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ボノボの母親は息子の恋人探しを積極的に手助けする

ボノボの母親は息子が配偶相手を見つけることに関し、積極的に手助けをします。母親はまず、自分の息子を魅力的なメスに引き合わせようとします。そして仲良くなった2人に邪魔が入らないように他から守ろうとします。研究の結果、この行動に熱心な母親程、息子が子孫を残すことができる確率が高くなることがわかりました。ではなぜボノボの世界では母親の積極的な介入によって恋が上手くいくのでしょうか。

モテるボノボは母親が過干渉!?

ヒエラルキーの上位にいるボノボの母親は、自分の息子をメスのメンバーの中につれて行き、メスと引き合わせます。そして、息子とメスが仲良くしているとき、2人の仲を邪魔しようとする乱暴なオスが現れると、そのオスから2人を守ろうとします。このようにボノボの母親は孫をつくることに非常に熱心です。ボノボの母親にとっては、これが子育ての一環になります。

ドイツ・ライプツィヒにあるマックス・プランク進化人類学研究所の霊長類学者マルティン・シュルベック博士は、コンゴ民主共和国に生息するボノボの群れと、コートジボワール、タンザニア、ウガンダに生息するチンパンジーの群れをそれぞれ観察しています。

彼の研究によると、この行動に熱心な母親程、成功率が高くなることがわかりました。母親と一緒に暮らすオスは、母親と一緒にいないオスよりも子孫を残す可能性が3倍も高くなります。これとは対照的に、群れに母親が存在するチンパンジーのオスの子孫を残せる確率は同じでした。

また、ボノボの母親はメスに息子を引き合わせるだけでなく、息子と一緒に息子のライバルを倒し、息子の群れでの地位を上げようとします。

哺乳類による我が子へのサポート

ほとんどの群れで生活をする哺乳類では、メスは自分が生まれ育った群れにとどまり、オスは大人になると群れを出ます。そのため、群れで生活する動物の多くは、母親が自分の娘が大きくなってもサポートをし続けます。大人になった娘が食料を見つけたり、社会的地位を巡って群れの他者と競争するときも、同じ群れで生活しているため母親が娘を手助けすることができます。そして母親が娘の妊娠、子育てのサポートをすることで、より多くの子孫を残すことができます。

また他のケースでは、成熟した息子が群れにとどまっている場合、母親は息子が環境に適応しやすいようにサポートをします。例えばシャチは年長のメスを中心とする母系社会を形成します。そして、オスはこの生まれ育った群れで一生を過ごします。この場合、シャチの母親は息子に良い餌場のありかを教えたりすることが知られています。

チンパンジーとボノボの社会ではオスが群れにとどまる

シャチと同様、チンパンジーとボノボの社会でもオスが自身の生まれた群れにとどまります。一方、メスは成熟すると群れを出て新しい家族を探します。そして群れを出たメスは二度と戻ることはありません。これは出産、子育ての際に自分の母親がいないことになります。

チンパンジーとボノボ

チンパンジーとボノボは両方ともヒト科チンパンジー属に分類されます。共通の祖先を持つこの2種は、80万年前から210万年前に分岐したと考えられています。チンパンジーは西アフリカのセネガルから東アフリカのウガンダ、タンザニアにかけて広く分布していますが、ボノボはコンゴ民主共和国中部にのみ生息しています。ボノボが発見されたのは最近で、それまではチンパンジーと同種だと思われていました。1928年にドイツ人の動物学者が博物館でチンパンジー標本を比較しているとき、これが従来のチンパンジーと異なる新種であることがわかりました。

このように非常に近縁で、見た目もそっくりなチンパンジーとボノボは、両種とも息子が成熟した後も、母親が積極的に助けようとします。ですが、母親が介入した場合、息子の繁殖の成功率はボノボの方が高くなります。それはチンパンジーと違ってボノボのメスの地位が高いからです。

チンパンジーはオスが支配的

これに対し、チンパンジーのメスの地位は常にオスより低く、オスがメスを力で支配しています。チンパンジーはボノボより性的二型が顕著に現れ、オスはメスよりも大きく、がっしりして犬歯も長く伸びます。そして、ボノボより攻撃的です。オスはメスに対して暴力をふるうこともよくあります。

ボノボの社会はメスが優位

一方、ボノボの群れはオスとメスが共同支配的で、最高位は一貫してメスによって占められています。ボノボはチンパンジーよりも性差がなく、オスとメスの大きさの違いが少ないのです。さらにボノボの群れではあるメスに嫌がらせをするオスがいると、メスたちが徒党を組んで集団で彼に制裁を加えます。これらのことからボノボはチンパンジーのように攻撃的なオスがメスを支配することができません。ボノボの進化の経緯については下記の動画、「ボノボは自らを家畜化した」で詳しく説明しているので興味のある方はこちらも参照してください。

このように、高位にいるメスのそばにいる息子は、ただそれだけで優位でいられます。母親の地位が高いほど息子の地位も高くなるのです。ボノボのオスはボンボンちゃんなのです。しかし、母親が亡くなると彼の地位は転落します。群れの第1位だったアルファオスのボノボが、母親の死をきっかけに、他のメスから支持を得られずに地位を落とした例が観察されています。

ボノボの母親は群れの中心への通行証

ボノボのオスは自分の母親が近くにいない場合、群れの外にいることが多いことがわかっています。そして、繁殖力の高いメスは群れの中心にいることが多くあります。そして、このメスに会いに行きたいとき、オスだけでメスの群れの中心に近づくとメスたちに袋叩きにされてしまいます。群れの中心に近づけないことは繁殖において大きく不利になります。しかし、息子が母親と一緒にいるときは、群れの中心まで行くことができます。このように母親は通行証のような役割を果たすのです。この時、ヒエラルキーが低いオスでも母親といれば群れの中心に近づくことができます。

まとめ

以上、見てきたようなことからボノボの社会では母親の積極的な介入のあるオスが優位になることができるのです。

人間の社会でも高齢になり繁殖力が低下すると、自分の子孫を残すことより、自分の子供が子孫を残すことを手助けするほうにシフトチェンジし、自分の遺伝子を残そうとしていると考える仮説があります。ボノボとチンパンジーはヒトの直接の祖先ではなく、ヒトはチンパンジーとボノボの共通の祖先から分化しました。人間とこれらの類人猿は似ているところがあるものの、独自の進化で得られたものか、共通の特性なのかわらないことがまだ多くあります。

この記事の内容は動画で見ることができます。

参考
Males with a mother living in their group have higher paternity success in bonobos but not chimpanzees: Current Biology (cell.com)

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