自分に矢印を向ける


最近、どの企業でも働き方改革が話題になっていますよね。
私の会社でも「働き方改革プロジェクト」を立ち上げ、チーム毎にリーダーを設け、メンバーを巻き込んで取り組みを実行しようとしています。そんな中、先月、上司の推薦により、私はチームのリーダーとしてプロジェクトを推進することになりました。

「どのチームよりも、みんなが笑顔でわくわくしながら仕事をし、成果を挙げ、プライベートもしっかり楽しめるように変えてみせる!!」
こうやって目標を掲げ、チームの先輩、同僚のみんなと面談をしたり、意見を聞きながらいろいろな施策を考えて早1ヶ月が過ぎようとするのですが、最近、大きな壁にぶつかっています。チームのみんなが、全然協力的に見えないからです。
例えば、何かを提案すると、最初、アイディアベースの議論をする時は、みんなも同感し「ぜひやってみよう!」と言ってくれますが、更に詳しく設計し、いざ、実行しようとすると、「なんとなく違う気がする」と、手のひらを返すような意見が返ってくるのです。

「最初から簡単にうまくはずがない。こんなもんでしょう!ドンマイ!」と自分を励まし、更にいろいろ考えて、再度議論します。しかし、何度異なる切り口から提案しても、みんな首を傾げたり、できない理由はばかりを言っていたり。人によっては、あまり提案にのってくれないわりに、自分の意見も特にない。とにかく前に進んでいかないのです。
もやもやした気持ちが募り、ついに、チームの先輩社員に、どうしたら良いのか、意見がほしいと率直に相談しました。すると、先輩は「まぁ、君の試みはとてもすばらしいけど、いきなりガラッと変えるのは無理じゃない?理想は持っていいけどさ。とりあえず、今できる範囲内で気楽にいこうよ。」と、他人事のように言うのです。
「だから、あんたは年中、残業漬けで疲れて死にそうな顔で働いてんだよ!!!△w×gKouj※gxokpoTT○◆!!!」
口から暴言が出てきそうな衝動をやっと押さえ、デスクに戻ると、いろんな思いが込み上がってきました。
「みんな、自分の働き方を見直したいと言ってたのに。Aさんは○○先輩のようにキラキラしながら働きたいと言ってたのに。B先輩も、早めに退勤して趣味のマラソンの練習をしたいと言ってたのに。C子は海外にいる彼氏の為に、英語の勉強をしたいと言ってたのに。みんな、どうしてーー?嘘だったの?何で私だけこんなに頑張ってるの!!」

挫けそうな思いを抱きながら、定時に帰ることにし、エレベーターに乗ろうとした瞬間、後ろから
「おぉー今日は早いね。素晴らしいじゃん~!もしかして、働き方改革が進んでる証拠ですか?!どう?順調?」
と、少しテンションの高い声が聞こえてきました。
「もうーー勘弁してよ!こっちは、働き方改革の“は”の字も聞きたくないんだよ!!」
内心そう思いながら振り返ると、上司がいました。暖かい眼差しで声をかけてくれた上司が、なんだか「救世主」に見えてきました。
「ちょっと聞いてくださいーー」
息をする間もなく、一気に一ヶ月間のいろんな出来事や悩みを吐き出しました。すると上司は
「そっか。要するに、どいつもこいつも、やる気のない、使えないヤツばっかりなんだなぁ!」と笑い飛ばしました。
「いやぁ…そう思っているわけでは…とにかく、こういう時はどうすれば、もっとみんなのやる気を引き出せるのか、教えてください。」
「うーん。そうだなぁ。今度さ、グローバルのマネージャーが集まる研修にメンターとして登壇することになったから見に来ない?」
私の悩みにはまったく答えてくれず、上司はその一言だけ言い、エレベーターに乗って消えていきました。

そして、翌週、上司がメンターとして登壇する社内研修の見学に行ってきました。
世界20カ国の支社の、各部署のマネージャー層を対象とした2日間の研修。
主なテーマは「あなたが所属している国・地域の主な経営課題は何だと思いますか。その課題を解決するために、あなたは自分の部署、チームをリードしてどのような活動を行っていますか。」という内容で、世界各国から集まった人たちが、自分のアイディアや取組みを発表した後、メンターである私の上司からアドバイスをもらうという流れで行われました。

みんな一生懸命自分のアイディアを発表していましたが、それに対し、最後に上司からのコメントは一つだけ。
「あなたは今後、今の取り組みをどうしていきたいですか。私はあなたの為に何ができるのでしょうか。」という質問だけを投げかけるのです。
すると、次の瞬間、驚くようなことが起きました。
堂々と自信を持って、自身のアイディアを発表していた人たちが、この質問に対しては、自分が置かれた状況の困難や不満を一生懸命並べるのです。しかも、ほぼ全員が同じように。
自分のアイディアは、必ず会社の役に立つことだと信じている。だから、このアイディアの実現に向けて、ベストを尽くして努力している。こんなこともやったし、あんなこともやった。しかし、周りのみんなは協力してくれない。上司は既存のシステムを変えようとしない。会社の○○という制度にも問題が多く、妨げになっている。このままだと実現できそうにない。だからとても困っている。

静かに聴いた後、上司は再び質問をしました。
「状況は良くわかりました。で、あなた自身は、これから何をするつもりですか。私はあなたの為に何ができるのでしょうか。」
その瞬間、発表者たちは無言になってしまいました。
「何か、助言を頂けると…」

壁にぶつかっている状況や、周囲の問題については、饒舌に説明できるのに、いざ、困っている状況の中で、自分はどうしていきたいか、解決に向けてどんなことをしようとしているのか質問を受けると、答えられなくなってしまう。驚く一方で、彼らと同じく、周囲の問題に気を取られ、肝心な自分はどうしたいのかを考えられていなかった、この1ヶ月の自分が浮かんできました。続いて、上司は会場のみんなにこのような話をしました。

「何か目の前の状況を変え、新しいチャレンジをしようと思った時、優れたアイディアを考える以上に大切なことが一つある。
それは、実行する際の逆境にどのように向き合うかである。

人間は本能的に、身の回りに何か変化が起きると、
現状の安定が脅かされると感じ、拒む心理が生まれる。
新しい取り組みに対し、仮にそれが素晴らしいアイディアだと頭で理解していても、どこかで不安や拒む心理が生まれ、できない理由を並べたくなる。

だから、何かを変えること、新しく何かを始めることは簡単ではないし、
組織や社会の中で、個人が変革を試みるというのは困難や挫折が付き物である。重要なのはそこから、どのような心持ちで、どのようにその状況に対処していくのか。ここに、変革者としての真価が問われる。
いつまでも、周りが分かってくれないと不平不満を言い続けては、
世界を変える側の人間にはなれない。
自分はここからどうしたいか。自分のやり方に問題はないか、ベストを尽くしたと思っていたけど、できることは本当にもうないのか、というふうに
矢印を周囲から自分に向けて考えてはじめて、
本当の“変革者のマインド”が働く。


自分だけ損をしてると思わなくていい。こうやって、
自分に矢印を向けて自分を変えると、周囲は自ずと変わってくる。
また、そういう人には必ず、助けてくれる人が現れる。

皆さんにもこういう変革者になってほしい。」

そして、相談をする時も、
自分に矢印を向けた相談ができるようになりましょう。
“私は○○を実現したい。それを、周りを巻き込んでこのようにやっていきたいと思っている。一方で、周囲をうまく巻き込めていない。
ここからどのように乗り越えていくべきか、自分のやり方に何か問題があるのではないかいろいろ考え、Aといったことにもチャレンジし、Bといったことにもチャレンジしている。しかし、あまりうまくいかなかった。
自分が今取り組んでいることのどこをどのように見直したほうが良いのか、アドバイスがほしい。”
ぜひ、こういう相談をどんどんしてほしい。結局、このように
一歩ずつ自らを変え、周囲を感化させる人が、
最終的には、世の中を一歩でも良い方向に変えることができる
。」

頭を殴られるような思いがしました。
その夜、早速、この一ヶ月間、自分のやってきたことを振り返ってみました。十分に周囲の状況や置かれた立場を考慮してアイディアを考えているつもりになっていましたが、本当に自分に変えたほうが良い点はなかったのか。冷静に俯瞰してみると、まだやれることがあったり、人の立場を考慮すべきことがあったりして、これまで気づけていなかっけど、まだやれると思えることがいくつか見え始めました。

そして、再度、チームの一人ひとりと面談をし、自分に対する率直な意見を聞きました。「協力してくれない相手が悪い。その相手をどうやって変えるか」ということばかりを考えていた時は、なかなか見えなかった周囲の本音が聞け、少しずつ希望が見え始めました。
今週、そういったみんなの意見を反映し、再度、取り組む施策について議論をすると、なんとみんな、自ら「この部分は私が責任を持ってやりたい」、「この部分は私が良い情報を持っている」などと、積極的に向き合ってくれました。

「これか!自分に矢印を向けて、自分を変えると、周りが自然と変わってくるというのは!」。少しばかりではありますが、確実な変化を感じ、あらためて上司が教えてくれた「自分に矢印を向けた時に初めて、世界を変える側になれる」ということを実感し、学んだでき事でした。

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