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え的プロ野球敬語大賞~横浜DeNAベイスターズ・大貫晋一投手~


――敬語―― 辞書を引けば「話し手・(書き手)の、尊敬やけんそんやていねいの気持ちをあらわすときに使うことば(づかい)」とある。日本語においては大きく分けて三種類の敬語がある。

①尊敬語‥‥相手に対して敬う気持ちをあらわす表現の敬語
②謙譲語‥‥へりくだった言い方で相手への敬意をあらわす表現の敬語
③丁寧語‥‥丁寧な表現を使って敬意をあらわす敬語


敬語は難しい。難易度でいえば③、①、②の順番であろうか。社会人たるもの敬語を自由自在に使いこなせなければならない、と重々承知してはいるものの、いまだに電話で、
「私は明日ご出勤でございます。」
などど口走ってしまい、恥をかくこともしばしばだ。

ところで、プロ野球界において敬語の存在とはいかなるものなのか。

子供のころから、上下関係の厳しい体育会系の世界で生きてきたであろうプロ野球選手。当然敬語は必要不可欠だったと思うが、丁寧語は使っても、尊敬語・謙譲語を使う選手はなかなかいない。「母が」というべきところを「お母さんが」と言ったり、中には丁寧語すら怪しい選手もいる。
尊敬語・謙譲語のハンデは丁寧語と筋肉と挨拶でカバー!ウッスウッス!
(※個人的な偏見です。)

さて、横浜DeNAベイスターズ・大貫晋一投手について語りたい。


二年目の昨シーズン10勝を挙げ、表情にも自信がみなぎっている大貫投手。多彩な変化球を操り、ロジンの粉を巻き上げながら投げる姿は、さながら香港カンフー映画のようだ。細身のスタイルと、平安貴族のようなはんなりとしたルックスとは対照的な芯の強さ、もっと言えばしたたかさすら感じるピッチング。落ち着いているが、まじめなだけではなくギャグもさらっとこなせるし、総じて洗練された大人、という印象だ。


二年前、槙原寛己氏がインタビューで、ルーキーだった大貫投手に
「自分はどんなピッチャーだと思う?」
というようなことを質問していた。自分は大崩れしない、試合を作れるところが持ち味だと答えた大貫投手に対し氏は、
「でもね、試合になったらいろいろあるよ?バックスクリーン3連発とか…。」
と、ちょっと自虐をまじえてつっついた。
(※槙原氏が甲子園阪神戦でバース・掛布・岡田にバックスクリーンへホームラン3連発を打たれたのはあまりにも有名)
すると大貫投手はちょっと困ったような表情を浮かべながらも落ち着いた口調で、予想もしなかった言葉を発した。



「はい、存じてます。」




………存じてます………存じてます………存じてます………存じてます………


プロ野球選手の口から存じてます………!!
存じてます、それは「知ってます」の謙譲語。敬語の中で最も使い方が難しいとされる謙譲語だ。それを25歳にして、こうもさらりと使いこなせるプロ野球選手がいたとは。
私は心底驚いた。
大貫晋一投手、え的プロ野球敬語大賞みごと受賞だ。


それからの二年間、私の中でディフェンディングチャンピオン・大貫投手の地位はみじんもゆるがず独走状態を続けていたが、今年に入ってその地位をおびやかす強敵が現れた。

横浜DeNAベイスターズ・ドラフト二位ルーキー、牧秀悟選手。

見るからに昭和のスラッガー然とした風貌、どっしりとした体形。ベイスターズファン期待の大型新人だ。
先日、牧選手は紅白戦のスタメンに選ばれ、こう述べている。


「力むと崩れやすい。打てなくてもしかたないという気持ちで、



まずは球を拝見して




そこから次につなげていきたい」




………拝見して………拝見して………拝見して………拝見して………


拝見して、それは「見て」の謙譲語。
「球を見て」でいいんじゃないか⁉という疑問はこの際どうでもいい。

牧秀悟・22歳、プロ野球敬語界に末恐ろしい新人が現れた。