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Blue Moon

この歌が、WithUを想うNiziUの気持ちを歌ったものであることは、分かっている。でも、私は、そういうWithUにしか分からないことを外したところで、この曲がすべての人に対して持つであろう力について語りたい、と思った。でも、それは、曲を聴いていけば十分なのだと思う。

離れている時でも
ふと夜空見上げたら
輝いてる、ふたりを繋ぐ同じ Blue Moon

ミイヒの優しいファンファーレとともに、夜の空間が展開する。物語の冒頭に置かれる象徴的な記憶の断片のようなそれは、空気の温度と明度と静謐さを測るように、冬の夜を驚かすまいとするように、響きも輝きも抑えて、まるで月光のように、景色の隅々に穏やかに行き渡る。

巡りあった頃を思い出していて
あれから季節を重ねたね

物語は、リマの「語り」から始まる。これも、景色の静寂さから屹立することないように、眠る木々を起こさないように、優しい声と語り口で。

広がる銀世界
君に出逢ってから彩られ
変わる So colorful

「語り」はマコさんに引き取られる。銀世界という言葉の選択は、次の彩りと対比する無色の比喩としては、意味の上では失敗かもしれないけど、変化の以前から既に美しいものに、彩りが加わるイメージの効果は、秀逸という外ない。秀逸さは、もう一つある。「変わった」ではなく「変わる」と現在形が用いられていること。過去形は事実につき、現在形は一般論や概念につく。ここでは、君に出会って変わった、という事実より、君は私の世界の色を変える存在だ、という「君の存在の意味」が語られていることになる。このことによって、歌詞のイメージが具体性から引き離されて、ある抽象性を帯びている。この抽象性は、この歌のイメージの結晶作用の核となる、重要な特徴だ。さて、その予感をつたえながら、まだ映像に彩りは加わらない。そして、モノクロームのまま、雪明りのような優しい光は、マコさんの声がそのように輝いているからでもある。

初めてわかったよ、一緒に過ごせる
冬はこんなにあたたかいのね

ここは、この曲の基調となっている、夜空を満たす切なく冷たいエーテルの透明さに対して、一つの違和をなしている。印象が暖かいのだ。その印象は、恐らく、歌詞のせいであるよりは、様々な陰翳の微粒子を無数に含んで乳化しているようなマヤの声の「美しき濁り」が生む温かさによるのだろう。映像は具体性に傾きかけるが、ここで語られているのは,まだ「意味」だ。

君の温もりがこの胸の中残り
Warm inside
積もる、あたたかいMemory

この部分で起こる現象すべての源は、ニナの声と、その声の振る舞いである。この歌の固有の色は、この子の声が担っているといってもいいだろう。温もりあたたかいという言葉も、この子の声が鳴っているときは、その作用を発揮できない。青の担い手の登場によって、景色に、基調の色が広がっていく。「歌い」が始まったのだ。しかし、まだ静かに、緩やかに。

雪のカケラの様に一瞬で
しあわせな時間は溶けてゆくの
まさに降る雪の音が聞こえたと錯覚するような、優しく柔らかな声。静かに私たちを包み込むようでありながら、そこに含まれる雪の結晶も見えるような美しい声。リクにしか出せない声。この声とともに、リクの歌の助走が始まる。

離れ離れでさみしいけど
伝えたいよ、消えないこの想い

リオが伴走を始める。リオの声を「シャンパンボイス」と呼ぶ私は、ボイストレーナーさんが言う「水属性」は大賛成だ。だが、ここでその声は、冷気の中でゾル化したように粒立ち、密度を高め、集中していく。最後の音は、それらの粒子が振動によってぶつかり合って響くように鳴る。

君のもとへ舞い落ちてゆく
このリクの最初の音は、リオの最後の音と、粒子の構成と振動を合わせて響く。その共鳴をエネルギーとして ― リオのブーストを得て ― リクは地を蹴る。

結ばれてる心は
君と逢えない間も
灯されてる、同じ Blue Moon

リクが空へ上がったのを見て、ニナは、苦も無く、助走もなく、垂直に飛び上がる。
それにしても、何という声だろう。ミイヒの声が、たくさんの倍音を含んで深く響くのに対して、ニナの声は、エネルギーをもった無数の音素の振動の集合が、ライトセイバーのようにエネルギーの唸りを立てている。その出力を自在にコントロールして、密度を保ちながら膨らむその声は、エネルギービームのようにどこまでも伸びる。蒼く切なく冷たい「熱」を帯びて。

離れている時でも
ふと夜空見上げたら
輝いてる、ふたりを繋ぐ同じ Blue Moon

いつのまにか、ニナの真横にミイヒが上がって来ている。普段の歌声は、周囲の空気に浸潤・拡散しながら空間を染め上げるけど、このときは、ニナから放たれたエネルギーを受け止めるかのように、領域を狭め高密度化している。そのせいで、響きにハッとする程の輝きが加わる。

それにしても。(虹プロの)Nobodyが終わった後、「これは適わない」という表情をしたニナを見て以来、この2人の天才を、その行く末への期待を胸の底に沈めたまま、見守ってきたけど、ついに、お互いのまわりを巡り合うように双竜が螺旋上昇するのを見たと思った。

この2人によって、この曲の1つの作用がクライマックスを迎える。人が人を想う気持ちを精錬・精製して、美しいものだけを抽出する作用。歌と、歌に重ねた私たちの想いは、蒼く冷たく透明で切ない結晶となって、天上の月へ向かおうとする。

笑い合うたび白くなる息
Smileの君もすぐに見える距離
空から降ってきた
雪はなぜか甘い味がした

上で述べた結晶化の抽象の冷たさが、冬の空気の印象と重なって私たち包み切ったそのとき、この突然の具体性が私たちを驚かす。それは、ラッパー2人の仕事の大きさがサビを歌う4人に匹敵することを教える。もちろん、ここも、歌詞がそうだから、なのではない。印象を際立たせながら、確かに曲の空気の中に存在する、静かだが確実な心臓の鼓動としての具現は、2人のラップの技術が成り立たせている。
この瞬間、私たちは、月の下の冬の夜の透明な冷気の中、その冷たさに拮抗する人の体温に触れてしまう。想いながら離れている人の体温。切なさの色が深まる。

愛おしいこの瞬間(とき)を閉じ込めたい
Make it freeze
また寄り添う時まで

歌詞の通りに、ミイヒの声は、愛しい人の温もりを閉じ込める。中心に小さな熱の核を宿した青く冷たく切ない結晶ができあがるようだ。

ふたり、紡いだ思い出が
凍えた心を包み込んで

宝石のような結晶を、大事に大事に運ぶように、ニナが歌う。

今はそばに居られないけど
伝えたいよ、消えないこの愛が

マヤの声は乳化のように、リオの声はゾルのように、そしてアヤカのこの声は靄のような印象によって、不透明だ。そのことが、この3人がマユカ・リマとともに地上の存在として、天上に向かう4人と対置された印象を生んでいる。(MVでは、このワンシーンだけで、ちょうど歌におけるラッパー2人のような重みを、アヤカはもつのではないか、と思っている。)

君のもとへ舞い上がってゆく
アヤカの想いを包んでニナは再び空を駆けあがる。

結ばれてる心は
君と逢えない間も
灯されてる、同じ Blue Moon

ニナとミイヒに圧倒された後に、なお驚くのは、マコさんの声の輝きの密度。燃焼するマグネシウムのように輝きを集中させてきらめく。切なくなるような美しさ。

離れている時でも
ふと夜空見上げたら
輝いてる、ふたりを繋ぐ同じ Blue Moon

マコさんと同じ量の輝きを、しかし、リクは振り撒くように歌う。その明るくのびやかな声で、空は少しほの白くなるようだ。

Blue moon light, Shining over us so bright
Blue moon light, Shining over us so bright

月光の粒子と雪が混じり合った、美しき濁りのホワイトアウトが、私たちをいたわるように包む。

吹雪の中も歩んでいけるの
君のこと想えば

白く濃い霧を、一条の光が貫く。突き抜けた後、余韻が景色に広がって行くのを、私たちの耳は聞くが、霧を抜けたマコさんの視線の先には、青い満月と、それに重なるマユカの顔が見えているはずだ。

きっとすぐ逢えるから
しかし、現実のマユカは地上にいて、霧を抜け、月へ飛ぶマコさんの曳光を見上げている。その月は、しかし、三日月だ。同じ日に見る月は、地球上どの地点からでも同じ形であることを考えれば、青い月は、異なる空間だけでなく、異なる時間も繋いでいると知る。

結ばれてる心は
君と逢えない間も
灯されてる、同じ Blue Moon

離れている時でも
ふと夜空見上げたら
輝いてる、ふたりを繋ぐ同じ Blue Moon

二人は、ついにエネルギーを開放する。彼女たちの声を構成する粒子たちは、密度の高まりに耐え切れず、体積を増しながら同時に発光する。無数のきらめきのかけらが、舞い、降り注ぐ。

Lalalalala…
静かにきらめきの雪は沈んでいき、視界には再び澄み渡った夜空が戻る。

離れている時でも
届けたい、この気持ち
きれいだね、君も見てるかな 同じ Blue Moon

いつのまにか夜は明け、空には光が満ちている。そういう印象を受ける程、最後のリクの声は、明るく晴れ渡っている。もちろん、月はまだ、はっきり見えて、私たちを繋いでいる。

NiziUのファンであり、NiziUの声を愛する私は、NiziUの声もダンスも取り除いてなお名曲、という曲を待ち望んでいた。普通の大人が、何かのセットリストに取り入れたくなるような曲。ついに、出会ったと思って、今なお興奮している。だけど、また、もう一つの事実に驚き、興奮もしている。上で、私は、歌詞の意味を解説しているのではない。彼女たちの歌声が私の胸の中に喚び起こしたものを描いたのだ。つまり、この曲は、ほかのグループが歌っても名曲だが、この歌の現在の達成は、彼女たちの「歌い」によるものだということだ。誰かのマネのようだけど、私はまだ、この曲との出会い、という事件の中にいる。そして信じている。この曲の素晴らしさと、この達成を成し遂げているNiziUへの驚嘆は、必ず、世間に広がって行くと。


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