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フグ入ちりめんを70トン食べると死にます


「ちりめんじゃこにフグ混入」

 愛知県のスーパーで販売されたちりめんじゃこにフグ稚魚が混入し、購入者が保健所に申し出たことで自主回収騒ぎになっている。
ニュースソースが同じなのか、どの記事も判で押したように「フグの有毒部位を食べると、しびれや麻痺に加え、最悪で死亡する恐れがある」と記されているが、うっかり記事を読むと「今回の混入で健康障害のリスクがある」と受け取る人もいるだろう。
フグの有毒部位を食べれば健康被害があるのは当たり前でわざわざ教えてくれなくて結構だ。
中には「ちりめん」”猛毒フグ”混入と視聴者を無用に不安にさせるミスリードなテロップを付けるテレビ局まで。
「万が一食べても健康に影響が出る可能性は低い(ほとんど無い)が、食品衛生法上問題があるため自主回収される」というのが正しい報道の在り方だと思う。

本当に大丈夫?

 ちょっとググればちゃんとデータが出ている。原典はこちら(PDF)
本当に研究者の皆様には頭が下がる。しらす加工品に混入した有毒種のフグ稚魚の毒性は0.15MU/g未満であり、10MU/g未満のふぐは「無毒」とされていて普通に食べることが出来る。
マウスユニット(MU)は生物毒の影響を測る単位で、テトロドトキシンの1MUは体重20gのマウスに対する30分の致死量だ。
ちなみに人間のテトロドトキシン致死量は10,000MUなので「フグ100%ちりめんを67kg食べると死ぬ」ということになる。

 テトロドトキシンは熱にも酸にも強く、太陽光にも影響されないためちりめんに加工しても毒性は変わらない。
昔のちりめんじゃこはイカやタコの頭足類、小エビや小ガニなど甲殻類、タツノオトシゴなど各種の魚類が混入していたが選別をするようになり混入は珍しくなっている。
選別は比重や色彩で異物を区別し風力で吹き飛ばす風力選別機を用い、さらに目視で選別されている。
こちらの選別結果を見ると技術のすごさが分かる。
 チリメンモンスター(チリモン)で検索してみたがチリモン自体の販売はほとんどヒットせず、さらに調べてみたら和歌山県のカネ上さん商標を登録していることが分かった。これでは他社はチリモンと名付けることが出来ない。取得は29類(一部の加工水産物)のみなのでチリモン図鑑などはOKとなる。
楽天で「訳あり ちりめん 無選別」等で検索すると「モンちり」等がヒットする。ぎりぎり類似商標回避かな。
 ちなみにシラスは色が白く長細い稚魚を指し、これを塩ゆでして半乾燥したものを「しらす干し」と言い、さらに乾燥させて固くなったものを「ちりめん(じゃこ)」と言う。
 世界一高い魚で知られるウナギの稚魚もシラスウナギ。年にもよるがキロ300万円とも言われる。

70トン食べたら致死量

 実際にはちりめんに混入したフグは前記の研究によると「ちりめん1kgあたり0.0033g」となっており、ざっくりフグ混入を最大限に見込んで0.1%とするとフグ入りちりめんの致死量は約70トンということになる。どう考えても死因はフグ毒では無いが笑
 実質的にちりめん混入フグによる健康被害は「ない」ということになる。
ゼロではないと言うかも知れないが毒性ゼロの食材など存在しない。
生タマネギも含まれるアリシンによって一玉程度でも体調不良を引き起こすことがある。
フグちりめんより、自分でさばいたサバの刺身を食べる方が何千倍もリスクが高い。
 食べられるフグの種類と部位は食品衛生法細かく定められている
フグの肝臓は有毒部位として種類を問わず販売・提供が禁じられているが、沖縄奄美では無毒のフグであるハリセンボン(アバス・アバサー)の肝が魚屋で普通に売られているし、居酒屋の唐揚げにも肝が入っている。
法的には完全アウトだが大目に見られているらしい。
 ちりめん混入フグも過去の報道を見ると無毒のシロサバフグ・クロサバフグであることが多い。
今回も一部報道ではシロサバフグとされている(種類不明の報道が多い)
毒性のある品種でも、フグは元々は無毒で餌から毒性を獲得するので稚魚・幼魚は無毒である可能性もある。

では何故回収するのか

 法的・ルール上は問題が無くても「とりあえずクレームが来たら回収」という世の流れもあるかと思う。
今回直接保健所に連絡があったので、保健所としては動かざるを得ない。
他の購買者が食べても健康被害の出るような案件では無いので店舗に持ってきてくれたら返品交換・返金ですませると思うし、それが正しい対応だろう。その時点の在庫分を徹底的に選別して販売すればコンプライアンス的にも大きな問題は無いと思う。
ちりめんのフグ混入は時々あるが、小さすぎて品種不明だったりするので食品衛生法上は販売出来ないフグかもしれない。残念ながら食品衛生法にサイズの規定は無い。
無毒のフグでも種類によって販売出来る部位が異なり、肝臓に関してはいかなるフグでも販売・提供禁止なので、内臓の除去が出来ないちりめんフグは全て違法となる。
さらに都道府県にもよると思うが、ふぐを販売する場合は種類・加工法など所定の事項をパッケージに記載する条例があり、これにも抵触する。
 法令違反になるからには自主回収はやむを得ない措置だ。
フグは法令上仕方ないが(無害であることはアナウンスすべきだと思う)、チリモン(この言葉便利だな)に対するクレームは増えているようで信じられない事例もある。
厳しくすればする程ちりめんの値段は上がることは理解して欲しい。
選別ではじくロス率は半端じゃないそうだ。

 「フグ=危ない!」の報道に疑問を持ったので少し調べてみた。
安全と報道して億が一の事故が起こった時のリスク管理も必要かもしれないが、メディアは事実や発言の「意味」をくみ取る報道をすべきだと思う。
このニュースだけを見ると「ちりめんのフグは危ない」と思う人がいるかもしれないので。(実際にTwitterで多数確認)
健康被害がないことをあらかじめ知っていればフグが入っていても騒ぐ人は減ると思う。報道が新たな事件を作るマッチポンプになっている。
個人的にはチリモン多めのじゃこを買いたい。 あ、さすがに↓はどうかと思う。無毒だけど。

フグちりめんバナーは@OBOtto_様からいただきました

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