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プレミア音楽朗読劇VOICARION スプーンの盾

2023年12月10日、有楽町のシアタークリエにて『VOICARION スプーンの盾』を観劇した。
この日のランチはカレーム福山潤さん、ナポレオン立木文彦さん、マリー日笠陽子さん、タレーラン諏訪部順一さん。
諏訪部さんタレーランにお会いするのは初めてで、匂い立つほどの色気と、気品と才智を纏ったお姿はまるで18世紀末のフランスから降り立ったよう。
タレーランとナポレオンとの掛け合いは、ふたりが歩んできた年月を自分も共に見てきたかのようなリアルさがあった。
だからこそ、そんなふたりが袂を分つ場面で流れる生演奏の『冷めたスープ』が胸を締め付ける。
以前、原作・脚本・演出を手がけている藤沢文翁さんがこの楽曲を音楽監督の小杉紗代さんに依頼した時のエピソードが印象的だった。
(以下ご本人のお言葉より↓)
『二人の親友の喧嘩だったので、最初は戦闘っぽい曲があがってきたのですが、僕は「むしろ、好きなのに別れなければいけない悲恋の方がニュアンス的にはあってる」とお願いしたんですよね』

悲恋、これほど当てはまる言葉はないと思う。
いつだってピエスモンテの上ではしゃぐナポレオンの姿がタレーランの心にあったのではないだろうか。
そして、そのタレーランの気持ちがウィーン会議での演説とともに痛いほど我々観客に入り込んでくる。
生い立ちも性分も違うふたりが、どこか惹かれ合い数奇な運命に導かれ、歴史を揺るがし守った祖国。

そして、カレームのフランスへの思い。
フォークだってナイフだって武器になりそうなものは他にもある。
でも彼はスプーンでみんなを守りながら、相手へも真心を差し出した。
ウィーン会議で振る舞われた料理の中に、有力者たちは子どものように自分の宝物を見つけることができたのだ。

皆が世界をひとつの食卓と思えれば、口喧嘩くらいはあるにせよ、血を流さねばならないような争いはなくなるのではないかと祈りにも似た気持ちを胸に劇場を後にした。

観劇後、余韻に包まれながら上野の『ブラッスリーレカン』さんにてスプーンの盾とのスペシャルコラボレーションメニューをいただいた。
この世界からカレームが探して見つけた宝物たちが口の中にひろがる。
作品世界を表現したコースに驚愕されっぱなしだった。
普段、いかに義務的に手早く食すことが多いか気づかされた。
自分のために温かいものは温かいうちに、冷たいものは冷たいまま目の前に運んでいただける幸せ。
ソースの一滴、スープの一雫にも込められた愛情。
お店の方々もスプーンの盾からから飛び出してきたかのように、物語の場面に沿いながらお料理の説明を丁寧にしてくださることに感激。(ここだけのエピソードなども笑)
あたかも自分がフランス革命後の市井に迷い込んだような感覚に陥った。
ブラッスリーレカンさんの厨房には、来店者のおなかを満たしたい一心で駆け回るカレームの足音とマリーの愛のこもった小言が響き、客席では料理の蘊蓄を傾けるカレームと舌鼓を打つナポレオンの姿がたしかにあった。
#スプーンの盾
#voicarion

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