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往診・在宅医療現場におけるヒドロキシジンの使用 エビデンスレベルは高くないが往診医として伝えたい医療実践(1)

往診・在宅医療現場におけるヒドロキシジンの使用


エビデンスレベルは高くないが、往診医として伝えたい医療実践、編の第1回としてヒドロキシジンを取り上げたいと思います。

なぜ、第1回として「ヒドロキシジン、商品名アタラックスP」かというと、2023年の医学雑誌「緩和ケア」において「ヒドロキシジンに役割はあるか」というタイトルの論文が出ていたのを読んだのがきっかけです。
この論文のまとめは、
終末期を含めたがん患者のせん妄に対してヒドロキシジンの有用性の根拠は乏しく、第一選択肢となりにくいが、他の注射剤では対応が困難な際には選択肢となりうる。

ということで、そのまま読めば、積極的に勧めるものではないけれども使える場面はある、ということかと思います。
ヒドロキシジン、アタラックスpは1950年代に出てきた薬で、いわゆるOld Drugと言ってもよい部類と存じます。
この論文を読んだ時に、私は、この薬剤をあえて取り上げているところをみると、少なからぬ専門家が実際の医療現場においては、この薬剤を使ってみて良かった経験があるのではないかと考えました。

商品名アタラックスPという薬剤については、私も病院勤務の時にも何度か使いました。
「アタP注射して」といった指示を出したことがあります。
その際に現場で流れる空気として、「あまり高級ではないけど何とかその場をしのぐ治療」というものがありました。

しかしながら、往診医となっている現在、私自身は大変重宝しており、必須薬の1つとしていつも往診車に入れています。


少し薬剤の説明をします。
まずこの薬剤の添付文書上の効果・効能として
*  神経症における不安・緊張・抑うつ
*  麻醉前投薬
*  術前・術後の悪心・嘔吐の防止
と記載されています。

また、Wikipedia では、
ヒドロキシジンは、構造中にジフェニルメタンとピペラジンを含む第一世代抗ヒスタミン薬の一つである。1953年に初めて発見され[2]、1956年に発売された。商品名アタラックスまたはアタラックス-P。日本で承認を取得したのは、1957年(昭和32年)6月である。
中枢神経抑制効果があり、強い抗不安作用と弱い強迫性障害抑制効果を持つので、向精神薬として、主に神経症における不安・緊張・抑うつの軽減補助に用いられる。
抗ヒスタミン作用があるので瘙痒感、痛覚過敏、乗り物酔いによる嘔気にも使われる。鎮静、催眠、抗不安効果を持つが、治療域内の用量では薬物乱用や薬物依存症の危険はないとされる。
オピオイド離脱(英語版)症候群の低減にも使用される。またオピオイドの鎮痛効果の増強と、オピオイドの副作用である瘙痒感、嘔気、嘔吐の軽減に用いられる。
また、先の「緩和ケア」雑誌には、
・第一世代抗ヒスタミン薬の中では抗コリン作用が少ない可能性がある。
 抗コリン作用が強いとせん妄を発症、悪化させるが、この薬剤はそうではないのではないか。
・内服困難かつ、抗精神病薬では鎮静が不十分な場合や呼吸抑制、循環器系の問題等で抗精神病薬やベンゾジアゾピン系では対応が困難な場合には選択肢となる。

こうした症状に対してこの薬剤を使用するメリットを往診医の立場からまとめました。
4点ほどあります。
1)筋肉注射、皮下注射できる。
2)筋肉注射、皮下注射で静脈注射と効果は変わらない。静脈ライン確保が難しい。在宅では大きなメリット
3)速効性がある。10−15分で効果が出る。
4)安全性がある。呼吸抑制がない。血圧や脈拍への影響が少ない。(抗精神病薬ハロペリドール(セレネース)、ミダゾラム(ドルミカム)との比較)


注意点としては、
1)点滴投与ではあまり効果が実感できない。
2)薬物依存性はある
3)妊婦、授乳中の方には使用できない
4)痛い


ちなみに私がここでお話するのは、注射剤のアタラックスpについてで、内服についてはあまり経験がありません。

では私は往診現場で実際にどのように使っているか、次回以降、例を挙げてご紹介したいと思います。

【参考文献】
ヒドロキシジン塩酸塩注射薬 アタラックスP注射薬 薬剤添付文書、一般社団法人日本医薬情報センター

Wikipedia, https://ja.wikipedia.org/wiki/ヒドロキシジン

原島沙希他、ヒドロキシジンに役割はあるか、緩和ケア Vol.33 No.3, 2023

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