終わりなき義理チョコ戦争

弊社で義理チョコが禁止されてからもう5年になるという。

かつては毎年2月14日が来るたびに女子社員が部署の男性社員にむけてチョコレートを用意し、嬉し恥ずかしの義理チョコ配布会が行われていた時代もあった。(その影で義理ではない方のチョコレートが密かに渡され、少なくない数の社内恋愛が始まりそして消えていったとかそうでもなかったとか。)

義理チョコといってももらった方はほんのり嬉しいものである。そして義理とはいえ喜ばれると渡した方もほんのり嬉しい。そんなほんのりの嬉しさの応酬がエスカレートしていった結果、義理のインフレが起こり義理の限りを尽くした義理たっぷりの義理チョコたちが2月14日のオフィスを埋め尽くすようになった。世に言う「第一次義理チョコ戦争」の勃発である。

家がLO●TE工場のなのかと本気で疑うレベルでチョコレートブラウニーを大量生産してくる者、ここぞとばかりに習ったアイシングクッキーの職人芸を披露する者、右も左もわからず部署の男性全員分のチョコを買いに走らされる新卒、「●●部長は甘いものが苦手らしい」と言う情報を聞きつけデパ地下の高級えびせんで応戦する策士。デスクの島にはどこから調達してきたのか高々とチョコレートファウンテンがそびえ立ち、皆で串刺しのバナナをつつきあっている。その他にもチョコ鍋、チョコ餃子、チョコかけごはんなど、社内の女性社員たちが義理の限りを尽くした義理チョコはさながら満漢全席の様相を呈した。用意された全義理チョコが全男性社員の胃袋のキャパシティを超えたそのとき、男たちが一人また一人と倒れ始めた。胃が「義理」に耐えきれなくなったのである。
チョコレートの匂いがビル全体に蔓延し、屍が積み重なるオフィス。胃の中が義理チョコ(とその他もろもろ)で満たされ、朦朧とした意識の中で人事部長は悟った。「義理のインフレは…会社を…滅ぼす…ッ」

かくして「第一次義理チョコ戦争」は多くの犠牲の上に終結を迎え、「義理チョコ」は社で固く禁じられるようになったーーはずだった。

あれから5年、密かに義理チョコを生産・配布する新勢力が秘密裏に動いているという情報がある。彼女らは「義理チョコ解放戦線」を名乗り、義理チョコが禁止された社内での「義理チョコゲリラ配布」を水面下で計画しているという。なんと「義理チョコ禁止令」によって義理チョコの価値が高騰した社内で「こっそりくれたいいやつ」の座を欲しいままにしようとしているのだ!

このままでは再び5年前の悲劇が繰り返されてしまう。「第二次義理チョコ戦争」勃発待った無しである。そんな事態は絶対に避けなければならない。またデスクにチョコレートファウンテンが建つことは絶対に阻止しなければならないのだ。

「義理チョコ解放戦線」が手始めに人事部長を懐柔するべく義理チョコを渡しに行ったとの情報が入ったので、急いで先回りして阻止しなければならない。そういえば人事部長は酒好きだったはずなので洋酒入りの義理チョコで先手を打てば勝機はある。「こっそりくれたいいやつ」の座を奴らだけに渡すわけにはいかないのだ。



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