見出し画像

36歳でWebtoon原作の副業を始めた話

Twitterではすでに告知しておりますが、このたび漫画原作者として連載を始めました。
集英社の女性向け漫画アプリ「マンガMee」にて2023年1月にリリースされた、『死にたい人妻と溺愛強盗』という作品です。

大金が舞い散り、ラブとスリルとミステリーが入り乱れる少女漫画(?)です

縦読みフルカラーの、いわゆるWebtoon(マンガMeeでは「タテカラー」と呼んでいます)で、多くのWebtoonがそうであるように、本作もスタジオ分業制をとっています。私はその原作・シナリオを担当しています。

集英社「マンガMeets」内「タテカラー漫画クリエイター大募集中!」より引用

本業は編集者ですが、雑誌編集→書籍編集→ウェブ編集というキャリアで、これまで漫画制作に携わったことはありません。そんな私が、なぜ36歳・子育て中にして、他社のWebtoonの仕事を始めたのか。その経緯と目的をつづっていこうと思います。

生きてきて、こんなメッセージカードつきの花をもらう日がくると誰が想像しただろうか(花屋もタイトルにびっくりしたことでしょう)

創作とのかかわり

小学4年生から『花とゆめ』を読み始め、漫画にどっぷり浸かっていた10代。白泉社の影響をモロに受け、ファンタジーやSF、ミステリー、歴史要素のある少女漫画ばかり読んでいました。逆に『別マ』的な学園もの、青春ラブストーリーなどは全然通ってこなかったです。
15歳頃には自分で漫画を描いて花とゆめに投稿もしていましたが、とにかく絵が苦手で…。「話を考えるのは好きだけど、作画の情熱がない」と気づき、自然と筆を折りました。ただ、ふとしたときに物語のアイデアを思いつくことはあって、メモに残しつつ、「いつか何かの形で出したいな~」と思っていました。

時は経ち、社会人3年目の2010年。思い立って小説を書き始めたらハマってしまい、「小説家になろう」に定期的に投稿するように。2011年からは友人と組んだ小説サークルで「文学フリマ」にも出展。コロナ前まで常連参加していました。
完全に自己満足で、書きたいものを好きなように書いていたのですが、リピートしてくれるお客さんがいたり、『文学フリマ非公式ガイドブック小説ガイド(第3版)』に取り上げてもらったり、「小説家になろう」でもちょこちょこ評価や感想をもらえたり…。「商業レベルではないけど、それなりに面白がってもらえる程度には書けているのかな」という認識で書き続けてきました。

突然の「原作書いてみない?」

2022年1月、前年に第1子を出産して育休中だった私に、集英社で漫画編集をしている友人から突然連絡が。
「後輩のWebtoonの企画で、あなたが好きそうな話があるから、原作書いてみない?」
えっ、そんな気軽な声かけアリなの~~?と驚きましたが、私も本業でちょっとした知り合いに原稿執筆とか発注しがちなので、わかる。

送ってもらった企画書には「銀行強盗と心中ラブサスペンス」というテーマで、『死にたい人妻と溺愛強盗』の原型となる内容(主要キャラ3人の設定、1~3話までの展開、その後のざっくりとした流れ)が書かれていました。
私は謎や犯罪×ロマンスが大好物でして(ジャック・オーディアールの映画『リード・マイ・リップス』とか最高…もちろん『愛の不時着』も大好き)、確かにこれは興味あるわということで、赤子を昼寝させながら、担当さんと最初の電話打ち合わせをすることに。

・とりあえずトライアルで、3話まで執筆
・担当さんのOKが出たら、上長のプロットチェックがあり、その後さらにネームの状態で連載会議にかける。ボツになった場合は、既定の原稿料をいただいて終了

当然ですがこの時点で連載が確約されているわけではなく、むしろ会議を通らない、会議までいかない可能性のほうが高いのでは…? 
0歳児を抱えながら執筆できるのか、自分に能力があるのか、そもそも連載漫画のシナリオってどう書くの? 何もかもわからないところからのスタート。「ダメ元でOK、面白い経験として」、あまり期待しすぎずに挑戦してみることにしました。

週刊連載、意外とできる

と言いつつ、書いてみたら、めちゃくちゃ楽しくて。結論からいえば大きな直しもなく、連載会議まで順調に通過していました。紹介してくれた友達が、後日「いや~、声かけてみるもんだね」的なことを言っていて、そんなきっかけで始まったものが、プロジェクトとして動き始めて、改めて事の重大さを感じたり。
ちょうど育休からの職場復帰タイミングでもあり、会社に副業を申請。こいつ休暇明け早々なに言ってんだ?と思われたと思います。理解のある会社でよかった。

本業と子育てしながらの週刊連載なんてできるの!?と戦々恐々でしたが、意外とできています。もちろん仕事なんだけど、やっていて楽しいのであんまり仕事と感じていない、というのが正直なところ。日ごろからスマホに下書きしておいて、休日の育児の隙間にだーっと書いて、2時間ベビーカーで散歩しながら脳内で推敲して、夜に直して…などとやっています。

Webtoonは普通の漫画よりも1話1話のジェットコースター要素が重視されます。シナリオを執筆するにあたって、特に気をつけているのは以下の3点。

・少女漫画らしいイチャイチャ、胸キュンなどの見せ場を入れる
・続きが気になる引きを最後に入れる
・とにかく話を進める

これを全部守って書いていると、おのずと1話分、1800文字くらいになります。そういう意味でも、そこまで迷わずに書けていると思います。

また初回連載時に一気に11話掲載というシステムのため、書き溜めの準備期間が長く、本作は連載決定から連載開始まで半年以上かかりました。そのぶん余裕をもって、書けるところまで書き進められているのはよかったです。

この経験で得られること

思わぬ形で始まったとはいえ、覚悟をもってこの仕事を引き受けたのは、原稿料以上の経験ができるぞという確信があったから。

新卒入社して、社会人歴14年。30代後半になって、管理職になって、出産・育休があって…今までと違う仕事のやり方を考える絶好のタイミングだったというのがまずひとつ。
また、Webtoonという最先端の現場を「中の人」として体験できることは、副業としてはもちろん、本業にも絶対に還元できると思っています。実際、ビジネスの仕組みや、制作の仕方、最新の業界動向など、学びがたくさん。集英社の胸を借りて勉強させてもらっている、というくらいの気持ちです。

そして、人生の半分以上で抱いていた、「誰か、私の考えている話を漫画にしてくれないかな~」という、夢とすら言えない願望。まさか叶うんだ!?って、そりゃもう乗るしかない。作品の主人公・礼の言葉を借りれば、「こんな展開 面白すぎてありえない」といったところです。
素晴らしい担当さん&スタジオチームの皆さんには感謝しかありません。

まだ始まったばかりではありますが…連載が終わるころ、どんな景色が見えているのか、今からとても楽しみです。

『死にたい人妻と溺愛強盗』試し読みはこちらから 
(アプリをダウンロードしなくても読めます)


この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?