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アルビノのチンパンジーが生後すぐ群れのメンバーに惨殺される

アルビノのチンパンジーが生後すぐ群れのメンバーに惨殺されるケースが、スイス・チューリッヒ大学の研究者によってはじめて観察されました。なぜこのような出来事が起こったのでしょうか。

アルビノとは

アルビノは先天性白皮症(先天性色素欠乏症)と呼ばれ、生まれつきメラニン色素が欠乏する遺伝子疾患です。原因は解明されておらず、環境ストレスなど、いくつかの要因が考えられています。

アルビノは脊椎動物、特に哺乳類では非常にまれです。ヒトでは1,700~20,000に1人だと言われています。それでも、他の霊長類や哺乳類よりも確率は高いほうです。ヒト以外の霊長類では、トクモンキー、クモザルなどの数例が知られています。類人猿にいたってはたったの3例だけです。

1966年、アルビノのニシローランドゴリラが子供の時に捕らえられています。このオスのゴリラは「スノーフレーク」と名付けられ、スペイン・バルセロナ動物園で飼育されていました。また、インドネシアのカリマンタン島では2017年に、アルビノのオランウータンが村人にペットとして飼われているのが見つかりました。その後、このオランウータンは野生に帰されています。同じく野生のメスのニシチンパンジーが捕らえられ9歳まで生存していましたが、何らかの理由で亡くなっています。

しかし、今回のようにアルビノの類人猿が群れのメンバーに殺害されるケースが観察されたことはこれまで一度もありませんでした。

アルビノの個体は野生下で生きていくにあたって様々な困難に直面します。彼らは大人になるまで生き抜くことが難しいのです。

この理由には、まずはじめに、目立つので捕食者に見つかりやすいということがあげられます。

次に、身体的疾患、特に視力障害などを伴うことが多くあることがあげられます。これは色素欠乏があるため光を受容できないことが原因です。また光を集めることができず、過度にまぶしく感じてしまう羞明(しゅうめい)という症状もあります。同じくメラニン色素欠乏のため皮膚が紫外線に弱く、アルビノの個体はガンにかかりやすい傾向にあります。

最後に、同種間での正常な交流がとりにくいことがあげられます。イタチザメやシビレエイの仲間では、アルビノの個体は配偶相手に選ばれにくいことがわかっています。鳥類ではアルビノの個体に対して好戦的な態度と寛容な態度の両方をとったものが観察されています。しかし、その他の種ではアルビノの個体が社会的な交流においてどのような影響を受けているかははっきりとわかっておらず、ヒト以外の霊長類ではまだ研究がされていません。

背景

今回のアルビノの子殺しはアフリカ東部ウガンダ・ブドンゴ森林保護区に生息するソンソコミュニティと呼ばれるケナガチンパンジーの群れで起きました。ケナガチンパンジーとはアフリカ東部に生息するチンパンジーの亜種で、ヒガシチンパンジーとも呼ばれ、その名の通り、他のチンパンジーよりも毛が長いのが特徴です。ちなみにボノボはチンパンジー属に分類されますが別種になります。

この森林はウガンダの北西に位置し、この鬱蒼と茂った熱帯雨林の中で、ソンソコミュニティはおよそ6㎢ほどの縄張りを持っています。大人、若者、子供など様々な世代のチンパンジーが75頭で暮らしています。このコミュニティは1990年からチューリッヒ大学によって毎日観察されていました。この大学は主に、チンパンジー同士のコミュニケーションについて研究していました。そのため、アルビノに関する専門的な知識は持ち合わせておらず、今回のケースは偶然発見されたものです。

アルビノの赤ん坊と群れとの初めての接触

それでは次にこの群れとアルビノの赤ん坊との初めての接触ついて言及していきます。2012年、推定年齢19歳の若いメスがソンソコミュニティに移ってきました。そしてこのメスは2017年に初めての子供を産んでいます。しかし、この子供は生後2日で群れのオスによって殺害されてしまいました。2018年1月、彼女が再び妊娠していることがわかります。

そして、2018年7月15日、白い赤ん坊を抱えている母親に向かって、2頭のチンパンジーが吠えているのを研究者が発見されます。この時、赤ん坊は生後19日ほどのオスだと推測されています。この2頭が発している吠え声はヘビやカワイノシシ、もしくはなじみのない人間など、彼らが危険だと判断した動物に遭遇したときに、仲間に知らせるために出す警戒の声になります。

この声を聞きつけて現れた1頭のオスが突然、母親に突進してきて殴りつけました。この時、母親が叫んだため、驚いたオスは木の上に逃げていきました。そして、木の上から吠えながら母親を見つめていました。そしてまた別のオスが現れ、母親の近くまできて吠えました。その声に恐れた母親は木の上に逃げました。さらに今度は年配のオスが現れ母親に近づいていきました。しかし、この個体は落ち着いていて、全く吠えませんでした。ただ、赤ん坊を注意深く観察していました。今度は別の若いオスが母親に近寄っていきます。このオスに対し母親は手を振り威嚇しました。これに驚いた若者は逃げていきました。今度は別の大人のオスが現れ、母親を安心させようと手を伸ばしました。母親はこれに反応して彼と握手しました。しかし、また別の大人のオスが現れて警戒の声を上げ出したため、母親は森の奥へと消えていき、この日は彼女を見ることはありませんでした。

殺害

それから4日後の7月19日朝、母親がこの群れに戻ってきました。はじめ、茂みの奥にいたため見えませんでしたが、赤ん坊の叫び声が聞こえたので、この子の身に何かが起こっていることがすぐわかりました。その後、アルファオスがアルビノの赤ん坊を持って茂みから出てきました。群れの他のチンパンジーもそれについて出てきました。若い個体や、大人の個体、オスやメスなど全員が叫んでいました。そしてこの子は無残にも惨殺されてしまったのです。

群れのチンパンジーによるアルビノの観察

その後、群れのメンバーがかわるがわるに死体に集まり、この子の体を調べ出しました。最終的に16頭がこの場に集まり、そのうち10頭が死体に触れて観察することとなります。彼らはみな頻繁にこの赤ん坊のにおいをかいだりして、何か情報を得ようとしているようでした。特に毛に対する関心が強く、毛を引っ張るなど、この赤ん坊を注意深く観察しています。この観察は3時間にも及びました。

通常の子殺しとの違い

このアルビノに対する群れのメンバーの反応は、普通の新生児とのはじめての接触とは異なっているようでした。通常、群れのメンバーはオスもメスも、新しいメンバーを見ると興味を示します。この時、赤ん坊に触れたり毛づくろいをする者もいます。

これとは別に、子殺しを行うときは興奮または攻撃的な反応を示します。ソンソコミュニティにっとて子殺しは珍しいことではありません。頻繁に起こるものではないにしても、この数年の間でいくつかの子殺しが観察されています。ここでは子殺しのほとんどがオスによるものですが、非常にまれにメスの子殺しも記録されています。

また、チンパンジーの他の群れでも同様に子殺しは発生しており、各亜種ともに見られます。通常、子殺しはヒエラルキーが安定しているときにはおきません。しかし、ヒエラルキーが不安定になるとオスが争い始め、オスが通常よりも早くヒエラルキーの上部にあがったときに子殺しが起こります。これは自分の子を産ませる必要があるためです。

しかし、今回のような子供に対し明らかな恐怖を示すような反応は異常で、これまで観察されたことがありませんでした。いくつかのメンバーは落ち着いていましたが、ほとんどの大人は恐れていました。メンバーの多くがこの子から距離をとり、吠え続けていました。今回の群れの騒ぎようは普通ではありません。また、普通の子殺しでは毛を入念に観察するしぐさも見られません。この行為は新しいものを見つけたときに示す行動に似ています。

しかし、今回起きたたったひとつのケースで、アルビノだから殺したのだとするのには確信がありません。はじめに言及したもう1頭のアルビノのチンパンジーは新生児の時にとらえられました。このため、他の群れのメンバーがこのチンパンジーに対してどのような反応をしたかは不明です。

チンパンジーでアルビノが見られないのは、今回のように生まれてすぐに殺害されてしまうことが考えられます。もしくは、ジャングルの奥深くに生息しているため、人間に観察されていなかっただけかもれません。現在も、人間に観察されていないチンパンジーの群れがたくさんあるのです。また地元の人によって見つけらことがあるけれど、メディアに報告がないだけかもしれません。

まとめ

チンパンジーはこのアルビノの赤ん坊を、見た目が全然違うが同種であると認識していたのかもしれません。しかし、このアルビノはチンパンジーが捕食するアカコロブスの幼児に似ていたため、アカコロブスの赤ちゃんと認識した可能性もあります。研究者はこのアルビノが大人になり、この群れとどのように交流するのかを観察してみたいと思っていましたが、チンパンジーの生活に干渉することはできないため、殺害を止めることはしませんでした。

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参考
Albinism and Chimpanzee Infanticide
© Socratic Studios 2023


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