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海外でバイリンガル子育て 〜ことばを教える具体的な方法〜

私にはアメリカの片田舎で生まれた子供が2人います。ワンオペで日本語を教え、何とかふたりとも英語と日本語のバイリンガルに育ってくれました。

今回は「どうやって日本語を伝えればいいの?」と迷う方の一助になればと思い、私が実践した具体的な方法を綴っていきます。


ゆっくり はっきり 繰り返し


親が赤ちゃんに新しい言葉を聞かせる時は、いつも

ゆっくり
はっきり
繰り返して


聞かせてあげてください。

早く言ったのでは、特に聴覚の未熟な赤ちゃんには聞き取れません。口のあけ方なども見せてあげながら、何度も同じことばを繰り返し聞かせてあげてください。
 
アメリカ在住時代、近所のお母さんが子供をスピーチセラピーに通わせていました。子どもの発音が悪くて何を言っているのかわからなかったからです。

でも実際、私もその人の言う英語は聞き取りにくいなあと思っていたのです。子供にとってもそうだったんですね。

だから、子供も英語の発音があいまいで、親が聞き取れない。それで、スピーチセラピーへ…と言うわけでした。

何を話せばいいか 8つの提案


1.  家族の紹介

「私はママよ。/  僕がパパだよ。」

何と言ってもこれが定番じゃないでしょうか。ママじゃなくて、「お母さん」、パパじゃなくて「父ちゃん」?そこはご自由です。

そして家族一人一人の名前。ペットの名前。赤ちゃんのこれからの人生で、ゴマンと聞かされることになる言葉を教えてあげましょう。

2.  身の回りのものの物の名前
実物を見せながら、ゆっくり、はっきりと何度も言って聞かせましょう。

 スプーン、はし、コップ、いす、テーブル、テレビ、ドアなど

物の名前がわかるようになると、「ボールどこ?」「テーブルの上よ」と言った具合にコミュニケーションができるようになってきます。名前が言えなくても、目をやったり、指で指したりはできるはずです。

物の名前が少しわかるようになってきたら、「何々はどこ?」「それは何?」と何度も聞いてみるといいです。そうすることによってどの言葉がまだ定着していないのか知ることができます。

3.体の部分の名前
体の部分をひとつひとつ指しながら言いましょう。
目、口、鼻、に始まって、手、足、おなかとか思いつく限りやるといいです。私は何も話すことが思いつかない時や暇つぶしにやってました。

4.熱い、痛い、甘いなどの言葉
実際の体験を通して言うと効果的です。

物の名前は特にそうですが、「熱い」「痛い」などの形容詞や「歩く」「飲む」などの動詞も実際にそれがどのようなことなのか、実際にやったり、見たり、聞いたり、味を見たりという体験を通して覚えさせることが大切です。

りんごとは何かを知るには「これはリンゴよ」と言ってリンゴを見せられるのが一番いいように、「甘い」や「すっぱい」などの感覚語も実際にはちみつや、レモンの果汁をなどをちょっと口に入れて味をみさせるのが、どんな言葉で説明するより効果的です。

「走る」のような動詞であれば、親が実際に走って見せて(身体的に可能なら)子どもにも走らせるといいです。

 走る、歩く、手をたたく、落とす、
 感覚語、ふかふか、ざらざら、固い、柔らかい、
 明るい、暗い、まぶしい、うるさい、熱い、冷たい、痛い、寒い、暑い、
 甘い、塩辛い、すっぱい、おいしい、まずい、くさい、いいにおい
 赤い、高い、大きい、小さい

5.心の中のことば
親が自分の心の中で思っていることをおっくうがらずに言葉にして伝えることが、子供が小さい時には大事なことかも知れません。

私たちにとっては当たり前のことが、子供には何をどう表現したらいいのかのお手本になりますから。

「あの赤い車は消防車よ。」
「あの音は、飛行機が飛んでる音ね。」
「ママ、バナナ食べようかな?」

のように、見たり、聞いたり、思いつく事を心の中で思っているだけではなく、何でも口に出して言うことを子どもが小さいうちは習慣づけるといいと思います。

私は、「ママ、これからトイレ行ってくるね。」とさえ言っていました。そうすると子供は、私が黙っていなくなるよりずっと安心するようでした。

6.定義をやさしく説明
ものごとの説明、定義をやさしい言葉で聞かせましょう。これはちょっと骨が折れるんですが効果はあると思います。

例えば、「これはドアよ。みんなここから出たり入ったりするの。」とか「これは冷蔵庫。食べ物がくさらないように入れておくの」とか何でも思いつくことを聞かせるわけです。

いつもいつもはやっていられませんから、気持ちと時間に余裕のあるときにいいと思います。同じことを自分に外国語でやってもらったら、自分もその言語がわかるようになると思えるような内容が適当だと思います。

7.感動を伝える
一緒に見たり、聞いたりしていることの感動を伝えましょう。

例えば、動物園に行くとします。ゾウやキリンなら本でよく見かけますから、すぐに「ゾウだ」や「キリンだ」という発話は早いうちから出てきます。

でも、母親ゾウが小ゾウに自分がエサを食べる前にエサを食べさせたとしたら、「ママのゾウはやさしいね。赤ちゃんに先にゴハンを食べさせてあげて。赤ちゃんゾウは嬉しかっただろうね。」という具合です。

基本的な感情は親子が体験を共有し、親が感じたことを子どもに伝えることによってかなり表現できるようになると思います。


8.子どもの気持ちの代弁
2~3歳になると子どもにも周りのことを表現したいという意欲が見られるようになってきます。

でもまだ語彙や言い方がわからないので、ものの名前ひとつとか動詞ひとつで発話が終わってしまうことも多々あります。

そういう時は、なるべくたった今子どもが見たり聞いたりしたであろうことを、親が代弁して聞かせてあげるといいと思います。

今日、子ども二人を乗せて車を運転していた時のこと。このあたりは山道が多く、道がくねくねと曲がる箇所が少なくない。

そういうカーブのひとつにさしかかったとき、ダッシュボードの上に載せておいた私の財布が右端から左端まですべった。

すると2歳だった娘が「さいふ---」と言うので、「財布が今、右から左にすべったね」と私が代弁すると、娘はうんとうなずいた。

こういう体験を通して、「すべる」ひとつをとっても、氷の上で自分がすべって転ぶ時の「すべる」、物がさっと動く時の「すべる」という具合に、言葉に厚みを持たせていくのだと思う。

2002年当時のブログから抜粋

間違った言い方をそれとなく直す

日本で生活していれば難なく覚えられる言葉の使い分けも、海外で育つ子どもにはなかなか難しいことがあります。

私の息子が小さい頃、なかなか正しく使えるようにならなかったのは「あげる」と「くれる」の使い分けでした。英語ではどちらもgiveなので、当時はよく「これぼくにあげて」とか「ママにこれくれる」とか言っていました。

そういう場合、「『これぼくにちょうだい』っていうのよ。」とか「『ママにこれあげる』っていうのよ。」という具合にさりげなく教えていました。

あと難しかったのは「しか・だけ」と「いく・くる」。

そして、娘にとっては「わたし・ぼく」の使い分け。

お兄ちゃんが「ぼく」なのになぜ自分は「わたし」なのか理解するのは大変だったようです

親自身がお手本になって話す

子どもに言ってほしい言葉を、親が自ら子どもに使うのはとても効果がありました。

うちの子達は、「うん」と言いません。いつも「はい」です。
これは子どもが「ママ」と言って話しかけてくる時に、私が「はい。」と答えるからです。多分、「うん」という言葉があることさえ知らないのです。純粋培養に近いかもしれません。でも、今はこれでいいと思っています。

他に、「ありがとう」や「ごめんなさい」も、私から自然に子どもに言うように心がけてきました。それで今はまだ2歳のアズサでさえ「ありがとう、ママ」、「ゴメンね、ママ」というようになりました。

つまり、「ありがとう」や「ごめんなさい」を言うようにしつけたのでなく、物の名前を覚えるのと同様のプロセスで身についたにすぎません。2歳の娘がちょっと高い段を上る時など「よいしょ!」というのも私のせいです。(OOPS !---おっと)

当時のブログより抜粋

質問に対して誠実に答えを返す

年齢が上になって、夫婦の会話に割って入るようになったら、子どもの質問に対してなるべくきちんと回答するという心構えも大切だと思います。

今6歳の息子は、私たち夫婦の英語での会話をよく聞いていて、「今何て言ったの、ママ?」と質問してくることがしょっちゅうです。そういう時は、話した内容を日本語に置き換えてわかりやすく言い直します。

息子がそばにいるといろいろ質問されるのはわかっていますから、大人だけの会話に止めたい内容の話は、子どもの前ではしません。

でも、そうやって英語を日本語に翻訳して質問に答える余裕がいつもあればいいのですが、そうとばかりもいきません。「そんなこと知らなくていいの!」と心の中で叫びたくなることはしょっちゅうですが、なるべくにっこりと易しい言葉で説明するようにしています。

2002年当時のブログから抜粋


上高地にて

いい聞き手になること


子どもがあなたの言語で何かを言い始めたら必ず、注意を向けてあげてくださいね。

テレビや流れているCDの音がうるさかったらボリュームを下げるか、切って目を見て聞いてあげてください。

そして、子供のおしゃべりがいくらたどたどしくても、まどろっこしくても、言いたいことがちゃんと言い終わるまで辛抱強く待ってあげてください。

その瞬間こそが待ちに待った貴重な対話の始まりですよ。

ことば育てはこころ育て

親子関係がスムーズに行かず、トラブルを抱えた家族はどこの国でも少なくないと思います。

子供といい関係を築き、継続していくためにも、言葉を教えることが同時に心を育んでいくのだということを忘れないようにしたいものです。


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