見出し画像

サヨナラ記念日

男とは、非常に身勝手でワガママで、
そして勘違いしやすい生き物である。

別れた女性が、いつまでも自分の事を
好きでいると勘違いもする。

実のところ、私もその種の人間である。
私物、データとあらゆるモノを捨てて
今は何も残っていない。
1つを除いて。

いつもそうだった。
「優しいね」
「結婚するなら、貴方がいい」
「ずっとそばにいるから」

その台詞は、数え切れないほど、
聞いている。

ただ、2年前の私は迂闊にも、言葉を
言葉以上に捉えていた。

理由も聞けず、突然居なくなって
しまった彼女の面影だけを追って。

もう、野暮なことは言わない。
彼女からの「今度のお祝いに」という
私の好きなワインだけなのだから。

コルクの匂いを嗅ぎ、グラスを回し
軽く一口。
芳醇で味わい深い。

今日は、彼女が居なくなって2年。
今の私には、もう引きずる感情は
無くなっていたから。

ちゃんとした記念日にした。
そしてもう、二度と訪れないだろう。

心の中で、そっと囁いた。
「サヨナラ記念日に、乾杯」と。

短編集は、ありのままの自分を投影しています。共感しうる事もあると、思います。角度を変えてみたり、心理描写を汲み取って頂けると幸いです!