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かっこいいフレーズpart3「時は積み重なる」

今度こそ、軽薄で楽しいフレーズを集めてみようとはじめたが、蕪村の好きな句を並べることになった。「引用の織物」だからこれでもよいのだ。

●細谷厳のCM
・「人は変わり、町は変わった。荒野では何も変わらない。」
・「地平線はただの風景ではない。それは心の状態だ。」
・「愛する人がいる。しかし今はひとりだ。」
・「ドライマティーニを2杯飲んでいるうちに街は雪になった。」
・「ラストシーンのように愛し合う。」
・「時は流れない。それは積み重なる。」
(2009年8月のギンザグラフィックギャラリーでの「細谷巌展」より)
「時が積み重なる」というイメージから、「遅き日のつもりて遠きむかしかな」という蕪村の俳句を思い出す。

●「遅き日のつもりて遠きむかしかな」(蕪村)
・与謝蕪村(1716-1784)は江戸中期の俳人、画家だが、いまでもはっとするようなモダンな句を残している。100年の忘却ののち、子規に発見され朔太郎に評価された。
・「愁ひつつ岡にのぼれば花いばら」
・「路たえて香にせまり咲くいばらかな」
→近代の青年のような若々しいロマンチシズム。
・「陽炎や名も知らぬ虫の白き飛ぶ」
→幻想的な象徴詩のようだ。
・「海手より日は照りつけて山ざくら」
・「春の海ひねもすのたりのたりかな」
・「菜の花や月は東に日は西に」
・「山は暮れて野は黄昏の薄かな」
→視線が高く俯瞰的に景観がみえているところがモダン。
・「月天心貧しき街を通りけり」
・「さみだれや大河を前に家二軒」
→視線が高いのと同時にそこに心情ものっている。
・「牡丹散ってうちかさなりぬニ三片」
・「朝顔や一輪深き淵のいろ」
・「白露や茨(いばら)の刺(とげ)にひとつづつ」
→琳派や速水御舟の、鮮やかで緊張感のある静物画のような描写。
・「花に暮れて我家遠き野道かな」
・「花に暮れぬ我すむ京に帰去来(かえりなん)」
・「遅き日や都の春を出てもどる」
・「葱買うて枯れ木の中を帰りけり」
→芭蕉は一筋の道を行き、蕪村は幾筋もの路を帰る。
・「此の道や行人なしに秋の暮」(芭蕉)
・「旅人と我名よばれん初しぐれ」(芭蕉)
芸術の追求と実践において、芭蕉の求道者のような厳しさと対比して、蕪村の生活者としての優しさもまたあってよいのだと思うのである。
・「うずみ火や我かくれ家も雪の中」
→しんしんと雪に降り込められた村落の住宅に、ひっそりと埋もれてささやかに生きていくかんじが蕪村らしい。これが「遅き日のつもりて遠き昔かな」のゆっくりとした時間経過につながる。
・「ゆく春やおもたき琵琶の抱き心」
→何か物憂げな春のかんじが妙に艶っぽい。漱石の「吾輩は猫である」に
・「秋淋しつづらに隠すバイオリン」
という句があったのをなぜか思い出す。


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