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結局、「腐ったリンゴ」は取り除くことができなかった

前回に続いて、今回も私が最後にお世話になった会社での話である。

私は派遣社員を15年続けた後に、縁あってあるエンジニアリング会社に就職した。その会社が私の会社員人生最後の職場となる。

会社に就職すると私は、3支店のうちでもっとも規模が小さいA支店に配属された。A支店は他の支店が真似のできないような、優れた技術をもつ部隊を抱えていていた。

そのせいで規模は小さいながらも一人当たりの売り上げにおいては他の支店を大きく上回っていたのである。そしてその技術部隊の中心的な存在がX係長だった。

彼は、自らの技術力に大いなる自信と誇りを持っており、上司の指示にも従わずに、自分勝手に案件を処理していた。また部下にも高慢な態度で接し、いわゆるハラスメントを平気で行っていた。

しかし上司は彼にそっぽを剥かれると業績に大きく影響を及ぼすために、逆らうことができない状態だった。

当初私は一般管理職だったために、この状況を横目で見ながらも、自分の仕事だけをこなすことに専念していた。

ところが配属されて1年半が過ぎて、こともあろうか私はその技術部隊の担当室長に就任したのである。つまり、問題のX係長の上司になったわけである。

私は入社1年半の新参者である。そんな私の指示に彼が従うわけもなく、その自分勝手な行動はさらにひどくなっていった。

そんな折に、私がたまたま目にしたのが、プレジデント誌に掲載されていたジャック・ウェルチの記事だった。

要約すると実績は上げるが、組織の価値(企業が社員に期待している「行動」)を実施しない社員を愚か者、「腐ったリンゴ」と称し、組織を腐敗させる彼らはすぐに辞めさせなければいけない、というのである。

私はこの話に大いに共感した。しかし日本の企業では、そう簡単に社員を解雇することはできない。

そこで、他の支店の関係者の理解を得て、X係長をA支店から最も遠方のB支店の営業に異動することにした。支店も執務分野も異なる環境に放り込めば、さすがの彼もおとなしくなるだろうというのが私の思惑だった。

ところがX係長の異動日と時を同じくして、私自身がC支店に異動することになってしまったのである。A支店のことは心配だったが、さすがのX係長も今回の異動を乗り越えて、A支店に口出しをすることはないだろうとたかをくくっていた。

甘かった。

X係長は私がいないことをいいことに、営業活動という名目で頻繁にA支店を訪れ、かつての部下に指示を出していたのである。

そして、やがて技術的な部分にまで口を出すようになっていった。私の後任の室長は事なかれ主義で、そんな彼に逆らうことはしなかった。

数年が経ち、彼は所属こそ営業ではあるが、技術分野への強い影響力を盾に後任の室長を抱き込み、なんとA支店の係長に返り咲いたのだった。

私が異動さえしなければ、問題が解決していたかどうかはわからない。ただ、「腐ったリンゴ」というのは、きっぱりと会社から排除しないと、いつかは「元の木阿弥」になるということを思い知った。

その後しばらくして、X係長は役職が解けると同時に早期退職をした。係長を退き、わがもの顔で振る舞うのもそろそろ潮時だと知ったのだろう。

そしてようやくA支店は適切な指揮命令のもと、組織の価値を実施する集団へと変貌できたのである。

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