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『BIRD BOX』あまりにショッキングで美しいモチーフ

なんてショッキングで美しい映画だ。パニック映画だと思ってた。最後の10分まで。最初の20分は息継ぎができないスリル、最後の10分は呼気が嗚咽に変わる美しさ。そう。最後の10分でこの映画の定義を覆すほどの美しいモチーフに気付くのだ。こんな映画、観たことない。

 Photo by BIRD BOX / NETFLIX

1時間50分、たっぷり、FILMARKSの表現通り「サバイバルスリラー」として惹き込まれ続ける。それも並みのパニック映画・ゾンビ映画じゃない。語りの巧みさ。状況説明の暴力的なスピードと説得力。20分で観客に「圧倒的な終末世界」を突きつける。そして繊細に張り巡らされた罠のように、選び抜かれた謎を謎のまま残す、クレバーさ。観客にも登場人物以上の視界を与えず、「生き残るために、この不条理な状況に適応せざるをえない」感覚に引きずり込む。作り手のみぞ知る。神のみぞ知る。なんて、独裁専制主義な作り手だろう!まるで脚本家だけが神の末裔、だとでも言うようだ。我々は神が突き付ける終末にひれ伏すしかない、無力な観衆と化す。

物語は、現在、なぜか子供二人を連れて、川を下って逃げようとするサンドラ・ブロックに降りかかる出来事と、5年前、「何か」を見たものが全員自殺していくという終末がやってきた時の出来事を並行して描く。最後の15分くらいまでに、なぜサンドラがいま逃げているのかが、概ね明かされるようになっている。ただ肝心の、死んでいった人々が見た「何か」が何か、なんてそんな説明するわけもない。そんな不粋なこと、この映画がするわけがない。

でも、最後の10分はそれどころではないカタルシスなのだ。

「あの『何か』ってなんだったんだろ~最後までわかんなかったよね~もやもや」なんて隣で一緒に見ていた彼氏が言おうもんなら、即別れなさい。

この映画はそういう映画じゃないんだ。そんな安易なカタルシス用意していないんだ。

最後にサンドラがたどり着いた場所。

そうなんとなく、もしかしたらそうかな、とは思っていた。「見たら死ぬ」んだから。「見えなければ生きている」ことはなんとなく想起できていた。

でも、控えめにしかし衝撃的に明かされる、最後の救い。その場面を観たときわたしはただ、手放しに嗚咽した。胸が波打つほどの嗚咽だ。

なんて苦しくて悲しくて、そして美しいメタファーなんだろう。衝撃的だ。

そうだ。世界は時に見るに堪えない。子供たちのその目に映るすべてが、美しいものではない。その悲しさと遣る瀬無さに、最後、僅かだが刺すような希望の光を挿し込ませる、そんなラストだった。

NETFLIX映画やるなあ・・・これは・・映画が変わるな・・・。。

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