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め組の大吾

先日漫画家の曽田正人さんが描く世界は魅力的な天才が、天才であるがゆえの苦悩を抱えながら成長していく物語だと紹介しました。

そんな曽田先生の作品で大好きな作品が「め組の大吾」です。私が読んでいため組の大吾は私が小学生から中学生にかけてくらいの時期に連載していた作品ですが、先日月刊少年マガジンを読んでいたら新しいめ組の大吾がスタートしていましたね。

め組の大吾は漫画では非常にめずらしいと思うのですが、消防士の世界に焦点をあてた物語です。幼いころ、火災にまきこまれたとき、自らを救ってくれた消防士にあこがれ、主人公の朝比奈大吾は消防士になるところから物語は始まります。

様々な災害現場で、主人公は要救助者を見事に救出するのですが、いつもセオリーから外れたスタンドプレーを行ってしまい、時に現場は混乱してしまいます。しかし彼の天才的なひらめきは結果的に多くの人を救うのです。

まさにレスキューの天才と言えるでしょう。そして主人公はもっと多くの人を救いたいとハイパーレスキューの試験を受け見事に合格、地獄の訓練を耐え抜いてハイパーレスキューになる資格を手にします。

しかし、その訓練を受けた同期生たちとのお疲れ様会の描写のなかで、彼の苦労が見えてきます。「世の中から災害がなくなるのが一番いいこと。だけど災害がなくなってしまったら俺たちは世の中から必要なくなるんじゃないか。」人を救いたいと本気で思い、命をかけて災害と戦っているからこそ、そこに自らの価値を見出している。その災害がなくなってしまったら自分に価値はなくなるんじゃないか。がんばって自分の求める世界が実現したら、結果的に自分のこの世界にいる価値がなくなるという矛盾に苦しむ主人公に胸が痛くなりました。

この苦悩は主人公がレスキューを続けている間ずっと続いているもので、主人公のライバルである甘粕が物語の終盤に災害という悲劇の現場で求められる才能をもつ主人公につらかっただろうと語りかけます。しかしだからこそお前はレスキューをやるべきだと。胸が熱くなるシーンでした。

また、その甘粕がこんなエピソードも話していました。

ワールドカップの得点王になる選手に何歳ごろにワールドカップの得点王になれそうだと思ったかと質問すると大抵が怪訝な顔をするそうだと。

普通の人間はサッカーを初めて誰もがワールドカップを夢見るけれど成長していくうちに、どんどんと現実が見えてきて、自分には無理なんじゃないかと思い始める。

しかし、ワールドカップの得点王になるような選手は最初から自分はなれるものだと思い、信じて疑わないと。だからこそ実現するのだと。

そしてそのエピソードのときに甘粕は主人公の大吾に対して、「お前は現場でいつももうだめだ、っていうけれど心のそこでは何とかなると思っているはずだ、だからこそ人の命が救えるんだ」と言うのです。

これは人生のいろんな場面であてはまることだと思います。自分の思い描く理想があっても、いろんな現実がみえてきて、だんだんともうだめだとおもってあきらめてしまう。でも最後に成功している人間は、最初から最後まで自分を疑わず、もうだめだなんて頭にも浮かばなかった人間だと。

そこまで強く自分の意思を保つのは、いろんな現実という言い訳を考えてしまう普通の人間には難しいですが、つらくなったときにはこのエピソードを思い出して自分を奮い立たせています。

今の世は災害にあっているような辛い情況が続いています。そんな中でも作品を通して勇気を与えてくれる曽田正人先生が私は大好きです。

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