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Episode.4 誕生日

 11月6日。今日は遠足の日。そして私の誕生日。私はこの日のために塚本くんと別れた。私達はクラTとジャージを着て、集合場所に向かった。バスに乗ると、源くんが小さな箱を持っていた。
「仁和ちゃん! ゆっきーの隣」
席は自由のはずなのに、音琉は私の席を指定する。私は源くんの隣に腰を下ろす。なんか、すごく恥ずかしい。源くんは窓から外の景色を眺めていた。外には別クラスが乗るバスが止まっている。
 砂月ビーチ。今回の遠足場所は遊泳禁止のビーチ。一回集合して注意事項を聞いた後は、各クラスでBBQをした。源くんは肉なんかは焼かず、食べる専門だった。私も焼けた肉を食べ始める。肉の味は格別だった。
「あ! 米無くなった!」
源くんは、ご飯がなくなったらしい。
「肉一枚でどんだけ米食うんだよ!」
クラスメイトが源くんを指差し笑う。私は一応、予備としてもう一袋ご飯を持ってきていた。
「ににゃの貰う?」
私は約3ヶ月ぶりに、源くんに話しかける。
「あ、ありがとう」
源くんの声は震えていた。
 十数分後。生徒会が学級レクのドッジボールの会場設営をしていた。すると
「亀山!」
源くんの声が聞こえた。私は源くんに歩み寄る。
「どうしたの?」
私が尋ねると、源くんは小さい箱を開ける。中には、カップケーキが入っていた。蓋には『1』と『6』の数字の形をした蝋燭があった。源くんはそれをカップケーキに刺し、チャッカマンで火をつける。
「畳! 後は頼んだ!」
源くんは長田くんを呼んだ。長田くんが口笛を吹くと、生徒に扮した合唱団が並んだ。そして、ハッピーバースデーを合唱。会場設営していた生徒会や、砂浜で遊んでいた生徒たちも全員が私の所を向いた。合唱が終わった後、私は蝋燭の火を消した。もちろん願い事も
『源くんと付き合えますように』
と。蝋燭の火を消すと、拍手喝采だった。
「かめや……いや、仁和……誕生日おめでとう」
源くんは、私の誕生日を盛大にお祝いしてくれた。すると、音琉ちゃんが来て
「ねぇるが誕生日教えたんだよ?」
と。教えてくれた。
「だから、源くんは準備してたの?」
私は音琉ちゃんに聞いた。
「誕生日教えたらゆっきーはね『手作りケーキ作ってくる!』とか言ってた!」
源くんはパティシエでも目指しているのだろうか。
 帰りのバス。源くんはドッジボールではしゃいだのか、私の肩に頭を置いて寝ていた。バスの中には爆音で音楽が流れているのに。すると、前の席から夏澄ちゃんが話しかけてきた。
「ねぇねぇ仁和?」
「何? 夏澄ちゃん?」
「ゆっきーの誕生日知りたくない?」
夏澄ちゃんは、源くんの誕生日を教えてくれるみたいだ。
「何月何日なの? 教えて!」
私が夏澄ちゃんに問うと
「じゃあ、問題形式にしましょう……ゆっきーの出席番号から18引いたら分かるよ! 誕生月は、長田くんの出席番号から22引いたら分かるよ! 答え合わせは、ゆっきー本人に聞いてね!」
夏澄ちゃんは、答えではなく問題で説明した。
「ちなみに、仁和の誕生日もゆっきーに問題形式で説明したんだよ?」
夏澄ちゃんもグルだった。私は帰宅して計算してみることにした。
 嘉穂団地五階、亀山家。私はルーズリーフの1ページを取り出し、計算を始める。
《ににゃの出席番号は……37番だから、源くんは32……32-18=14》
源くんの誕生日は、14日だった。私は誕生月を知るために、長田くんに通話を繋ぐ。
『もしもし?』
長田くんが通話に出た。
「もしもし? 長田くん?」
『亀山か? どうした?』
「出席番号教えてくれない?」
『28番だ』
「ありがとう」
『侑久の誕生月知りたいんだろう?』
長田くんもグルだったみたいだ。私は通話を切る。
《28-22=6……6月》
私は源くんに通話を繋ぐ。
『亀山?』
1コールもせず、出てくれた。
「源くん? 誕生日教えてくれない?」
『もう過ぎているよ……6月14日』
「夏澄ちゃんが、問題形式で教えてくれて……」
『岩田か……俺は千々野から問題形式で教えられた……』
「知ってる」
こうして、私と源くんの仲は深まった。

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