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令和の男の理想は、強くて輝いていてどこか臆病な「アイドル」なのかもしれない

師走ゆき先生『多問くん 今どっち!? 1』感想【ネタばれなし】

みなさんこんにちは、三度の飯より少女漫画が好きなめるこです。世の中に少しでもキュンをあふれさせるためのおすすめ読書レビュー、今回は白泉社の『多聞くん 今どっち!?』です。


昨今、アイドルの台頭は目覚ましいものがあり、「推し」という言葉が世間一般で使用されるようになってきた。

美しい歌声、女性と見紛うルックス、パフォーマンスを行うための強靭な肉体……令和の乙女が理想とする王子様の理想形はもはや「アイドル」に託されたとまで言えると思う。
そんなアイドルと人目を忍んで秘密の恋をする妄想をしたことがある乙女は少なくあるまい。
そんな王道ともいえるシチュエーションを非常に令和的に描きあげているのが本作である。

『多聞くん 今どっち!?』

表紙 かわいいよね

本屋で平積みされている少女漫画の中、ひときわ異彩を放っていたのがこちら。
まず、表紙のイケメンに目がいく。
なななななんなんだこのピンク髪のイケメンは!?しかも投げキッスしているぞ????すげえかわいいじゃん。
それに加えて「多聞くん 今どっち!?」というキャッチ―なタイトル。どっちってどっち??東西南北どっち???

「相手のことが知りたい…」と思わせたら勝ち、という恋愛論法に則ると私は表紙の時点で完全に負けた。だってこんなピンク髪のイケメンが目の前にいたら知りたいって思うじゃん?それは乙女の本能なので仕方がない。
おそらく表紙のイケイケピンクが「多聞くん」なのだろう…そして後ろでうちわを振っているのがヒロインかしらん?とニヤリとし、本屋を後にしました。

しかしこの漫画、ただのアイドルものではない。

推しに貢ぐ金こさえに来たら推しの家だった件
木下うたげは大人気アイドルF/ACEの福原多聞くん推しの高校生。ある日バイトで向かった先が、なんと多聞くんの家だった!
しかも、多聞くんの本章はセクシー&ワイルドなアイドル姿とは真逆の、ジメジメ陰キャで…?
どんな姿であれ、多聞くんは多聞くん。自己肯定感が低い彼を、全力でサポートすることに!

(裏表紙あらすじ)

多聞くんは当初の予想通りピンクのイケメンだったのだが……なんと普段の姿はド陰キャらしい。表紙の華麗なウィンクと投げちゅーは仮の姿かーい。

多聞くんはジメジメ陰キャ故にアイドルモードのキャラ作りで疲れたり悩んだりするのですが、主人公のおかげで色々なことを乗り越え、アイドルとして成長していく様子が全編で描かれていきます。

主人公のうたげちゃんですが、この子、マジでいい子なんですね。

あくまでも多聞くんに対する姿勢がファンとしてのもので、時々私情を挟んじゃうこともあるけれど、最後までそれが変わらない。多聞くんを純粋に見上げて、「がんばれ!」って最後まで信じてくれる女の子です。誰よりも多聞くんの力をわかっていて、全力で応援してくれる。ファンの鑑よ。
というか、こんないい子普通に好きになっちゃうじゃんね?

ということで多聞くん、どう見ても1ファン以上のファンサしちゃってる場面がいくつかありまして。キスはしません。まだ。(ここだけ強調)
私が週刊〇春の記者だったらカメラ構えてカシャカシャしちゃうよ、多聞くん。気をつけてください。
うたげちゃんはプロファンのため、多聞くんが建てようとしたフラグを天然でバリボリにしていきます。かわいい。多聞くん不憫。

そこで気付くわけです。これは主人公側で読むものではない、とね。

初め我々はうたげちゃんに感情移入して漫画を読んでいましたが、だんだん多聞くんの熱烈ファンサ(意味深)をただのファンサとして威力減させていくうたげちゃんにやきもきしだすんだ。

うたげちゃん、ちゃうで。それはおそらく多聞くんの「特別」やで。記事にされたらアウトやで?
多聞くん…。多聞くん、うたげちゃんはな、そんなんじゃ気付きまへんで。

1巻を読み終わる頃には、お見合いのおせっかいおばさんのように、若人二人をどうにかしてくっつけとうとしている自分がいた。
無自覚なそれらの感情に名付けられた「推し」という看板を引っぺがして「恋」と書きなぐり、富士山の頂上で叫びだしたくなるような気持ち。
はた迷惑である。

王道であるアイドルもの。しかし主人公と未熟なヒーローは「推し」という現代的な言葉に囚われ、それらを「恋」と自覚できない。
それがどのように変容していくのか、あまりにも楽しみ過ぎる作品。

多聞くん、今どっち!?
は、
彼の精神状態を表しているだけではなく、うたげちゃんへの気持ちを「ファンとしてのもの」か「好きな子」へのものかどっちなのか?
を表す日がくるのかもしれない。

とりあえず続き買います。

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