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新人漫画原作者が1年間の連載を終えて学んだことと、今面白いWEBTOON3選

集英社のアプリ・マンガMeeにて2023年1月からスタートした漫画『死にたい人妻と溺愛強盗』。本作の原作&シナリオを担当しておりましたが、おかげさまで全60回で最終回を迎えることができました。現在は全話無料チケットで読める仕様となっています(※一定期間が過ぎると一部課金制になる可能性があります)。

おかげさまで大団円!/『死にたい人妻と溺愛強盗』((C)Studio Mee/集英社)

読んでくださった皆様、応援してくださった皆様、本当にありがとうございました!

自分にとって初の商業漫画連載、しかもWEBTOON(タテカラー)でしたが、学びと楽しみだらけの全60回でした。このような機会を与えていただき感謝しかありません。
せっかくなので、この経験で感じたことを書き留めておきたいと思います。

連載前の経緯
https://note.com/girliennes/n/nab3ae91c0f99?sub_rt=share_b
連載3か月目での感想
https://note.com/girliennes/n/n0f7bbab22954?sub_rt=share_b

『死にたい人妻と溺愛強盗』

『死にたい人妻と溺愛強盗』あらすじ

モラハラ夫と冷たい結婚生活を送る銀行員の礼。唯一の心の拠り所は、年下の優しいキッチンカー店主・美希生と、素でおしゃべりできるランチタイムだった。そんなある日、隠れて避妊薬を飲んでいたことが夫にばれ、仕事を辞めさせられることに。絶望する礼の前に現れたのは…覆面の銀行強盗! しかも正体は美希生!? 
大金と礼を奪い去り、キッチンカーに乗り込んだ美希生は、「あなたのことが好きだから、このお金を楽しく使いきって、流氷で一緒に死のう」と持ちかける。失うものがない礼は同意するが、行き先で意外な人物と出会ったり、モラハラ夫が追ってきたり、心中の旅は一波乱も二波乱もあって…。

思わぬ運命で巡り合ったふたりは、最初は「犯人」と「人質」でありながら、騙し騙され、離れたり気持ちがすれ違ったりしながらも、お互いを想うことを止められなくなる。
美希生のもくろむ「復讐」とは? モラハラ夫の隠したい過去とは? そして流氷の上で礼が選ぶ道とは?
大金と嘘とロマンスを乗せて突っ走る、大人のラブサスペンス。

1.スタジオ制は映画制作に例えるとわかりやすいかもしれない

本作はスタジオ制で制作しており、各パート(6部門)ごとに担当者がいます。各パートの仕事内容は、映画制作に例えるとちょっとわかりやすいかもしれません。

①シナリオ…脚本
②ネーム…演出、カメラ
③線画…役者
④人物着彩…ヘアメイク、衣装
⑤背景…美術
⑥仕上げ…ポストプロダクション

シナリオが脚本担当というのはそのままですね。
ネームは「どう撮るか」「どう見せるか」を決定する、作画チームの頭脳的存在。
線画は役者、これぞ作品の顔、漫画の印象を左右します。
シンプルな線画に色を乗せて一気に立体的にしてくれるのが人物着彩です。美術的な役割も担っています。
背景はリアリティや世界観、奥行きを担保する、縁の下の力持ち。
仕上げのポストプロダクションとは、映像制作においては素材の編集、CG処理、効果音などの作業を指します。WEBTOONにおいても、カラーリング、調整、効果など、まさに「仕上げ」を一手に担います。

映画と違うのは、「監督」がいないことかもしれません。しいて言うなら担当編集かなと思いますが、私が感じた限りでは、どちらかというと「統括プロデューサー」的な立ち位置ととらえています。

シナリオ担当として、セリフや動きだけでなく、イメージする演出や背景の指定、キャラクターのファッションなどもできるだけ具体的に書きこむようにしていました。それらがすべて採用されるわけではなく、尺の都合でカットされたり、時にはアレンジされて「あら、思っていたのと違った」となることも、なかったわけではありません。どうしても譲れない点に関しては、その理由も含めてきちんと指示する必要があると感じました。
ただチームでつくる以上は避けられないことであり、特に私は漫画に関しては一番素人だったので、「漫画だとこうなるんだ!」といい意味で驚かされることのほうが断然多かったです(今回はあくまでスタジオの中の「シナリオ担当」という立場であり、一般的な原作者とは権利やポジションが異なります)。
またセリフに関しては、担当さんがしっかり大事にしてくださり、ほぼ変更なし(修正の場合は事前に相談)で進めてもらいました。

特に印象的だったのは、37話「離婚してください」のラスト。
虐げられてばかりいた主人公・礼が、モラハラ夫に正面から向き合い、新幹線の中で離婚を切り出す重要なシーンです。

シナリオでは以下のように書いていました。

礼、雅一郎に背を向けて出口へ走り出す。我に返った雅一郎が伸ばした左手(結婚指輪がはっきり見えてほしい)がわずかに届かない。雅一郎の指先に、礼の髪の毛(長いままだったら掴めたのに、礼が切ったから逃げられた)がかすめていく。

それがこのように描き起こされていきます。

左からネーム、作画、人物着彩、背景

仕上げを経て最終的にはこうなりました。

哀れモラハラ夫こと雅一郎(意外と人気キャラ)


シナリオでは「事象の背景」として書いていた箇所が、見事に漫画的に表現されて、とても印象的なシーンになっていました。コメント欄にも「今までは長い髪と一緒に雅一郎さんの好みだったり、手の内にいた礼さんが、髪を切ったことで今までとは違う、掴めないし手の内におさめられないって描写なんじゃないか」と書いていただき、伝えたかったことが伝わっている…!と感動しました。

2.各話のタイトルと作者コメントが楽しかった

各話のタイトルは私に一任していただきました。なんという自由度の高い現場! 漫画編集者にも憧れていたので、タイトルを考えるのはとても楽しかったです。

1話 キッチンカーの彼
2話 秘密の夢
3話 銀行強盗
4話 好きになってもらうから
5話 変身
6話 礼さん、ずるいなあ
7話 追手
8話 最期の桜
9話 やさしいのに、怖い
10話 死んだほうがいい人間
11話 美希生くんのいじわる
12話 疑惑
13話 誰にでも地獄がある
14話 抱かれてくれる?
15話 キスと悪夢
16話 悪友
17話 復讐計画
18話 人妻オンステージ
19話 衝撃の真実
20話 逃がさない
21話 姦通罪
22話 新婚さん?
23話 露天風呂
24話 我慢するの無理っぽい
25話 哀しい予感
26話 全部、仕組まれていた
27話 抱きしめられて
28話 見張られている…
29話 すべて忘れよう
30話 隠したい過去
31話 暴行
32話 許してくれ
33話 本当にバカだ
34話 待っているから
35話 美希生の過去
36話 君の知らない物語
37話 離婚してください
38話 傷つけたかったのに
39話 もう一度会いたかった
40話 Ray Of Light
41話 北海道へ
42話 両想いだから…
43話 行方不明
44話 手料理が食べたい
45話 流氷…流氷…!
46話 のろけていいですか?
47話 人生狂わされる
48話 さよならのドライブ
49話 こんなに好きになるなんて
50話 別れが待っているとしても
51話 はしたないこと、しよう
52話 最後の晩餐
53話 いつかこんなふうに
54話 俺を殺せばいい
55話 救い
56話 あの火事の真実
57話 氷の世界
58話 幸せな夢
59話 春が来る
60話 ハッピーバースデー

読者の興味を引くタイトルはなんだろう?と考えながら頑張ってつけました。キャラのセリフを使うパターンが割と多かったです。特にお気に入りなのは45話の「流氷…流氷…!」ですね。何でもあり!
好きな小説や楽曲から引用したものもあります。36話「君の知らない物語」はsupercellの楽曲から。

初恋こじらせ男~!

復讐と初恋がごちゃ混ぜになりながら、孤独に礼をずっと見つめていた美希生の過去を描いた話だったので、これしかない!と思っていました。線画の綾尾幻先生にも好評で嬉しかったです。

またマンガMeeのアプリでは各話最後に「作者コメント」が掲載できるのですが、本編がシリアスなので、作者コメントではクスッと笑える話や裏話を書くことを心がけておりました。26話の「粉雪」ネタ、42話の風邪ネタなど、コメント欄でたくさん拾ってもらえてよかったです。

3.WEBTOONはまだ特殊で限定的、でもいろんな可能性がある

連載が終わり、今は次回作のシナリオを鋭意作成しております。次回作はWEBTOONではなく、一般的な横読み漫画で、サスペンスではなくラブコメになる予定なのですが…やり方が全然違って、また一から勉強のやり直し状態です。
実際に両方を執筆して、比較して改めてわかったことですが、WEBTOONは
・主人公目線で物語が進行する、他の目線は入れにくい
・1話の情報量自体はそんなに多くなくていい
・でも話が進んでないと満足度が低い。そして、とにかく次話に引っ張る工夫が大事

が大きな特徴だなと感じました。

次話に引っ張る工夫には、韓国ドラマを大いに参考にしました。19話ラストではムダに階段から人を落としたりしました。

『死にたい人妻と溺愛強盗』19話より

奈落の底に落ちたかのような描写ですが、無事です。余談ですがこの平賀というキャラは本作の良心的存在で、主人公とのシスターフッド的なつながりも描けて、非常に思い入れがあります。

もうひとつ、連載中から感じていたWEBTOONならではの特徴は、宣伝の難しさ。横読み漫画はTwitterなどで拡散されやすいですが、WEBTOONはスクショしたときの情報量が少なく、気軽に試し読みしてもらうハードルが高いです。メディアミックス目線でいうと、紙の企画書にも落としこみにくいかも、とも。
いずれ技術が解決してくれるかもしれませんが、経験者としてアイデアを考えていきたいです。

4.今注目しているWEBTOON3選

最後に、今個人的に続きを楽しみにしているWEBTOON3作品をご紹介します。

・コータロー君は嘘つき

『恋癖』『around25』などで知られる、個人WEBTOON作家・緒之先生の最新作。マンガMeeにて読めます。普通の女子高生である主人公が、「伝説のテレパス少年」であるコータロー君と同級生になることから始まる青春ミステリー。キュン描写とブラック描写のバランスが巧すぎて、毎話翻弄されています。重たい要素もあるのに仕上がりが軽やか、でも一癖ある作家性が好きです。

・密かなミューズ

LINEマンガの人気作(韓国からの輸入作品)、作者はスジン先生。女優を目指すもなかなか芽が出ない主人公が、ある日謎の写真家のミューズとしてスポットライトを浴び、華やかかつ厳しい芸能界の道を歩んでいくことに。詩的な世界観、モノローグが印象的です。また人物絵のハイライトの入れ方が非常に今っぽいというか、韓国の現代モノらしさを感じられます。

・ラッシュナイト

池田ルイ先生作。近未来?のスラム街と、相反するショービズ業界が舞台で、歌手を目指す妹・サラを支えるためにドラッグの運び屋/ショーパブのシンガーとして生計を立てているエリカが、復讐のために業界の闇に自ら挑んでいく姿を描きます。ハードボイルドで華やかでせつなくてタフなエリカが格好良すぎる。LINEマンガで連載中。


まだまだ書きたいことはたくさんあるのですが、『死にたい人妻と溺愛強盗』に関する投稿はいったん最後になると思います。改めまして、礼と美希生の旅にお付き合いくださった読者の皆様、制作チームの同志の皆様、関係者の皆様にお礼を申し上げます。ありがとうございました!
次回作でお会いできるのを心から楽しみにしております。

『死にたい人妻と溺愛強盗』はこちらから
※マンガMee以外でも、LINEマンガやコミックシーモアなど様々な媒体でお読みいただけます

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