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漫画連載を始めて3か月。新人原作者が実感した3つのこと

「36歳でWebtoon原作の副業を始めた話」という記事でご報告したとおり、2023年1月から原作担当として『死にたい人妻と溺愛強盗』という漫画の連載を始め、3か月がたちました。

集英社「マンガMee」にて連載中!毎週日曜更新!

あらすじ
モラハラ夫と冷たい結婚生活を送る銀行員の礼。唯一の心の拠り所は、年下の優しいキッチンカー店主・美希生と、素でおしゃべりできるランチタイムだった。そんなある日、隠れて避妊薬を飲んでいたことが夫にばれ、仕事を辞めさせられることに。絶望する礼の前に現れたのは…覆面の銀行強盗! しかも正体は美希生!? 大金と礼を奪い去り、キッチンカーに乗り込んだ美希生は、「あなたのことが好きだから、このお金を楽しく使いきって、流氷で一緒に死のう」と持ちかける。失うものがない礼は心中の旅に同意するが、美希生の真の目的は別にあって…?

キャリアたった3か月、超がつくほどのぺーぺーではありますが、この人生最初の3か月で感じたこと、学んだことをここでは書いていきます。

1.スタジオ制のいいところ、難しいところ

本作はスタジオ制で制作しており、各パートごとに担当者がいます。私は原作(シナリオ)担当です。

シナリオ(私)
 ↓
ネーム
 ↓
線画
 ↓
人物着彩
 ↓
背景
 ↓
仕上げ

各パート、1週間に1回、1話ずつ締め切りがあります。シナリオが納品されたら、翌週にネーム、その翌週に線画…と進んでいき、仕上げて完成するのは5週間後という計算。
パートを分担することで各担当の負担を抑えながら、フルカラーでボリューム感のある作品をつくることができます。

たとえば2話「秘密の夢」の1シーン、私が書いたシナリオは以下でした。

ランチを終えて銀行に戻っていく礼。
礼モノローグ「(なんだか、ドキドキしちゃうなあ。--って、年下の男の子に、なにをドキドキするっていうのよ!)」頬をパンパンしてセルフ突っ込みして「(そういえば、美希生くんの夢って結局なんなんだろ…?)」
礼の後ろ姿を見送りながら美希生 独り言で「そろそろ、決行かな…」

これが、完成版だとこうなる。

このクオリティ、当然私ひとりでは生み出すことはできません(そもそも絵が描けねえ)。

各担当の負担を抑えるということは、「作品の安定供給」にもつながります。漫画制作を個人でやるのは本当に大変な作業。とくに週刊ペースは相当ハードルが高いなと…。休載が続いたりペースが落ちたりするのも珍しいことではありません。でも作者としては本意ではないですし、よほどの作品でなければ、読者も離れてしまいます。その点、スタジオ制は安定供給を担保しやすいのがメリットです。

一方スタジオ制の難しいところは、いいところの裏返しでもありますが、クリエイターの匿名性が高くなり、強い個性のある作品になりづらいところ。

マンガで個性が出やすい箇所のひとつが、テンポや間だと思います。コミカルさや笑いの表現においても大事なものですが、分担制だとフラットになりがち。とくに少女漫画においては、個人的に笑いのテンポってじつは作家性につながる部分だと感じるので、悩ましい部分です。

笑いの表現の解決策としては、お約束のネタを使う(トーストかじりながら遅刻中に転校生にぶつかるなど)、一枚絵で笑えるものを入れる(パロディの絵柄など。『溺愛強盗~』はこのパターンが多いです)、濃いキャラを出すなどがありますが、もっと勉強して開拓していきたいです。

2.コメント欄がついつい気になる


マンガMeeには1話ごとにコメント欄があるのですが、そこに書かれるのは好意的なものばかりではなく、「面白くない」「共感できない」「おかしい」といったネガティブなものも当然あります。的を射ていたとしても、つくり手としてはグサッとくることも。

あくまで傾向ですが、明るいラブコメ、相思相愛が尊い系のロマンスは、最初から好意的なコメントの割合が多め。一方、謎が多かったり、設定が複雑だったり、登場人物に裏がありそうだったり(とくに男キャラがヒロインに一途じゃないパターン)する作品は、読者の嫌悪反応、防御反応も強くなりやすいのかなと思います。

担当さんから事前に「見ないでって言っても見るタイプだと思いますが」と指摘されていたとおり(よくわかってらっしゃる)、精神衛生上よくないとわかっていても、ついつい気になってしまう…! 
大前提として、読んでくれてしかもコメントも書いてくれるなんて、それだけでありがたいと思っています。また、批判的なコメントがヒントになることもあるのですが、本作の場合は連載開始時点で制作がかなり進行していたので、意見を組み入れて調整するというのが難しく、もどかしい点でした。

ただ面白いのが、物語がドライブしてくるにしたがって、コメント欄の雰囲気も変わってきたということ。それも、単純に応援コメントが増えたというだけではなくて、コメント欄に「一体感」「コミュニティ感」が出てくるんですよね。

具体的にいうと15話「キスと悪夢」が明確な変換点でした。この話は主人公とヒーローが初めてキスをする回で、普通に考えたらそこが山場なんですが、最後にモラハラ夫(本作の当て馬的ポジション)が夜中に悪夢を見て目を覚まし、主人公への想いがあふれ、高級羊羹を泣きながら貪り食うというどうかしているシーンを書いたところ、コメント欄で誰もキスの話をしておらず、みんなでモラハラ夫にツッコんでいるという楽しい状況になっていて…。

モラハラ夫、どうした?
コメントありがとうございます!!!!!!

この15話は、シナリオ担当としても「もう一歩踏み込んでみよう」と挑戦した回で、物語やキャラクターが自由に動き出したと感じていたので、そういうのって読者にも伝わるんだなと勉強になりました。

3.担当さんの返事が死ぬほど待ち遠しい

新卒から編集者という仕事をやってきて、「原稿にはなるべく早く返事を戻す」ことの大切さはわかっていたつもりでした…が、私は何もわかっていなかった。クリエイター当事者になって初めてわかる、担当編集からのリアクションへの切望感!!!

本作の担当さんは、レスが速くしかもメールの勢いとボリュームがすごいという、書き手にとっては大変ありがたい方で、基本的にめちゃくちゃ褒めてくれるんですが、それだけに数日返事が来ないと「今回の原稿、ダメだしすらできないレベルだったかな…」「もうこの作品に興味を失っていたらどうしよう」などと想像してしまったことも。
担当さんは本作以外に何作も同時進行でやっているので、そりゃ後回しになることもあるよ!という単純な話だと頭ではわかっているのですが…。
私の場合、マンガは副業で、業界のこともわかっているので、それ以上闇落ちすることはないですが、若い新人さんや1本でやっている方は、そりゃしんどいだろうな~と感じた次第。

ちなみに担当さんが同時進行でやっている他作品、作家さんについては、「同じクラスの同級生」みたいな気持ちで、勝手に仲間意識を抱いています。めちゃくちゃ読んでいるし、Twitterも見ているし、なんなら課金したりコメントをつけたりすることもある(別担当さんでもStudio Mee制作のタテカラー作品は同期だと思って全部読んでるよ!)。
他作品に「負けたくない」という気持ちもなくはないですが、いい意味でのライバル意識というか、みんなで一緒に売れたい~~!!と素直に思っています。マンガMee自体が盛り上がることが、まわりまわっていちばん大事なことだと思っているので。

さて、『死にたい人妻と溺愛強盗』は、期間限定で今日から4月19日(水)まで、18話までドドンと無料開放中!羊羹一気食いも読めます!!!
個人的には6話、15話、18話がとくに推し回です。

※姦通罪、今の日本の法律にはありません!

また、最新24話はシナリオ担当(私)も完成版を見て赤面したとんでもない濡れ場回ですので、こちらもぜひこの機会にお読みいただければ幸いです。

『死にたい人妻と溺愛強盗』はこちらから


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