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トゥモローランドとポートディスカバリーから考える、自然との向き合い方

今回は東京ディズニーリゾートの中でも未来を描く二つのテーマエリア、トゥモローランドとポートディスカバリーについて、「自然との向き合い方」を切り口に考えたことを書いてみようと思う。

「自然を大事にしよう」「環境を守ろう」そんな声はとっくの昔から世界中で”なんとなく”叫ばれてきたが、地球各地で異常気象が激甚化し、我々一般市民もいよいよ悠長にしていられなくなってきた。SDGsの呼びかけはそんな民草にも割と効果があり、「自然と共に生きてこそ人間」みたいな価値観が社会的にもできあがりつつあるだろう…。

えっ、いつディズニーランドの話するんですかって?ごめんなさい、今から入ります。

そう、こういった価値観が広まったおかげで、人類社会の未来予想図(理想図といったほうが良いか?)もだいぶ様変わりした。トゥモローランドとポートディスカバリーはそんな時流に乗っかり、アップデートを行ったのではないか。そういう所を見ていこう。

かつての「未来」:テクノロジーが支配する社会

二つのエリアを考えるにあたり、当初表現された未来の姿を見てみよう。それはズバリ「テクノロジーが切り拓く世界」であった。

トゥモローランドはご存じの通り、未来をテーマにしたエリア。本国カリフォルニアのディズニーランドで初めてオープンして以来、最先端の技術をエンターテイメントに昇華させた「万博」のようなコンセプトで他のエリアとは一線を画してきた。

デザインは直線的でモダン極まる。アトラクションは実験映像やスペース・マウンテンなど、最新技術や宇宙をテーマにしたものが多く、当時の人々は科学の発展とその先にある未来を見ていたといえよう。

ポートディスカバリーは「時空を超えた未来のマリーナ」がテーマ。レトロフューチャーを基調に、最新技術「ストームライダー」で嵐に立ち向かう科学基地である。

ストームライダーはポートディスカバリーの研究者が生み出した科学の結晶。甚大な被害をもたらすストームを消滅させる「ストームディフューザー」を備えた、対風雨災害用決戦兵器ともいえる。かなり物々しい。

この二つのコンセプトが導く未来は「科学による自然の支配」であったといえる。トゥモローランドは植木までもが幾何学的な形にカットされ、世界のすべてがモダニズム溢れる抽象的なデザインで統一されていた。ポートディスカバリーも「気象コントロールセンター」を擁していただけに、人類の平和のために自然を科学のコントロール下に置くことが目標であった。これらの世界に自然が自然のまま人類と関わる余地は無い。自然はあくまで乗り越えるべき敵であったのだ。

今問い直す未来:自然との和解

しかし、時代が進むと、科学技術は「人類の夢」から「当たり前の道具」に零落する。そしてさらに、科学の発展が自然にかけ続けた負荷が気候変動となって自分たちに跳ね返ってきたのだ。

このあたりで人類は自然を支配することを諦めはじめる。自然の一員として、科学を共存の道しるべに活用する方向に舵をきった。この流れが広がり、2015年のSDGs策定を契機に、ついに環境保護は人類が日々意識すべきスローガンとなったといえるのではないか。

未来を描いてきたトゥモローランドも、その姿を変えていく。かつて「スタージェット」横に存在した植木は図形的なシルエットに剪定されていた。ところが、「スタージェット」がクローズし、「ベイマックスのハッピーライド」がオープンすると、植木は自然な形に剪定されはじめる。周辺の構造物にも曲線的な意匠が増え、自然との調和が表現されるようになった。

ポートディスカバリーは2016年に「ストームライダー」がクローズし、翌年「ニモ&フレンズ シーライダー」がオープンした。「シーライダー」の特徴は海洋環境保護のメッセージ性である。アトラクション本編は説教臭いものではないのだが、降り口には「海洋生物を守るため、環境のことを考えよう」というようなメッセージがみられる。魚たちと楽しい冒険をした子供たちはさぞ肝に銘じることだろう。

未来を描くテーマパークとは

科学で自然を排除し従えようとした場所は、自然と人類が調和する科学を目指す場所へ。自然の負を乗り越えようとした場所は、自然に寄り添い交わる場所へ。家族で楽しめるテーマパークとして、過度に説教じみた場所になる必要は無い。ただ、現代人が理想の未来を夢見る場所であり続けるならば、現代と共にその形も絶えず変わっていくはずである。

二つのエリアはイマジニアだけが作る空間ではないのかもしれない。我々のイマジネーションが今のトゥモローランドとポートディスカバリーに繋がり、我々の選択が、未来のトゥモローランドとポートディスカバリーを作っていくのではないだろうか。

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