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大衆天ぷらの多彩、かすぞばの斬新。


2021年8月22日(日)

天候のめまぐるしい変化によって昼食を逸した。

外に出歩くのが面倒な日は水道水で凌ぐこともしばしばだが、
入退院を繰り返した体にはさすがに心細い。
といって、冷蔵庫や食品を購入し、身近に置くことに抵抗感を覚えていた。
おそらく購入したからとて、料理もしなけえば冷蔵庫を使いもしないのは、
性分として分かりきっている。

意を決して外に出た。
横殴りの風は正面からも背後からも不意打ちして傘の意味を問うた。
しかも日曜日の夜ともなると、限られた選択肢であることは否応もなく理解していた。

ネオンサインが映える濡れた道路は、一見するといつもよりも色めき立った街に染め上げていた。
自動車が擦過する度毎に、ネオンは打ち砕かれて四散していた。
すすきのの中央付近も日曜日と風雨のせいか、客引きの若者の姿もなければ歩行者の姿もない。
シャッターで閉ざされた店の連なりの中で営業している店は一際の存在感を放っていた。
この空腹を埋めようと、灯りに群がる蛾のように惹き込まれた。

以前と同じく若い女性スタッフ2名が出迎えた。
2名ともひと目では区別がつかないほど似通って見えるのは歳を積み重ねたせいだろう。
この店は我が道を行く。
生ビール、そして紅生姜、たけのこ、たまねぎ、しいたけ、鶏肉の天ぷらを注文した。
空腹の体内に生ビールが一気に内蔵を揉み抱くように溶け落ちてゆく。
すぐさま生ビールを追加した。
2杯目も消えそうになる頃、ようやく天ぷらが、しかも続々と飛来した。
3種類の塩は、肉や野菜、そして好みに応じて使い分ければよい。
ともかく、ビールによって満腹になる前に天ぷらに箸を延ばした。
揚げたての熱量に口腔も踊る。
3杯目のビールと、さらに春菊、じゃがいも、味玉、再度たけのこを追加した。
地を這うような空腹も次第に落ち着き払い、気を取り直して自己との対峙を試みる。
しばしば気難しくなるのは、果たして空腹のせいなのか?
それとも、元来生まれ持った性格のせいなのか?
4杯目のビールも呆気なく消え去った。
そろそろこの店の真骨頂である「かすそば」で落ち着こう。
ハイボールを追加し、静かに待ち続けた。
「かすそばの辛さ3です」
奥行きのある丼が置かれると、独特の薫りを漂わせたそばに見入った。
牛モツがベースの油かすを使用したダシとニラが融合したそれは、
蕎麦との相性に長けていて、細く柔らかい麺に匠に絡んでいる。
麺は少し茹ですぎで柔らかすぎるのは否めない。
それでもニラと挽き肉が食感がそれをフォローし、夥しい汗と引き換えにスープもろともに無に帰した。
この日一日の食事をすべてこの店で賄った思えるほどの充足を得て、外に出た。
「ありがとうございました。またお越しください」
女性スタッフのか細い声が秋を予兆するような涼しげな夜風に揺れ動いていた…

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