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choice Ⅱ

雨は地面に面影を残し消えていた
遥香の家まではあまり街灯が無く、建物の影からは今にもなにかが現れそうだった

遥香︰...いつもより暗い

○○︰雨降ったからね

遥香︰そうなのかな?なんか怖いな...

○○︰そうかな?

遥香︰...

少しの沈黙の後、僕の腕に手を回し体を少し預けるような感覚が有った

○○︰...

遥香︰...

沈黙は家に着くまで続いたが、不思議とお互いの気持ちは伝わったような気がした

遥香︰...着いたよ

○○︰うん...お邪魔します

遥香︰着替えてくるから、リビングでくつろいでて

○○︰分かった

リビングへと続く扉を開け電気を付ける
言われた通りソファに腰掛けて遥香が降りてくるのを待つ
少し高い天井を眺めていると、不意に視界がぼやけ始めた

○○︰...あれ?

さっきまではなんともなかったのだが
瞼はまたも重く閉ざそうとする
それに抗う気力は残っておらず
また僕はそのまま蓋をした

気がつくと先程と同じベッドに横たわっていた

○○︰...まただ

部屋は薄暗く、カーテンの隙間から漏れる街灯の明かりだけが部屋を照らす
僕の隣に彼女が眠っていた
聞きたいことは山ほど有るが...

この寝顔を起こすことは僕には出来なかった

試しに自分の体を起こしてみると、自由の効かなかった体は自分の意思で動かせるようになっている
彼女を起こさないようにそっと寝室を後にし
扉を開けるとリビングだった

整理された家具、本棚の上には写真が幾つかあった
これは...僕だ
恐らくこれは水族館で撮ったものだろう
水槽を背景に彼女と並んで撮った一枚
彼女とのデートの一場面

自分には全く身に覚えが無い

○○︰...なんなんだこれは?

再び思考を巡らせ、辺りを探っていると急に目眩が起こる
立っていることも難しくなり、近くのソファに腰を掛けた時にはもう瞼は閉じていた

目を覚ますと肩に少し重みを感じ
視点を天井から移すと遥香がもたれて眠っていた
その寝顔に少し、僕の顔が紅潮したのは気の所為では無かった
起こさないようにそっと肩を外し、遥香を部屋へと運ぶ
二階の部屋へと続く階段を上がっていると

遥香︰......んっ

○○︰ごめん、起こしたかな?

遥香︰...あ、起きたんだぁ

○○︰眠っててごめんね

遥香︰大丈夫...その、運んでもらって悪いんだけど降ろしてくれない?...恥ずかしい

○○︰あぁ、ご...ごめん

遥香をそっと降ろしながら、二人の頬は紅潮していた

遥香︰そんなに謝らないでよ笑

○○︰ごめん...

遥香︰あ〜また謝った笑

○○︰あ、ごめん!

遥香︰もう〜笑...ねえ○○、

○○︰ん?どうしたの?

遥香︰ちょっとお話しない?

○○︰うん、良いよ

そのまま遥香の部屋へと行き、お互いベッドに並んで座った

○○︰どうしたの?

遥香︰○○、今日おかしいよ

○○︰え?

遥香︰どっか行ったかと思ったら急にずぶ濡れで帰ってくるし

○○︰...

遥香︰ねえ、何かあったの?

今日僕が死のうとした事、彼女が現れた事、遥香に話してみようかと...
今日僕が死のうとした?
そのとき自分の記憶が曖昧になっている事に気づき、再び思考が混乱し始めるなか
それを遮るように一枚の写真立てが僕の目に入った

○○︰あれは...

遥香︰え?

○○︰あの写真...見てもいい?

遥香︰写真?良いけど...

近くに行き手に取って確かめる

○○︰...なんで?

そこには小学生の時の遥香と、友達であろう女の子が写っていた

○○︰遥香...この子は…

遥香︰それは...あぁそっか、○○はこの時はまだ居なかったのか。それはね、

○○︰変なこと聞くかもだけどさ...

○○:もしかしてこの右端の人って...さくらって名前?

遥香︰え、なんで知ってるの?話したこと有ったっけ?

正直驚いた、面影があるその子はまさしく今日僕が会った人だった

○○︰今日、この人に会ったんだ

遥香︰...え?笑

○○︰...放課後さ、多分僕は屋上から飛び降りたんだよ...そしたら飛び降りたはずの屋上に居てそこにこの子も...

遥香︰ま、待って!...ちょっと何言ってるのか追いつけなくて

そうだよな...こんな話信じる人なんて居ないだろう
自分ですら曖昧な今日の出来事なのだから

遥香︰屋上から飛び降りた...?でも、生きてるでしょ!

○○︰うん...僕も何がなんだか分かんなくて

遥香︰それに...

それを聞いた途端、辺りの時間が止まったように感じた
そんなはずない...実際に今日この目で確認している
遥香の一言が頭の中で渦巻く

遥香︰さくらは...五年前に亡くなってるんだよ


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