とるにたらないこと

私だってすごくすごく誠実になりたいのに。ほんとうのほんとうの気持ちを心の一番奥のところで燃やせたら、そのメラメラはきっと私の体を温めてくれるはずだ。それなのになぜ、私はすぐにシニカルになってあの曲がった笑みを口元に浮かべてしまうのだろう。なぜ。なんで。

(それは幼稚なニヒリズムじゃない?)

わかってるよ。そんなことくらい。でも、笑われたくないし、馬鹿にされたくない。なにかを真剣におもいたいのと同じくらい、失敗したくない。だってこわいもん。みんなが敵にみえるんだもん。扉をぴたっと閉めないと思うように文字が書けないよ。小さくてせまいところでじっとしていたい。

(そうだね。外は戦場だもんね)

いや、ほんとうはそんなことすら思っていないのかもしれない。ただ否定されるべきことが否定される日がくるのに怯えている。宿題をやってこなかった次の日みたいに。変なめがねをかけて教室に行かなきゃいけなかった日みたいに。

(でも、もう教室はないみたいだよ)

もう教室なんてないのに、私はずっと震えている。誰もいない場所でいないはずのクラスメイトに怯えている。怯えていないとほんとうにひとりぼっちになっちゃうかもしれないし、怯えるのをやめたらぜんぶの輪から排斥されるかもしれないから。

(しかもそのなかのたったひとりに嫌われることが一番嫌なんだよね)

そう。それは私が甘えてみせた人。私が寄りかかろうとした人。そして私の重みに耐えきれずどこかへ消えてしまう人。

(信じていることはなに?)

信じていることはない。ただ目の前の恐怖だけがある。恐怖のかわりに享楽の日もあるけど、同じこと。なにもない部屋にひとりでいる。自分で自分を閉じ込めちゃった。たまに部屋から出たように錯覚するときもある。だけどそれは小部屋が作りだす幻想にすぎない。一瞬見えたあの人の影とか、全てを肯定するような輝きとか、なぐさめてくれる熊の友達は、本当にはいない。

(それが信じていることなの?)

うん。それが私の信じていることだよ。楽しかったことも、辛かったことも、ぜんぶぜんぶ、とるにたらないこと。

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