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愛してるゲームを終わらせたいに見る、フェティシズムの到達点

「愛してるゲームを終わらせたい」はサンデーうぇぶりで連載中のラブコメ作品だ。少年誌のこういった作品においては、往々にしてヒロインの「セクシーな描写」が描かれ、読者を惹きつけるものが多い。

特に現代はネットやSNSでより過激な描写に触れやすくなった環境もあり、一般誌の連載作品においてもより際どい描写が増えたように思う。

その中において、この作品はいわゆる「ラッキースケベ」などでヒロインを安く消費することなく、作品作りを進めていると感じる。
これは作品の方向性からして必然的なものがあり、うぶな二人の真剣勝負を描くテーマ性と、性的な魅力で相手を惹きつけるという描写はミスマッチを起こしてしまう。
実際作中でファーストキスに対するヒロインの葛藤が描かれているほどに、「ヒロインの純潔さ」に重きを置いている作品であるといえよう。

ではヒロインの女性的な魅力から逃げているのかといえばそうではなく、この作品のヒロイン、桜みくは可憐な容姿、明るい性格に加え、少年マンガのヒロインたる魅力が十全に詰まっていると考える。
これは2023年に行われた「週刊少年サンデー&サンデーうぇぶりヒロイン総選挙」で並み居る強豪を押し除け、桜みくが7位にランクインしたことからも明らかだ。

今回は、そんな「愛してるゲームを終わらせたい」で作者が挑戦した、「フェティシズムの到達点」について語り、いかにこの作品の作者が変態もとい天才であるかについて述べる。

◯作中随一の「過激な描写」

みなさんはこの作品で「エロいシーン」といえば、どのシーンを思い浮かべるだろうか?
いわゆる少年誌的な露骨な描写がほとんどない作品であるが、それぞれ思い浮かべるものがあるだろう。

おそらく一番多くの人が挙げるのが「ポッキーゲーム回」ではないだろうか。

ゆきやとみくがポッキーゲームをする。
挑発的なみくの表情。困惑しつつも応じるゆきや。そして不意に触れる唇。
普通触れるところまで描くか!?触れても事故で終わらせないか!?というところでこの作者のぶっとんだ構想が披露される。

「折れちゃったから…もう1回。」

いや天才か!
どこの世界にヒロインの純潔さに重きを置いた作品で、ヒロインにポッキーゲームのおかわりをさせる作者がいるんだよと。
しかも「おかわり」以降の歯止めの効かなくなった二人の描写がクッソエロい。
例えば24話5ページ下のコマで大写しになるみくの顔。ポッキーゲームをしているのだから、口を開けるわけにいかず口元を閉じたまま「…ん…っ。…ふ…」と食べ進める描写。
この必死に咥えるような口元と漏れ出る吐息、潤んだ目、「こんなこだわり方するか!?」ってくらいエロい。
あと個人的に大好きなのは、23話12ページ左上「愛してるゲームみたいだよね。」のコマ。
目元は隠れ、ポッキーを咥えた口元のみが描写されたこのコマだが、この作品を象徴するワードをこの展開で、この表情のみくに言わせる演出!見事。

そして2度目の口づけ以降、お互いの思考も掻き消され、ポッキーに手を伸ばし続けるみく、それに応えるゆきや、減りゆくポッキー、響く「カリ…カリ…」。
「え、これ全年齢対象の作品読んでるよね?」という気分にさせてくれる。
ここまでやって読者を釘付けにさせたあと…25話のみくの慟哭に繋がるのだ。

ついさっきまで「うわぁ…エッロ…!」と思いながら読んでいた自分を恥じ入る気持ちにさせられたところでカタルシスを迎える。そしてこの作品がどういう作品であったかを改めて見せつけられるのである。

◯「エロくない」露出

さて、ここで触れておかなければならないシーンが一つ。それは16話の冒頭、みくがお風呂に入るシーンだ。
ここではみくの裸が描かれているのだが、多分多くの人にとってはここよりもポッキーゲームの方が「エロい」と感じると思う。
このシーンは作者の中で「思いがけずゆきやの家にお泊まりすることになったみくの緊張が描かれる場面」であって、「みくの(性的な)魅力を押し出すシーンではない」と強く意識されているのではないか。

同じ16話の中でも、1ページ目左下コマの浴槽につける右足と6ページ左上コマのズボンからスラリと伸びた右足では後者の方がより魅力的だと感じる人も多いだろう。(ぶっちゃけどっちも大好き)

このようにこの作品において「エロい」かどうかは、露出が多いかどうかで区別されず、それこそが作者がたどり着いた無闇に露出を増やすなどのようにヒロインを安売りせずに魅力的に描く「フェティシズムの到達点」であると考える。

以下に独断と偏見で選んだ、「作者入魂の一コマ」を挙げていく。

◯作者入魂のフェティシズム描写5選+番外編

・3話「みくの口のサイズだろうか」

個人的に作者の変態性が一番出ていると感じる描写がここ。
煮物(レンコン)の切った大きさを見て、「みくの口のサイズだろうか。」ってめちゃくちゃ変態的発想じゃない!?
そうしてレンコンを意識させておいて、ゆきやの口に入るところまで丁寧に描写してるのよね。
もうここだけで「この作者フェティシズムの権化だな」くらいの感想は持ってしまいます。

・11話「サラツヤなみくの髪から香るにおい」

基本的に漫画って、表現できて視覚情報の質感までなのよ。ところが今話のみくは違う。
8ページで描かれるサラツヤの髪。
少し緊張した面持ちのみくとその手触りに驚くゆきやの表情からは、その手触りの良さが伝わってきます。
そして次ページ「めっちゃ…いいにおいする…」
ここで綺麗にまとめられた髪と分け目が描かれていて、こっちまでいい匂いが香ってくるよう。
髪ってかき上げた時の方がより匂いが拡がるわけだけど、その描写を髪を片側だけ結んだ分け目と一緒に入れることで、本当にみくの髪からいいにおいがしてくるように感じさせる作者のフェティシズムが存分に発揮されています。

・14話「みくの立ち絵に見る可憐さと純潔さの両立」

夕飯作りのためゆきやの家に来たみく。
18ページではそんなみくのエプロン姿が、コマをぶち抜いて全身描かれています。もうこれだけで素晴らしいのですが、ここの描写にも作者のこだわりが垣間見えます。
この立ち絵でまず目に入るのは出迎えにきたみくの弾ける笑顔とフリフリの可愛い勝負エプロン。これだけで十分可憐さが表せていると思うのですが、作者のみくに対する気遣いが表れているのは左脚の付け根部分。わずかにスカートの裾が見えることで「ちゃんとスカート履いてるよ!」というメッセージを感じます。
次話7ページの立ち絵では(視線の角度もあり)スカートが見えていない絵となっていることから、出迎えた最初の描写であるこの立ち絵では、読者のあらぬ妄想を掻き立てないようにスカートがチラリと映るように配慮して、みくの可憐さと純潔さを両立させていると感じました。

・21話6ページ「生徒会長に壁ドンするみく」

みくって「可愛いから」という理由で袖を折ってるんですよね。なのでそこからスラリと伸びた白い腕は、まぁ描写されることもあるわけですが、ここで特異的なのはその腋まで描かれているところ!
男子は共感してくれると思うのですが、腋フェチの人って結構多いよね。
それを受けてか、みくってきれいな腕は描かれても腋までは描かれないことがほとんどなんですよ。そんな中、生徒会長との擬似百合回にこの描写を入れてくる辺り、この回への作者の力の入れようが感じられますね。

・31話「ゆきやの妄想の中のみく」

この回のラスト、みくとゆきやが独占欲を意識した後、お互いの姿を妄想しますが、その妄想の中のみくの姿がすごい!
ベッドに押し倒され両腕を押さえられているみく。スカートは捲り上がっているようですが、「捲り上がったスカート」しか見えない。
服は乱れているようで第二ボタンが外れているところまでしか見えない。
そう、ちゃんと服着てるし、見せちゃいけないところは見せていないのである!
でも汗ばんだ肌、乱れた髪、そして首元に残るキスマークだけで、こんなにエロく描けるのよ!
ここに作者の「下着や際どい描写を描かなくたって魅力的なヒロインは描写できる!」という強い意志を感じるし、それが見事に体現されていると感じる。

・番外編、作者のみくへの愛情表現〜27-28話の看病回より、「みくの着替え」〜

看病回のこのエピソードでは、熱を出して寝込んでいるところにゆきやがやってきます。
最初はインナーを着ずにパジャマを着ていたみく。まぁ熱が出て一人で寝ているわけで、特に違和感ないのですが、問題は着替えた後。
ゆきやが来て、身体を拭いて、着替えた後はインナーを着ているのが明確にわかるように描写されているのです。
「ゆきやが来たならインナーを着るだろう」という作者のみくに対する理解と思いやりを感じますね。
ちなみにここでみくは、くまさん柄のパジャマからいちご柄のパジャマに着替えます。
「苺」の花言葉は、「幸福な家庭」、「尊重と愛情」、「あなたは私を喜ばせる」など。
ゆきやがみくの異変に気づき、駆けつけて、暖かい光と音に包まれるみくが描写される。さらに苦しい中でなんとか言葉を紡ごうとするみくに優しい言葉をかけるゆきやが描かれる今話にとって、これほど相応しい「パジャマの柄」はないと思います。

ここまで挙げた以外にも、作者こだわりの描写はいくつもあります。
ぜひ単行本を手に取って繰り返し読み、作者のこだわりに触れてください。
最新6巻は4月10日(水)発売です!!

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