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斬新でボリューム溢れるランチと紫煙の漂い。

「魚と銀シャリ せいす」2021年4月23日(金)

例年と比べて異例の早さで桜吹雪が街中を舞った。
ここ最近の傾向としては、決まった時間に食事をすることなどなく、極端な日は歩きながら、あるいは食事をすることもない日がしばしば生じた。
もちろん、身体や精神はその反動を余すことなく見逃すことはない。
インバウンドで殷賑を極めていた狸小路商店街も、今ではその余韻すらなく陰鬱とした落ち着きが定着していた。
一方で、ランチを提供する店が増えたのも顕著であった。
大きな暖簾が冷たい春風に揺れる。
思えば、大きな暖簾を掲げる店の出現が明らかに増えている。それは飲食店のトレンドなのか?
それともコンサティングの陰謀なのか?
その足元のランチの看板に、空腹に狼狽える足取りは暖簾と呼応するように吸い寄せられた。

店内は、どこか小洒落たダイニングバーのようで、店の奥まで直線的に伸びるカウンター席が象徴的で、若い男女の姿が見受けられた。
空腹に慣れてしまった体の奥底から、何かが動き出した。
その蠢めくような欲動は、「チャーシューエッグ定食」なるランチを求めた。
チャーシューをランチの主人公と迎え入れることに期待と不安が交錯する中、食欲という忘れていたものが動き出すと、定食の到着はどこか長く感じられた。
小鉢が先に運ばれて来たかと思うと、大きな皿に盛られた「チャーシューエッグ」が訪れた。
目玉焼きと野菜を下敷きに、重厚なるチャーシューが圧巻の姿を見せつけた。
独特の甘さと旨味と肉汁が混淆の末に口内で肉が溶けて、ライスを次々と要求してくる。
ライスのボリュームも絶妙で、程よく減った際にライスに載せ、チャーシューを頬張ると、新しいランチスタイルを味わえるのだ。
作り方も創造だが、食し方も創造だ。
が、どこからとなく煙草の匂いが漂い始めた。
満足に満たされた幸福を打ち消すように、その匂いは次第に辺りを支配し始めていた…

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