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野趣あふれる肉盛りそばの躍動。

「おにそば豊平店」

2021年8月20日(金)

『リスケ』…この不可思議で理不尽な響きは何だろう?

極めて現代的な言葉の中に、どこか日本的意味合いが隠れているような気がしてならなかった。
別段ランチスケジュールなど決めたこともないが、『リスケ』に対応すべく午前の戸外を闊歩した。

まだ午前11時であった。
頭上の太陽は、すこぶる快活でありながら不快な湿気は微塵もなく、
豊平川にかかる橋に時折吹く微風は本来の夏の心地よさを運ぶ。
しかしながら、これと言って食事できる店が見当たらないままに、
少し焦りを覚えながら大きなパチンコ店を通り過ぎようとすると、
まさに暖簾を出した蕎麦店に出くわした。
赤の背景に黒い文字色の看板にこれと言ったデザインの誇張はない。
開店を待つひとりの男性が立ち尽くしていた。
並ぶほどの店なのだろうか、という疑問を抱きながら店に入った。
入口の看板にあった「肉盛り冷」に惹かれるがままに、
券売機でも迷いなくボタンを押した。
店内は、コンパクトなL型のカウンターで席の間隔を空けて6席分しかない。
体躯の良い店長らしき男性がひとり切り盛りしているようだ。
品格と上質を旨とする蕎麦とは異質の店内に、日本のパンクロックがBGMとして流れていた。
サービスの生卵1個が目についた。どう使うかはさておき、待つ間にも席は次々と埋まってゆく。
目の前で作り出される光景を茫然と眺めていると、程なくカウンター越しに注文した品が出現した。
看板で見た写真よりも肉も刻み海苔もネギも幾分少ない印象を受けたことに、いささか不満を覚えたが、時代や状況の影響もあるのだろうと自らをなだめた。
辣油の脂光りするタレに野太い麺をつけて一気にすすってみる。
辛味の強い辣油をまとった硬めの麺の歯応えに、どこか独特の愛着を覚えた。
辣油と蕎麦の相性の良さに応じて、麺は瞬く間に折返し地点を迎えた。
そこで生卵を解き、辣油のタレに投入した。
すると、辣油の辛味はマイルドに包み込まれ、これまでとは別の味わいを促した。
すべて食べ終わることはなんと容易いことであろう。
しかも、後悔を催すような満腹感もない。
濃厚な蕎麦湯を飲みながら、自らの独断を顧みた。
パチンコ店の敷地にある蕎麦店への不信感、そして品格のない蕎麦への抵抗感。
とまれ、食とは体験であり、自己との対話であることをあらためて肝に銘じた。
季節が移り変わる前に、再びこの蕎麦と向き合うことを誓うのだった…

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