「タイタニック」ローズの心の自由とは
週末、タイタニックを映画館で鑑賞してきた。
(※ネタバレ含みます)
ジャックは「僕たちは自由だ」と彼女に本心のままに生きれば良いと熱心に訴えていたのが印象的だった。
「私はジャックにあらゆる面で救われた」と老年のローズは振り返る。
タイタニックでの事だけでなく、その後の人生において彼女が心のままに生きること、それを決して諦めてはいけないという大切な事に気付かせてくれたんだろう。
だから、ローズの心の中で彼は永遠に生き続ける。
彼女はジャックと出会い、生きる目的に気が付けたんだ。
上流階級で物質的には何ひとつ不自由はないが、ローズの心が満たされなかったのは本心から自由ではないから。
家の都合で婚約者を決められたこと。
世間話やお世辞ばかりの表面上の付き合いと、見栄や金儲けばかりの人達に彼女の本心などわかるはずもない。
彼女は別にわがままを言いたかったわけじゃない。
自分の価値観を尊重して欲しかった。
船に乗り、ピカソの絵並べて「素敵だ」と眺めるローズに「そんな無名画家は一生貧乏人だ。だから安い」と婚約者のホックリーは彼女の価値観を否定した。
ホックリーは彼女の家名と外見上の美しさに惹かれていたが、彼女自身の事を何も知ろうとはしない。
彼女がどんな女性で、何が好きで、何をしたいと願っているのか‥ローズはホックリーのビジネスに役に立つ飾りでしかないように見えた。
彼女が見るものを見ようとせず、自由を奪い、自分の鳥籠に入れるような愛し方は彼女の心を一層孤独にさせていた。
ジャックの関わり方はどうだっただろう。
ジャックはローズの階級など気にしなかったし、最初から1人の人間として彼女を尊重していた。こんな事を言って彼女から嫌われたらどうしょうなんて考えてない。
ジャックには臆病さはどこにもない。
ジャックは失うものが何もなく、貧乏な自分さえ肯定し堂々としていた。
ジャックは鋭い慧眼を持ち、ローズに確信めいた事も言う。
ジャックのスケッチブックに描かれた人間とその観察力に驚いてローズは
「あなた‥人を見抜く目があるわね」
「だから君のこともわかった」
「それはどんな風に?」
「(自殺しようとしてたけど)君は飛べないとわかってた」
「!!」(図星)
「‥君は本当に奴を愛してるのか?」
「!!ずいぶん不躾な事を聞くのね?!信じられないわ!!」
この後ローズはジャックに呆れて怒りだす。
ジャックに本心を見破られたくなかったからだ。
ジャックの発言にローズは内心焦っていた。
ローズ自身、婚約者ホックリーが好きなのかよくわかっていなかったし「囚われの身だ!」と主張しながらも、本心からそれに抗い行動しようとしてなかった事に気付かされたからだ。
本心に向き合うのは、とても恐ろしく勇気のいること。
なぜなら、認識すると問題から目を逸せなくなるから。
問題に向き合うことを恐れ、見ないように抵抗する。真実を知りたくなかったんだ。
人間は話す事と本心が違う事が多い。
表面上文句を言いながら、結局は何も解決しようとしていない。そんな人がほとんどだ。
そう‥本心は自分にはどうせ無理だと諦めてる。
諦められないから不満に思うのではなく、もう諦めてるから不満として出るんだ。
ローズはジャックの飾りがない率直なところを尊敬していた。
彼の言葉がローズの心にそのまま浸透していくのは、ジャックは自分を曝け出し、ローズを人間としてありのまま見ていたからだと思う。
上流階級という物差しで評価せず、誰かと比べる事なく公平に接していた。
ローズの本心を探るように、そしてそれを楽しみ、少しからかうように彼女を見つめていた。
映画では、階級と金に執着する人間達が、他人と比べていかに優越に浸るのか至る所で描かれている。
世間話は見栄の張り合いで、噂話は誰かを嘲笑するものばかり。
そんな上辺の飾りの見せ合いと、他人を上げ下げすることで「自分自身」や「家柄」を守ってる‥
「やぁ見違えたな、ホンモノの紳士みたいだ」
正装したジャックにホックリーは貧乏人を蔑むような嫌味を言うが、ジャックはそもそも比べられる事を何とも思ってないから響くことはない。
(また言ってるな‥)くらいに微笑む。
ローズはジャックを一等席の人達に食事の席で紹介した。
「彼の絵はとても素敵なんです」
ジャックは照れるが、ホックリーはすかさず
「彼女の選ぶ絵は‥どうもセンスが悪い。あ、失礼だったら申し訳ない」とまた水を差す。
ジャックがその日暮らしで不安定だとローズの母が馬鹿にするが
「確かにその日暮らしですが、毎日何が起きるのかわからないって楽しいですよ。橋の下で寝る日もあれば、皆さんとこうして食事できる日もある」と、ワイングラスを持ち上げ🥂余裕で微笑んだ。
ホックリーとローズの母に差別的な嫌味を言われても、ユーモアを添えて切り返すジャックにローズは心を奪われていく。
「この人には怖いものがない」というような自信と、まっすぐな心は彼女の本心をどんどん突き動かしていく。
ジャックとホックリーの愛し方の違いは、
金で約束された豊かな人生と物質を与えるか
何も与えられなくとも、心を尊重するか
その違いだろう。
ホックリーは愛し方を知らず、ローズを自分の飾り物、所有物かのように扱っていた。
私はローズをINFP(ESI)だと考えている。
ジャックは見えないものを信じ、ホックリーは見えるものを信じている。
この2人の対比がローズの葛藤そのもので、
ありのまま心の自由(Fi-Ne)でいるか、常識や伝統を守る〜すべき(Si)目的が先行するのか‥
最初のつんけんした態度はINFPの劣等Teが目立っているなと感じたし、まわりに抵抗する事で本心と価値観を守ろうと彼女なりに必死だった。
それが反抗心として出ていた。
しかし、ジャックと出会い、他の人からは理解されない本心を君はそのままで良いと光を当ててくれた。
彼女が彼に惹かれないわけはないでしょうね。
心がどんどん軽くなり、自分らしくいられる喜びを感じていた。
上流階級の妻として、偽りの何者かになるなんて心底ごめんだ。
船首に立ち「僕たちは自由だ!」と海原を飛ぶように見せた光景は、彼女が本心に従う勇気を与えた。
その証拠にそれから彼女自身迷わなくなった。
ジャックはローズに寄り添うが、2人とも相手に「こうしろ、こうして欲しい」とは言わない。
2人はお互い依存する事なく自立している愛だなぁと感じた。
2人の愛は自分をありのまま表現し自由であること。同じ方向を向き、束縛も強制も一切ない。
だからローズはジャックの側でいつも自由でいられる。
ローズから絵を依頼され、ジャックはその通り彼女にプレゼントした。
彼は作品に愛を込め、そこに下心は一切なかったし、彼の絵を描く姿勢はそんなチープなものではない。老年のローズは「彼は紳士だった」と振り返っている。
後半はタイタニックが沈没していく恐怖と生命の危機にある時、上辺だけの人間と自分の事しか考えられない人間‥パニックの中で心や行動はどう豹変していくのかが繊細に描写されている。
タイタニックの設計主任トーマス・アンドリュースは、ローズの指摘の鋭さに一目おいていた。
彼はタイタニックが沈没する事実に冷静に対応する。
パニックが起こる事を想定して最善の行動をとり、自分の計算が甘かった事を自覚しローズにやがて沈む事を伝える。
事実と死に抗わずそのまま向き合う姿勢、設計した船そのものと死を共に覚悟する姿がINTJぽいなぁと好感を抱いていた人物。
我れ先に生き残ろうとするものは、パニックに陥りやすく冷静さを失ってしまう。
表面的な仲良しごっこや自慢大会は自分の生命には変えられず他者を押し退け、金が何の役にも立たないという真実を知る。
人間の本性は、こうした状況であらわになり、それが自分の醜い本来の姿だと皆嫌でも思い知らされる。
そういう意味ではこの映画は大いに皮肉めいている。
ジャックは自殺しようとしたローズにこう言った。「飛ぶ時は一緒だ。本当は僕だって飛びたくないんだけど‥君がそう言うなら仕方ないな」
ジャックは死をどんな風に捉えていただろう。
この時はローズは飛ばないとわかっていたけど、ローズはこの言葉をちゃんと覚えていた。
せっかく乗った救命ボートから飛び降りて船に戻り、「飛ぶ時は一緒よ」とジャックの元に駆け寄った。ジャックと共に行きたい、それがたとえ死であっても私は一緒に行くんだと決意したんだろう。
それが彼女の本心に従った素直な行動だった。
このシーン、2人のこれからを決定づけた重要な分岐で個人的には1番好きなところ。
でも、人によっては「ローズは勝手だ」と評価される。
それはローズが救命ボートから飛び降りず、ジャックが1人なら2人とも助かったのではないか?という意見。
が、この作品の伝えたい事は、そもそもそんな話ではないしハッピーエンドが目的でもない。
本筋はローズがジャックと関わる事で、自分の本心とどう向き合い、解放させていくかであって、生き残る云々の話ではなくそれさえも超えようとする物語だと私は解釈してる。
全体を通してローズが自己中で勝手だと見る人は多いかもしれない。
INFPのFiの理想である自由と尊重は世の中に理解されにくい。
彼女は常識や伝統に流されず、本心のままに生きようとした。誰にも迷惑をかけないし、ただそれだけを願い理想とする。
母親に「家にはお金がもうないの。残っているのは家名だけ。あなたは私に針子でもしろと言うの?」
と言われローズはその罪悪感から一度、ジャックに「もう関わらないで」と伝えており、家と自身の心で彼女は十分葛藤していた。
婚約してるのに浮気だとか、2人の男にどうこうとか‥そういう男女の関係性だけでローズを評価するなら私はとても悲しい。
最期まで、ローズとジャックは生きることを諦めなかった。
ジャックは彼女の幸せを願い、ローズが強い女性だと理解していたし、それはローズも同じだった。
お互いを信頼するってたぶんこういうこと。
1人でも生きていけると認め合う事。
だから物理的に離れようが、たとえ肉体が消滅しようが2人は変わらないこと知っている。
ジャックはローズのありのままを信じていたし、ローズもそれに応えたにすぎない。
ジャックにはローズが輝いて見えたんだろう。
ローズは少なくとも誰かに守ってもらおうとか、男性に頼ろうとする女性ではないし、自分で考え、心を受容できる人だった。
ただ「上流階級の当たり前」に反発しながらも、それに抵抗する勇気がなかっただけだ。
ジャックの愛は彼女を縛り付けていたものから解放し「自分らしく強く生きろ」という強烈なメッセージになった。
ジャック
「船のチケットは、人生で最高のものだった。君に会わせてくれたからね。本当にありがたいと思ってる。必ず生き残ると約束してくれ。どんなことがあっても、どんなに望みがなくなったとしても、決してあきらめないでくれ。今、約束してくれ。そして、絶対に約束を守ってくれ」
「諦めない、約束するわ」
暗く冷たい海に浮かんだ扉の上で、凍えて眠ったままのジャックにローズはお別れを告げた。
ローズはとても強い女性だ。
ジャックが伝えたいことを完全に理解していた。
必死に笛を吹いて、ボートを呼ぶ。
ジャックの言葉通り、自分の心を大切に生きなきゃって、前を向いて私はどんな時も諦めないって。
映画の最後に眠るローズの横に並べられた写真の数々。
笑顔で馬にまたがり、飛行機に乗る写真もあったかな‥ローズが挑戦したかったことだ。
ローズはあれから、本心のまま好奇心のままに彼女らしく生きてきた事がわかる。
碧洋のハートのネックレスをローズは海に沈めた。ローズはジャックとの思い出を誰にも言わずに今まで秘密にしていたが、誰かに話した事でジャックとの思い出が眠る深海に返せたのかもしれない。
ジャックとローズは長い時間を経ても心で繋がっていた。
きっとジャックが言ったように彼女は温かいベッドの上でみんなに見守られながら死を迎えるんだろう。
ローズが自分らしく生きる事を諦めなかったのはジャックがずっと心を支えていたからだ。
私は、愛は必ずしも2人が一緒にいることではないと考えてる。
愛は個人が独立し尊重するから成り立つもので、「あなたのため」とお互い向き合うのはまた違う気がするんだ。
「あなたのために生きる」とか「あなたが私の全て」とか‥それは尊重ではなく、私には「あなたのために自分の事を我慢します」「私はあなたの重しですよ」と言われてるようで‥
要するにお互いに自分のこだわりを押し付けて当然という気もするし、真の意味で価値観を尊重する関係ではなさそうな気もする。
「私の彼は何でも言うことを聞いてくれる」とか
「彼女のために留学するのをやめた」とか
そういうのは優しさなのかな?
誰かのために自分を犠牲にするのが愛なんだろうか?
相手の成長や幸せを尊重し、前を向ける人って‥
世の中限られてるんだろうか?
豪華客船タイタニックに込められた人々の理想と時代背景から、それぞれの想いや大切なもの、真実の愛や尊重について改めて考えさせられた気がする。
余談
ジェームズ・キャメロン監督はINFJなんだろうか‥考察していて、成長と本心の解放、理想の道が同じだなぁと感じた。
二項対立と皮肉めいたところも発想が似てる。
他の作品も観てみたくなった。
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