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Episode.5 恥

 2月上旬。私は今日もゆっきーの家に行く。
「今日は、義姉さん達はいる?」
私が聞くと
「今日は夜まで買い物するとか言っていて居ないよ」
ゆっきーは答える。
「服着ていっているよね?」
私が次の質問を投げかける。
「ネーネーはそこまで倫理観欠けていないから」
ゆっきーがドアを開ける。
「なんか菓子とか、飲み物持ってくるか」
ゆっきーが台所に向かう。私はソファに腰を下ろす。部屋の辺りを見渡すと、少女戦士の服やおもちゃの魔法の杖みたいなのが置かれている。テレビのリモコンも大小二つある。私は小さいリモコンを手に取り、テレビを点けると実写の少女戦士の番組が映った。
「『ドリーム戦士 プリティードリーミー!』ゆっきー可愛いもの見るんだね……」
下にスクロールすると
「『仮面戦士ビット』これがゆっきーは見るものなのかな?」
なんかバッタの顔をモチーフにしたような戦士の番組もあった。私はプリティードリーミーを見てみた。すると、後ろから
ーーボトッ……パリン!
物を落とす音と、ガラスが割れたような音が聞こえた。振り向くと、顔が発火して真っ赤になったゆっきーの姿があった。
「帰れ……」
ゆっきーがいきなり怒鳴る。
「え? なんで?」
私はなんで怒っているのか分からなかった。
「早く帰れ!」
ゆっきーは私をいきなり、外へ追いやった。鍵もかけられた。
「ちょっと! ゆっきー?」
私はインターホンを鳴らしたり、ドアを叩いたりしたがゆっきーはドアを開けてくれなかった。
 翌日。ゆっきーは学校を休んでいた。私は隣のクラスへ赴き、長田くんに聞いてみた。
「長田くん……」
私は長田くんを呼ぶ。
「どうした? 亀山」
長田くんは、目を擦って居た。あまり寝て居ないのだろうか。
「昨日、ゆっきーの家に行ったら怒られて」
私は昨日のことを話す。
「え? ゆっきーから誘ったんだよな?」
長田くんが聞く。
「うん……テレビの番組が原因なのかな?」
私がそれを口にすると
「そういや、ゆっきーの過去を聞いたら小2の時に仮面戦士見ていて馬鹿にされたって聞いたな……それからも仮面戦士は見ていたみたいだが……高校1年から幼女向けのテレビシリーズを姉貴さんと見始めて、これは学校に知られたらマズイから隠してたって言ってたな……」
長田くんは、ゆっきーの過去を教えてくれた。ゆっきーは仮面戦士を見ていることを馬鹿にされたことがきっかけで、
『幼女向けのテレビシリーズ見ている高校生なんて変だ!おかしいやつだ!』
と過去の経験を重ねて、
子ども向けのもの見る=恥
だと思っていたみたいだ。
「ゆっきーの家に行って謝ってくる」
私は長田くんに頭を下げて自分のクラスに戻った。
「ゆっきーを学校に来させろよ!」
長田くんも、教室に戻る。
 放課後、源家玄関前。私はインターホンを押す。
「誰だ?」
テノールより低い、ゆっきーの声が聞こえる。ゆっきーは普段こんな低い声じゃない。
「に……ににゃだけど?」
私はドア越しに話しかける。
「帰れ!」
ゆっきーがドア越しに怒鳴る。
「ゆっきー……長田くんから聞いたよ? 小学生の時の話……好きな番組馬鹿にされて嫌だったよね……ににゃは中学生の時までドリーム戦士みたいなもの見てたよ? 確かにダンスとか上手だし可愛いもんね……ゆっきーやににゃ達の小学生時代ってジェンダーという言葉がなかった時代だもんね……でも、大人で仮面戦士熱弁しているお笑いタレントとかいたでしょ? ……」
私が次の言葉を言おうとした時、ドアが開いた。
「良かった……」
ゆっきーが鼻を啜っている。泣いているのだろうか。
「俺……あんな番組見ていて正直、女子から変な目で見られると思ったんだ……ありがとう、ドン引きしなくて」
ゆっきーは私に抱きつく。
「ドン引きしないよ……からかう人はいるかもしれないけど、俳優さんが頑張って撮影した作品でしょ? 馬鹿にした人たちは夢なんかない人だって思えばいいよ!」
私はゆっきーを慰める。私はゆっきーが泣き止むまでずっと居た。
 数時間後。ゆっきーは泣き止んだ。
「ハンカチ上げとく」
私はハンカチをゆっきーに渡す。
「ありがとう」
ゆっきーは涙を拭う。
「今日は帰っていいよ……」
ゆっきーは、そう言った。
「じゃあ、また明日ね!」
私は背中がゆっきーの涙で濡れていたが、気にせず帰った。
「UVカットのライトあったかな」
ゆっきーは何かを作りはじめた。
 翌日。1年II組。朝、登校するとゆっきーのリュックにプリティードリーミーの1人、桃山ももやまアスカのキーホルダーを付けていた。
「仁和、おはよう!」
ゆっきーは目が腫れていたため、サングラスしている。
「ゆっきー、おはよう……あの、リュックのキーホルダーは?」
私が問いかけると
「作った」
と。答えた。
「ににゃの分とかある?」
私が聞いてみると、
「アスカちゃん以外も作った」
ゆっきーは、ドリーミーピンクの桃山アスカ以外にもブルーの青川あおかわリンカ、パープルの紫村むらさきむらエリカ、イエローの黄咲きさきカナを作っていた。私とゆっきーの高校時代は2年間も続いた。

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