見出し画像

メッセージを「自分ゴト化」してもらうには?~映画『Tully』を観て~

自分には子どもがいない。というかそもそも未婚だ。
子育てをテーマである『タリーと私の秘密の時間(原題:Tully)』を鑑賞しようと思ったのは、本作品の予告での母親マーロを演じるシャーリーズ・セロンの姿を見たからだ。

シャーリーズ・セロンの私のイメージはDiorのCMのイメージだ。

The ゴージャス

である。金色の衣装が彼女ほど似合う女性を私は知らない。

予告では、2人の子どもが食事をする横で、シャーリーズ・セロン演じるマーロがTシャツを脱ぐ。彼女のお腹を見て息子のジョナはこう言う。
「ママ、それどうしたの…?」

彼女がそこまでする映画はどんな映画なんだろう、
そう考え、映画館に足を運んだ。

※内容について詳しく触れている記事はこちら
『映画『タリーと私の秘密の時間』感想。仕事・家事・育児、自分の時間のないあなたへ贈るヒューマンドラマ!』

中身について詳しく解説するのは上記の記事に任せ、ここでは「メッセージをどう伝えるか」について考えたい。

冒頭に「子育てがテーマ」と書いたが、本作はメッセージ性が強い作品だ。
なかなか外には見えにくい、「家事・育児で自分の時間がない母親の大変さ、気苦労」を伝えている。
中でも(日本ではなかなか浸透しないベビーシッターだが、そのさらに先をいく)”ナイトシッター”を扱ったのが本作だ。

ナイトシッターとは、夜母親が寝ている間に子どもの面倒を見るベビーシッターのことである。

「母親は、可能な限り赤ちゃんの世話を自分ですべきだし、長い時間一緒にいるべきだ」


という考えが信仰のように存在しているが、それは母親を追い詰めるものであり、シッター含む周りの人のケア大事。

それがメッセージである。

伝わっただろうか?

「いやそう言われればそうなのかもしれないけど…(モゴモゴ)」
それがこのメッセージを聞かされた人の気持ちだろう。

どこか遠い話のように感じ、自分ゴト化されないのである。

では作品の中で登場人物に語らせればよいのだろうか。

マーロ 「母親だって自分の時間が欲しい!だからナイトシッター大事!』
ドリュー(マーロの夫)「そうだよな。。今までごめん!もっと俺も頑張るよ!」

やっぱり伝わってこない。

本作の良いところは、そういったメッセージを登場人物に語らせないことだ。マーロは夫に訴えない。夫はマーロに長々と後悔の念を伝えない。

作品全体、ストーリーによってメッセージを伝える作品になっている。

そんなことを考えていたら、宮部みゆき著の長編推理小説『理由』を思い出した。
この小説は画期的な作りになっていて、高級マンションで起きた殺人事件を、数十人もの人物を登場させて、ドキュメンタリー的手法で追う形式になっている。犯人の自分語りや、取材している文章を書いているライター?の個人的な主張はほぼない。
複数人の話を重ねることによって、真相をあぶり出す形になっている。
誰かが「犯人はお前だ!(ドン)」と主張をするわけではないので、自分が真相を追求している気持ちになる。

また、2015年公開の、メキシコの麻薬戦争とアメリカとメキシコの国境の闇を描いた『ボーダーライン』のことも思い出した。
鑑賞後すぐには「緊迫感はあるが、特段ストーリーに大きな起伏もないし結局何だったのかよく分からない。暗く落ち込む作品。」というぐらいの印象だったが、鑑賞後1日経て本作に対する印象が徐々に変わった。
その感情は主役であるFBI捜査官ケイト(エミリー・ブラント)の感情そのものなんだと気がついた。誰がその怖さを詳しく説明してくれるわけではない。セリフの少ない作品で、何度観てもメキシコの麻薬戦争の全容を理解することはできないだろう。
ただ、その怖さを体感せずとも、体感するのと限りなく近しい程度で実感することはできる。

Netflixオリジナルドラマの『13の理由』もそうだ。
「自殺をするな」というシンプルなメッセージを、自殺をしたハンナ・ベーカーが残したカセットテープを元に伝える作品になっている。

『タリーと私の秘密の時間』『理由』『ボーダーライン』『13の理由』
何が共通点かと言うと、そのメッセージや作品の本質を作中で「言語化しない」ということだ。

具体事象を物語性を伴って伝え、その解釈は受けてに委ねる形になっている。

「これはつらいだろうな」「なるほど、自分もこんなことがあったな」
様々な事象を受け取り、自分の経験や考えをベースとして、一人ひとり少しずつ違った感情を抱く。

具体から解釈(=抽象化)をする過程で、各々が自分ゴト化をする。メッセージのあぶり出しを受け手に委ねるのである。

ビジネスにおいては「まずは結論から」というが、何かメッセージを伝え感情や行動を変えてもらうにはそれではダメだ。

「具体事象を物語性を伴って伝えられるかどうか」
それがストーリーを通じてメッセージを伝える際に、一番重要なことではないだろうか。


この記事が参加している募集

コンテンツ会議

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?