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還暦記念ジョージア滞在記2 ジョージア正教のイースターの巻

これは、2023年4月5月に東欧の国ジョージアに滞在した還暦おばばの旅行記です。日々の記録はTwitterで呟いてます。
https://twitter.com/lovekhinkali

自己紹介

「ジョージア美食研究家あき」こと小手森亜紀です。
東京都文京区で日本唯一のジョージア料理専門の料理教室を主宰しています。(2022年4月から拠点を札幌に移しています)

シルクロードで餃子が食べたくて会社を辞めたお話しはこちら。

ジョージア料理と私の出会いはこちら。

イースターって?

あなたは毎年イースターに何かやりますか?
季節ごとのイベントが大好きな日本人だからハロウィーンの次はイースターだ!というムードは無くも無い。
カラフルなゆで卵やウサギの置物を飾り、卵料理を食べたり卵でなんかして遊ぶんだよね!
つい最近までの私の認識はこの程度。

もちろん私もイースターの言葉の意味は知ってます。
ゴルゴダの丘で十字架にかけられたイエス・キリストがその3日後に復活したことをお祝いする日がイースターです、よね?

クリスマスと異なり、イースターは毎年日にちが変わるということを今回この記事を書くために初めて知りました。

「春分の後の最初の満月の次の日曜日」

また、東方教会と西方教会とでは使用している暦が異なるのでイースターの祝日も異なる。今年2023屋年は西方教会は4月9日、東方教会は4月16日がイースター当日となります。
東方教会はユリウス・カエサルが制定したと言われているユリウス暦を使用し、西方教会は新暦であるグレゴリオ暦(現在我々が使用しているカレンダー)で祝日をお祝いします。だからイースターだけでなく、クリスマスなど他の祝日も東方と西方とでは異なっています。

ジョージアのイースター

イースターは4月16日

今年ジョージアへ行く大きな目的のひとつがジョージアの一般のご家庭でイースターがどんな風にお祝いされるのかを見ること。
以前からジョージア人ガイドのタムナさんに「イースターはクリスマスよりもっと大変なの!」と聞かされていたので、ぜひとも一度間近で拝見しなくては!と思っていました。
ジョージアはジョージア正教、東方教会に属するので、4月16日がイースターにあたります。
私はその直前4月11日にジョージアに到着し、タムナさんのご自宅のイースターの準備をすぐそばで見せていただくことにしました。
(1年で1番忙しい時期なのに迷惑な客です)

イースターへの準備、まずは断食

以前クリスマスの説明のため作ったスライドなので雪模様

ジョージア正教では、重要な祝日の前には断食を行います。
(※他の正教でも断食はあると思いますが、私自身は直接確認していないのでここではあえて「ジョージア正教は」と表現させてください)

イスラム教のラマダンは日中の飲食を断つものですが、ジョージア正教では時間帯ではなく肉食(魚、卵、乳製品など動物性の食品すべてだが厳格さは人によって異なる)を禁じます。
今年のラマダンは3月22日から4月20日まででした。
信仰のために欲望を断って心身を清めるという点では共通点を感じます。イースターの断食期間とラマダン期間がかぶっているのもただの偶然では無い気がします。

イースターはジョージア正教でもっとも大事な祝日のため、断食の期間は1年でもっとも長く、厳格だと言います。
特にイースター直前の3日間は、肉、魚、卵、乳製品はもちろん油も断ち、ほぼパンのみで過ごします。これはイエス・キリストが十字架にかけられていた3日間の辛さを自分たちも感じるためだそうです。

ただしどこまで断食を厳格に貫くかは個人や家庭ごとに異なるので、断食期間だから肉が売っていないとかレストランが休業して外食できないという心配はありません。

イースターに絶対欠かせないものは?

ずばりこの2つ。

1つ目は焼き菓子であるパスカ。
もう1つは赤く染められたゆで卵。

タムナさんに伺ったところ、日本では一般的だと思われているウサギの飾りやカラフルなゆで卵はジョージア正教では使わないそうなんです。(近年、ジョージアでも売っていないことはないが正統ではない)
あれらはカトリックで使われるものなんですって。
卵は「命の誕生」の象徴として各国のイースターには欠かせないものですが、なぜ赤い色をしているのか。
私にはマグダラのマリアの逸話がとてもしっくり来たのでURLをご紹介しておきます。


パスカ。
奥の白いお菓子はパスカともクリーチとも呼ばれる。
赤いゆで卵

ジョージアに住む日本人の友人に聞くと、「パスカってあのボソボソパサパサしたお菓子でしょ」とあまり評判がよろしくない。
ジョージアだけでなく、ロシアやウクライナなど近隣の正教の国でもパスカが食べられているし(国によってはクリーチと呼ぶ?)、カトリックの国々でも似たような焼き菓子がイースターに作られるそうだが、私はそれらの国のイースターを直接見ていないので詳細は分かりません。
いつか各国のイースターを見て回っても楽しいかもしれないですね。

カラフルな卵の飾りも無くは無い。少数派

いざイースターの準備開始

街はイースター1色

到着早々近所のカルフール(外資系スーパー、以前日本にもありましたよね)を覗いてみると、パスカが山のように積まれて売られています。

だいたいどれもが赤いパッケージ
パスカの材料もたくさん売られている

街を歩くといたる所でイースター関連のものが売られている。

トビリシのまちなか。人通りの多い場所には露店が並ぶ

オルベリアーニバザールという割と新しめのおしゃれ系商業施設でイースターフェアをやってるというので覗いてみました。

イースター当日(4/16)を過ぎてもまだ続くところがせっかちな日本とは大違い
全部試食可能。全種試した。
様々なデザインのパスカが並ぶ。お値段お高め。

直後に友人宅での食事会の予定があったのでお土産にひとつ買ってみた。

1個約2500円。高い割には別に美味しくない。

ここオルベリアーニバザールで売られているパスカは1個30ラリ(約1500円)~50ラリ(約2500円)とジョージアの物価からすると結構お高め。

試食可能なものは全部試食させてもらったが取り立ててどれが美味しいというものはなかった。
友人の言う通りどれも「パサパサでボソボソ」。
本当にこのパスカをジョージア人は愛しているの?

謎は深まるばかりだった。

市場へGO


トビリシの中心街から地下鉄や車で15分ほどのサムゴリというエリアへ。
ここにはあらゆる物が売っている大きな市場があります。
市場と言っても日本の卸売市場のようなものではなく、生産者が車で直接品物を運び直接消費者に売る、巨大な産直市場なのだ。
近郊の農家はもちろんアゼルバイジャンからも野菜を売りに来ています。
値段はまちなかよりもちろん安いが売っている単位が大きいので旅行者が手を出せるものはほぼない。
野菜や果物は1キロ単位、じゃがいもや玉ねぎは10キロ単位で売られています。

新じゃがの季節


採れたて野菜を売っているのだからもちろん季節によってサムゴリ市場の景色は変わります。
このイースター直前の時期はイースターの準備の買い物客で大賑わい。まるで年末のアメ横のような活気と殺気にあふれています。
それだけイースターの準備はジョージア人にとって大事なイベントなのだ。そう、命を賭けてると言ってもそんなに言いすぎではないと思う(ちょっとは言いすぎだと思ってるよ)

市場に近づくとまず目を引くのがやっぱりパスカ。露店にパスカが山積みになっています。


「あんなに大量のパスカを売ってるけどどうするの?みんなタムナさんみたいに家でも焼くんでしょ?」
イースターは家族や親戚が集まる、ということは地方からトビリシに出て来ている人はイースターに一斉に帰省するのです。
その際「都会のパスカ」をお土産に買い、親戚や近所に配ります。
なぜならジョージアの地方部ではこのようなパスカをはあまり一般的ではなく、家庭でも作らないことが多いらしいのです。
イースターのために特別に焼くパンのようなお菓子はあるけれどそもそもこんなに高く膨らませたお菓子やパンがないそうなのです。
もしかしたらパスカがジョージアに入ってきたのは割と最近のことなのかもしれません。
(例えば100年ぐらい前とか)
今の時点で私には正解は分かりません。
ジョージア各地を旅して各地方のパンを食べてきた私に言えるのは、「パスカ以外に高く膨らませるパンやお菓子をジョージアでは見たことがない」
ということだけ。

大きなパスカの他に小さなパスカも売られています。

写真中央に映っているのが小さめのパスカ

「あれはお墓に備えるためのパスカなんです」とタムナさんが教えてくれた。

そしてもう1つは「エンドロ」という干からびた木の枝のようなものがやはりあちこちで大量に売られています。

エンドロをトラックいっぱいに積んで売りに来ている


Wikipediaの解説が正しければエンドロは「茜」という木の根。
日本人なら「茜」「茜色」という言葉はよくご存知だと思います。
古代から日本ではこの木の根は染料として使われてきました。
「根が赤い」から「あかね」と呼ばれるようになったらしいですね。
その茜をジョージアではゆで卵を赤く染める染料として昔から使っているのです。

エンドロに着色料を添加したもの

この写真は「ジェジリ」と呼ばれる麦の芽。

イースターの飾りにこの青々として草が使われている光景は私たちにもおなじみです。

よくあるイースターのイメージ画像にも使われる

卵同様「再生」「命の誕生」を意味するアイテムです。
湿らせた布の上に麦を置いておけば簡単に発芽するので、普通は買わなくても済みそうなものですが、やはりこちらもお墓に供えるのでたくさん数が必要なのだそうです。

お墓に持っていくタイプ。持ち手がついている。

同行してくれたジョージア人ガイドのタムナさんは既製品のパスカには目もくれず、ご自分の自宅で大量に焼くパスカのためのスパイスやドライフルーツを物色していました。
「エンドロ」もたくさんの売り手の中から自分が納得にいく品物を見つけて買っています。

イースターの断食明けは家族、親戚が集まって久しぶりに肉のご馳走を食べるので肉売り場は少々殺気立っていて、お肉が飛ぶように売れています。


特にジョージア料理の中でも「春を告げる」と言われる「チャカプリ」の材料が人気。
チャカプリは、タラゴン、パクチー、ケマリと呼ばれるスモモの一種、羊肉を煮込んだもの。トビリシでは羊肉ではなく仔牛もよく使われています。
タムナさんがなじみの肉屋に仔牛の肉を買いに行くとすでに品薄、希望の部位はもうありません。
お肉屋さんに「息子が久しぶりに帰ってくるのー、お願いー、なんとかならない?」と泣きを入れると、なんとかなるのがジョージアです。
彼女はチャカプリ用の仔牛肉を無事に入手。

主婦の実力が試されるのがイースターの買い物ね。

もう一箇所、タムナさんが案内してくれたのはステーションスクエアという地下鉄の駅のそばの市場です。
中央市場とも呼ばれガイドブックにも載っていますが、有名なのは生鮮食品の売り場です。
どこからどう入ったのかよく覚えていませんが、地下に観光客はまず入って来ない生活用品の売り場がありました。

赤い飾りが目立つ
キリストは復活した的なことが書いてある
昇天したという方が近いのかな
赤いゆで卵をのせ?台もいろいろ
ひよこも定番みたい
卵型キャンドル
ケーキ型のお店
紙のパスカ型

私もタムナさんも買い物は済ませました。

私は来年日本でジョージア式のイースターの食卓を再現してみようと、卵を置く飾りを買ってみましたよ。

じゃあ、タムナさんの家に戻ってイースターの準備に取りかかりましょう!


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