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詩)断種されたジュンちゃん

幼い日 家の裏の その暗い森が怖かった
一度足を踏み入れると二度と戻れない因習の掟
行先の見えない おどろおどろしい森が
口を開いて待っている そんな森が
 
男たちのこもった声がする
「あの娘 生理がはじまったよ」
「まだ今なら何もわからんだろう」
「男とかなんやらと色気づく前に処理しとくのがいいぞ なあ」
「またこんな娘ができたら困るからな 国がそういう決まりだから」
「大人になってからじゃ あの娘を傷つけることにことなるから今のうちじゃ」
「みんなそうしている やらないと親族に申し訳ない」
 
ジュンちゃん ついておいで。 おじさんと車で一緒に行こう
ジュンちゃん車好きだろ。助手席に乗せてあげるよ
今日はジュンちゃんの身体が大きくなる前に病院で盲腸の手術しとくんじゃ
盲腸はね、役に立たないもんで いまのうちに切っとく方が大人になってから切るより痛くないからいいんじゃ
大丈夫 おじさんがついているから。

昭和36年の暑い夏の日 ジュンちゃんは16歳
ジュンちゃんは冷たい手術台の上で麻酔をかけられ 盲腸の手術と偽られ断種のため 不妊手術を受けた
手術が終わったジュンちゃんにおじは 「うんうんよくがんばったのう」と手を握った 目を伏せて 合わせることなく
ジュンちゃんはその時 16歳 自分の未来を信じていた
ジュンちゃんは軽度の知恵遅れがあったが 明るくて素直な娘だった 
 
 
2023年6月1日仙台高裁
旧優生保護法の下で不妊手術を強制されたとして、宮城県の女性2人が国に賠償を求めた裁判で、仙台高裁は1審の判決を支持し原告の控訴を棄却した
仙台高裁は「手術は1955年から1965年に行われたもので、損害賠償を求める権利が消滅する除斥期間が経過している」として、1審の判決を支持し控訴を棄却した
原告側は障害者差別や偏見が浸透していた手術当時は被害者が手術を打ち明け裁判を起こすことは困難だったとして、除斥期間を適用すべきではないと反論したが退けられた
 
原告の1人、宮城県に住む飯塚純子さん(仮名・77)
16歳の時、軽度の知的障害を理由に不妊手術を強制
「すごい残念です。元気なくなりました。なんで裁判所はもっときちんとやってくれないのか、違法に行われた問題なのに、なんでこんなことをやってるのか、腹が立ちます」


一度足を踏み入れるともう戻れない因習の掟
行先の見えない おどろおどろしい森
その森は 
61年前からずっと
いまも 口を開いたまま 待ち続けている

★khb東日本放送を参照しました。
 

2022年に詩集を発行いたしました。サポートいただいた方には贈呈します