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炭酸刺繡 セピアの音色 青ブラ文学部

ぼくはテコでもここを動かない
何年 春ちゃんを守ってきたと思ってるんだ

そりゃあ このごろは
一緒に遊ぶこともなくなったし
健康診断もスルーだけど
それでも きみは
ぼくを捨てようとはしなかった

リズムがぶっこわれて 暴走したときには
ふたりで笑いころげたり
うまくできなくて 譜面をやぶくきみを
しずかになぐさめたり

セピア色の桜みたいに もう手の届かない
思い出にひたるぼくに
にーちゃんとオッサンがせまってくる
ぼくは足を踏んばり 身を固くする

床にマットを敷いて ぼくの両端にたすきをひっかけて
なんでもない顔でひょい
第三の男がめんどうそうに 
台車を差し入れて
ころころとあっけなく
ぼくは 春ちゃんからひきはがされた

トラックに積みこまれたぼくの
なさけない後ろ姿を
きみは どんな思いで見つめていたのだろう

さようなら 元気でね
きみは もっと大きくなるよ
これからは 名だたるツンツンした先輩たちと
音で会話を楽しんでください

おうえんしています
いつまでも ずっと
きみにとって 
はじめてのピアノより

(おわり)

波の泡が
ソーダみたい
セピア色の音
思い出はボトルのなか

青ブラ文学部に参加いたします よろしくお願いいたします

*「炭酸刺繡」とは…
架空の詩集の表題
わたくし藤家秋の小説「Re:逃走癖女神」の主人公/元天才詩人が、挫折を経て10年ぶりに発表した復帰作のタイトル
字面と音が気に入っております

#青ブラ文学部 #セピア色の桜 #ピアノ #私の作品紹介 #詩 #賑やかし帯 #炭酸刺繡 #コラージュ

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