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『Vulcano』(噴火山の女) 1950年 アンナ・マニャーニ主演


 アンナ・マニャーニの映画をまだまだ見足りない気がして、最近掘り起こしている。これもその一つ。『Vulcano』(1950)。

アンナ・マニャーニは人気女優だったけれども、結構作品としては小品も多くて、日本にまで配給されているものは限られている。彼女の演技はどれも食ってかかるような迫力のあるものばかりで、これが生きれば「無防備都市」や「Bellissima」のような大作になるし、作品としてこけてしまうとちょっとワンパターンな女優みたいになってしまう傾向があるかもしれない。下層社会に味方する、曲がったことが大嫌いな女を見る、その爽快感はどれも約束されているけれども。

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この作品はその中でも結構良い映画だと個人的には思った。アンナ・マニャーニの闘争心がそのまま表れた挑戦的な作品。しかし残念ながら、不運な映画だったと言わざる得ない。私も後から知ったのだが、なにせこの映画は”比較対象”がある。

邦題が「噴火山の女」なんてなってしまっているほど、彼女の激しい演技が強烈にイメージづいてしまったのだろう。”Vulcano”というのは確かに”噴火山”のイタリア語訳なのだが、これは”Vulcano"という島の話なのである。シチリアの北部にあるエオリア諸島の中のヴルカーノ島という島。このあたりの島は噴火山が多く、Vulcanoも例に漏れず噴火山を有する島だ。

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ストーリーとしては、アンナ・マニャーニ演ずる女がVulcanoに帰郷する。むしろ強制帰国。ナポリで娼婦として働いていたところを捕まって、連れ戻されて来たのだ。この島は田舎で貧乏で(当時は観光業などもない、漁業や硫黄採取などが主な産業だった)、本当に閉鎖的な島で、若い頃夢を見て島を出た女が、娼婦として戻ってきたということが瞬く間に島中に広がり、女と彼女の家族が島民からひどい仕打ちを受け続ける。

ここまで聞いて、お気づきの方もいるかもしれませんが、この話他の映画に似ていませんか?デジャヴって思って私も見てましたけど・・・


ロッセリーニ監督、イングリッド・バーグマン主演の「ストロンボリ」と設定が似ていますよね!あれもテーマとしては、噴火山のある島(同じエオリエ諸島の)でひとりの女性が保守的な島民たちからいじめを受ける話です。しかも制作年が同じ1950年。同じ年でこの酷似設定はおかしい。ロッセリーニがイングリッド・バーグマンと出会う前は、アンナ・マニャーニと恋人関係だったようなので、もしかしてと思ったら、

「La guerra dei vulcani」(和訳:噴火山の戦争?)というドキュメンタリー映画があることを発見しました。どうやらこの三角関係、当時これはかなりスキャンダラスなニュースだったようです。

つまり、もともとロッセリーニは自分の恋人であるアンナ・マニャーニを主役においた噴火山の島を舞台にした映画を構想として持っていました。しかしイングリッド・バーグマンから例のファンレターをもらい、「ちょっと犬の散歩に行ってくる」と嘘をついてニューヨークに旅立ってしまったのです。(!)それからイングリッド・バーグマンをイタリアに連れていき、噴火山を舞台にした映画を制作することになりました、ストロンボリという島で。

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実はアンナ・マニャーニ主演映画の構想時には、ドキュメンタリー映像を得意とするPanaria Filmの若手スタッフから、水中カメラ撮影の提案がありました。それをロッセリーニはあまり興味を示さなかったのか、「ストロンボリ」には採用していません。結局彼らは、一緒に提案したロッセリーニのいとこのRenzo Avanzoとともにハリウッドへわたり、このネタをアメリカの監督に売り込みに行きました。そしてウィリアム・ディターレ監督がマニャーニ主演のこの脚本のまま、引き受けたわけです。

このVulcanoの漁業の様子を撮影する水中動画は、ネオレアリズモらしさが新しい切り口で感じられるようでおもしろいと個人的には思います。従来のネオレアリズモ のようなありのままを人間目線でとることにはなっていないが、自然の様子をドキュメンタリーにより近い様子で捉えている。また当時このような映像を映画に取り入れることは珍しかったと思われます。今見ても躍動感のある素晴らしい映像です。しかしネオレアリズモ の新しい局面という評価のされ方は、当時残念ながらされなかった。それよりもスキャンダラスな三角関係の方が目立ってしまったのです。

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しかしおそらくだが、ロッセリーニにしても、水中のリアルな世界よりも、この島の閉鎖的な雰囲気を司るような火山のことをもっともっと描きたかったのだと思います。そういう意味であの映画は成功しています。

躍動感といえば、本作でアンナ・マニャーニが火山灰ばかりの崖を走り降りてくるシーンがすさまじい。「防衛都市」の名シーン、夫を追いかけるアンナ・マニャーニを彷彿させる。むしろ意識しているのか。

とにかくプライベートでも粘着質でかなり気性の荒いアンナ・マニャーニだったそうだから、対抗心メラメラでこの撮影に取り掛かったに違いありません。とは言ってもどんな人々のどんな思惑があり、この同じ噴火山の映画が2作撮られたかは憶測の域を越えません。とにかくアンナ・マニャーニたちはストロンボリの目と鼻の先の島ヴルカーノでいち早く撮影を終え、ローマでプレミア試写会を行いました。

・・・試写会は途中でフィルムが切れてしまって散々だったようです。そして数日後にロッセリーニとバーグマンの間に子供が生まれました。話題はすぐそちらにかっさらわれてしまい、「Vulcano」は忘れられた映画になってしまいました。



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