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レモンサワーが奏でる喧騒、遠い思い出。

「焼肉ホルモンジンギスカン酒場 れもん」

2021年8月25日(水)

寂しげな影を投げかける霧の雨。
鉛色の空から雲の分子が落ちてくる。
悲哀に満ちた目で街を見る。

殺風景な秋の街に濡れた夜。
鮮やかな黄色の灯火が煌めいている。
それは新鮮な顔をした焼肉店だった。
雨がやみつつあるというのに雨宿り。

人が少ないというのに騒々しい。
若者たち、しかも20代であろう。
溢れるばかりの活力と相塗れる焼肉の渋い音色。
スタッフも皆若々しい。
ひとりであることを告げると、
それは何か違和と罪かのようで、
見渡す限り、ひとりで飲む客もいない。
スタッフも誰一人として若くない。

店の名が案じるようにレモンサワーが飲み放題で、
カウンターにある蛇口から、思いのままに飲み干せる。
酒を愛する者にとっては理想郷だ。
その前にビールを1杯いただこう。
すべてQRコードを読み取って注文する。
牛カルビ、やみつきセセリ、生ラムジンギスカン、食べたいという直感が招く。
なのに、ガスコンロの火力は弱々しく、
焼き上がる間にレモンサワーだけ満たされそうだ。
もどかしく、嘆かわしい焼き具合。
ようやく焼けても、ジンギスカンは臭みが残り、牛カルビは堅苦しい。
背後から威勢のよい会話が耳をかすめる。
大学生が恋愛話に花を咲かせている。
学生の頃が蘇る。
昔も今も大勢が嫌いだった学生時代。
思えばその頃もなけなしのアルバイト代でひとり飲み。
焼肉などもってのほかで、焼鳥すら背伸びしていた。

思い思いに飲むうちに、
蛇口からレモンサワーをどのぐらい注いだことだろう。
くつべらを噛む度に耳にまで響く。
そろそろ時間だった。
ネオンが消えた街で締めのラーメンを探すのはやめておこう。
その代わり、ユッケジャンスープがやってきた。
ようやくにして満たされた味わい。
だというのに、レモンサワーが噛み合わない。
賑やかな街が好きくせに、喧騒を嫌うのが好きだというのに…

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