見出し画像

「最近、女性が強い映画が多い」の違和感|『アリータ』は脚本家が○○○なだけ

前に30歳前後のカップルが座っていたのだが、上映後、彼女の方がこう言った。

「最近、女性が強い映画多いよね〜」

前の席の彼女はそう言ったが、私は『アリータ: バトル・エンジェル』を、女性活躍の潮流を受けた「女性が強い」作品として見るべきではないと思う。

作品名の『アリータ: バトル・エンジェル』の「アリータ」とは少女サイボーグの名前だ。

クズ鉄の山に、頭部だけ捨てられていたアリータ。クズ鉄のある町に暮らすサイバネ医師が彼女に身体を与える。アリータは記憶喪失で自分がどこの誰かを全く覚えていない。「体は覚えている」とは言ったものだけど「戦い方」を体がが覚えていた。実は彼女、元は戦士で…

そういったストーリーだ。

元戦士のアリータ、実際とんでもなく強い。
作中の世界には、犯罪者が多いし、犯罪者を殺して治安を守る賞金稼ぎ「ハンター・ウォリアー」がいるのだが、どんな犯罪者であろうとハンター・ウォリアーであろうと、アリータの敵ではない。


ここで冒頭の「最近、女性が強い映画が多いよね〜」という発言に戻ろう。

確かに多いように感じる。

わかりやすいもので言えば『ワンダーウーマン(2017年公開)』や『キャプテン・マーベル(2019年公開)』といったコミック原作のヒーローものがある。「戦い」という行為において大きな力を持つ彼女たち。ここでの強いとは、物理的な力のことである。

また、別の観点でいうと『女神の見えざる手』のような作品が挙げられる。
政治という男性中心の世界において、目的のためには手段を選ばないロビイストであるエリザベス・スローン(ジェシカ・チャステイン)が戦う姿を描いたサスペンス作品だ。ここでの強いとは、今でも男性中心である政治の世界において活躍する精神的なタフさのことである。

ただそういった作品の登場人物を「強い女性」の象徴とすることには違和感がある。

なぜなら、前者は本来生物としての特性として女性が男性に劣ってしまう「肉体的な強さ」がその強さとして全面に出ており、後者は男性社会のルールの中でいかに戦うか、という話だ。
つまり、どちらも「従来の男性としての強さ」を持った男性化した女性の話で、「女性」の強さを描いた作品ではない。

もちろん、その中では「柔軟性」や「優しさ」といった「力こそ全て」といった価値観とは対局の強さも提示されているだろうけど、
それは男性が主人公の作品でも同様に提示される。「力だけしか持っていないと思いきや、実は愛情深い人で」というのは、ストーリーテリングの常套手段である。

今の女性たちが求めている「社会進出」というのは、言い換えれば、女性が男性的な価値観の「対抗軸」でもなく、「批評的」な立場でもなく、むしろ、これまで女性が持ってきた批評性を放棄して、男性的価値観に一元化しつつある、という風にも言えると思います。             『働くことに疲れたら(内田樹)』内『サクセスモデルの幻想』より

内田樹氏のこの指摘は少し昔のものなので(16年前の書籍)今は潮流が変わっているようにも思うけれども、「強い女性=肉体的な強さ、男性社会で生きることができるタフさ」と単純化してしまうことは内田樹氏の指摘に重なる部分があるだろう。

ここまで挙げた作品が悪いというのではない。
単純化すべきではない、他の視点も取り入れるべき、ということが言いたいだけ。

例えば、1960年台にNASAで活躍した女性を取り上げた『ドリーム』。
「黒人の権利」「女性の権利」が小さかった時代。そんな時代に、数学という性別が関係ないある種の言語の能力で活躍する女性たちの話だ。
極論を言ってしまえば、そもそも「女性だから」「男性だから」ということはない。たまたま、数学の才覚があったのが、NASAで偉業を成したのが女性だった、あるいは男性だった。そういうことだ。


『アリータ: バトル・エンジェル』を、世間の潮流を受けた「女性が強い」作品として見るべきではない、と書いたのはそういうことだ。

女性が男性的な力を持っている作品だからと言って、「女性が強い作品」とくくることには違和感がある。

また、そもそも『アリータ: バトル・エンジェル』は、そういった「性別」に関してほとんど意識をしていないように思える。
脚本を手がけたジェームズ・キャメロンは単にオタクで、原作である『銃夢』の作品が好きでしょうがないのだ。
日本のアニメや漫画の大ファンとして有名で、『アバター』撮影中には『銃夢』のTシャツを着ていたとか笑

彼は『銃夢』の世界を映画化したかった。その主人公が”たまたま”女性だった。ということだ。

原作の世界。それを愛を持って映像化したジェームズ・キャメロンとロバート・ロドリゲス監督の作る世界観。
それを楽しむ作品が、『アリータ: バトル・エンジェル』だと思う。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?