは、ヒコロヒーをここまで売れっ子にした敏腕マネージャー(たぶん、さまーずチャンネル・ヒコロヒー初回出演時に出ていたきれいな小柄なひと)が、ヒコロヒーに頼まれて、いやいやながら、みなみかわのマネージャーになって、売り込んでいることが判明し、最近の急激なTV露出の理由が明らかになりました。  
 旦那の売り込みDMを勝手に送り付けるという「痛い」奥さんについても、昔から親交のあるヒコロヒーは、むしろ好きなことに純粋に邁進する、天真爛漫な性格であると、みなみかわを招いた自分のFMラジオ(@東京FM「キュリオシティ」#11)できっちり擁護してみせています。
 自分自身の大変な忙しさの中、性格に問題のある先輩芸人のフォローをここまできちんとこなしているヒコロヒーは、さすがですね。

余談その2:システム構築者としての千原ジュニア
 みなみかわがイタイ奥さんの売り込みによって、夫婦で千原ジュニアのyoutubeに出演して、数々のエピソードを披露していました。奥さんのDMを送りつける癖は、13年前にTVで見たみなみかわに運命を感じてメールを送った時から始まっていたという話は、ヒコロヒーも言っていたように、奥さんの好きなものに邁進していく純粋な性格をよく表していました。そしてそういう奥さんに引きずられているみなみかわも、単独で出ている時のひねくれた性格の悪さが影を潜めて、光代社長を前にした太田光のように、なんかいい感じでした。
 そして何よりも、「夫婦セット」での面白さを発見して、プレゼンテーションしてみせたのは千原ジュニアであり、彼の、芸人単独ではなく、立ち振る舞いや出方の演出、流れ全体をシステムとして面白がって提出してみせる能力が、鬼越トマホークの喧嘩芸以来、再びここで発揮されたというべきでしょうか。千原ジュニアがここで確立したスタイルは、早速TVプロデューサーの佐久間さんのyoutubeでも、みなみかわ夫妻での出演で、見事に展開されていました。

余談その3:「芸人」とは職業ではなく「形容詞」である
 みなみかわの売り込みのプロセス自体がエンタメとして楽しめるように、芸人の芸そのものよりも、芸人をめぐる情報、性格とか人間関係とか生活とかを面白がって楽しんでしまうことがあります。アメトークとかロンハーはむしろそっちを見せる番組だし、なんならテレビ番組での芸人の出方においては、(ネタ番組は少ないので)、ネタという芸ではなく、芸人の個性・タレント性そのものを見せることが求められています。芸やネタを競いあう賞レースは、単にきっかけに過ぎません。ヒコロヒーもまさに賞レースでの結果なしにここまで売れてきました。
 寺山修司はかつて、「詩人」というのは「美人」のような形容詞なのではないかと書いていました。実際に「詩人」を職業として生活できる人はごく少数なので、このように本来の職業とは別に、自己表現の手段として、「詩人」であることを「形容詞」として割り切ることも大切でしょう。だとすれば、「芸人」もまた職業というより「形容詞」や「個性」として割り切って、本来の生活手段とは別に、追求されていくべきものといえるでしょうか。じっさい、小説家など印税だけで食べられている人は日本では50人くらい?だと、たしか林真理子がいっていたと記憶していますが、芸能人もそこまで少なくないにしても500人くらい?でしょうから、ますます「形容詞としての芸人」というスタンスの自己認識を明確に持つことが重要だといえるかもしれません。
 かくいう自分もまた、かつて会社で勤めていた頃、建築デザインを担当していましたが、まあ「デザイナー」とか「建築家」とかは、職業というより、その時々に立ち現れる「形容詞」のようなものでした。


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