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ServDes. 2018 レポート2〜 いま、サービスデザインの視線の先にあるものとは?〜

こんにちは。玉田です。

みなさん、いかがお過ごしですか?

日本は、連日暑い日が続いているようですね。普段から自然災害の多い国とは言え、何百人もの人が亡くなる水害や連日の殺人的な暑さを伝えるニュースに心が痛みます。どうかご自愛くださいね。

今夏のイギリスは、Three Lions (スリーライオンズ:サッカーイングランド代表の愛称)の28年ぶりのW杯ベスト4進出に湧きました。その誇らしさ、そして晴々とした気分を反映するかのように、珍しく雨が少なく、青空の広がる日が多いように感じます。

さて、前置きはこのくらいにして…。

今日は、6月に参加してきたServDes. 2018(6月18日〜20日)レポートの第2弾です。

『いま、サービスデザインの視線の先には何があるのか?』
『カンファレンスの内容をある程度、俯瞰して見た時にどのような潮流や傾向が見られるのか?』

こんなことを書いてみたいと思います。

とは言え、このカンファレンスは、幾つものトラックセッションやワークショップが並行して行われ、参加者はそれぞれの興味関心に基づいて動く形式なので、なかなか全体感を捉えるのは難しいものです。なので、あくまで、この記事は、参加したセッションやワークショップを通して、また実際に現地で様々な人と交流し、言葉を交わす中で、筆者である私自身が感じたこと、という前提でお読み頂ければ幸いです。

(カンファレンスの概要は、第1弾の報告(ServDes. 2018 レポート1〜サービスデザインの求道者たちがミラノに集合!〜)をご参照下さい。)

まず、ざっくりした感想は、

『やっと、こういう話をするようになったんだな』

です。

どういうことかと言いますと…

これまでサービスデザイン関連のカンファレンスなどの集まりでは、セッションにしろ、プレゼンテーションにしろ、ワークショップにしろ、とにかく、ツール(カスタマージャニーマップ、ブループリントなど)や事例の紹介(大体は、成功事例のお披露目)に焦点が当たることが多かったんですね。しかし、今回のServDes. 2018 in Milanoは一味違いました。やっと、「人間」に焦点が当たるようになってきたのです。しかも、多面的に。

閉じていた目を開き始めたサービスデザイン


これまでのサービスデザインでは、「人間」について話をする時、その中心に据えられているのは、殆どの場合において「カスタマー」でした。このことを私は、「片手落ち」というか、「片目が閉じた状態」だな、と感じてきました。つまり、こんな感じです。↓

この画像は、ラフバラ大学での博士課程の初回のプレゼンテーションで私が使ったスライドの一部です。(2014年のものなので、使っている用語は、今とは違いますが、根本的な想いに変わりはありません。)

自分のリサーチのユニークポイントを説明する時、「今のサービスデザインは、片目がウィンクした状態だから、私は、その閉じている方の目を開くきっかけになるようなリサーチがしたい。それは、サービスデザインにデザイナーとしてではなく、サービス側のバックグラウンドを持って取り組んでいる自分だからこそできることだと思う。」と熱弁したのでした。

今回のServDes. 2018 in Milanoでは、サービスデザインが閉じていた片方の目を開け始めていることを感じ、やっと本質的なところにディスカッションがたどり着いた、という印象を持ちました。ここに辿り着くまでには、主に3つのフェーズがあったように思います。

サービスデザインの誕生と発展 〜3つのフェーズ〜


⒈「知ってもらうフェーズ」

『サービスデザインとは、どのようなものなのか』をまずは、仲間内で話し合い、まとめ、それを外側の人にも伝えていくことで、存在をアピールするフェーズ。

⒉「理解してもらう」フェーズ:

「サービスデザイン」という言葉が、ある程度、浸透してくると、次は、プロセスを様々な状況に当てはめられるようシンプルにし、モデル化。そして、ツールの精度を高めていきながら、実務の中でどう使っていくのかを丁寧に示すフェーズ。

⒊「使ってもらう」フェーズ:

デザイナーが中心的役割を担い、プロセスモデル(Double Diamondなど)やツール(カスタマージャーニーマップなど)を実際のプロジェクト(営利目的、非営利目的に関わらず)に導入するフェーズ。

それぞれがくっきりと年代などで区分される訳ではなく、状況に応じて行きつ戻りつしながら、成熟度を高めてきたという感じだと思います。

これからのサービスデザインに何ができるのか?


サービスデザインがアカデミックタームとして誕生してから約20年。その節目の年に行われたServDes. 2018 in Milano。

この20年の間に私たちの社会を取り巻く環境は大きく変化してきました。そして、その変化は絶え間なく続いています。Experience Economy, Sharing Economy, Circular Economy, Platform Economy などなど、私たちの昨今の社会情勢、経済活動、メンタリティを定義する様々な言葉も生まれています。また、Big Dataなど道徳的な問題を含む、まさに「ビッグ」な事象もあります。

そのような中で、これまでの歩みを振り返りつつ、これから、例えば、次の20年間(2038年まで)、サービスデザインには何ができるのか、どこに向かって行くべきか、何を考えて行くべきか。

トラックセッションやワークショップに関わらず、全体を通して PROOF OF CONCEPT (コンセプトの証明)というメインテーマの下、こういったことが話し合われたのが、今年のカンファレンスだったように感じます。

引け目と、悔しさと、違和感と、フラストレーション


私がサービスデザインに出会ったのは、2012年のこと。それから約6年が経ちました。その間、サービスデザイン周辺で活動をする様々な人に出会い、切磋琢磨してきました。それは、素晴らしい経験だと感じると同時に、どこかでいつも引け目と、悔しさと、違和感とフラストレーションを抱えてきたことも確かです。

私は、「サービスデザイン」をテーマとしてはいますが、自分を「デザイナー」だと思ったことは一度もありません。自分の肩書きを「デザイナー」としてしまった方が、サービスデザイン界隈で活動する上では、便宜上、色々と楽チンかな、と感じることがない訳ではありませんが、そうすることは、恐らく、今後もないのではないかと思います。しかし、そういう自分が、サービスデザインのコミュニティの中に存在していることに引け目を感じてきたことも確かです。悔しい思いもしてきました。

同時に「サービスデザイン」が、主に「デザイン」側のバックグラウンドとプロフェッションを持った人ばかりにイニシアティブを握られ、リードされていることへの違和感とフラストレーションも感じてきました。そして、だからこそ、「サービス」側の自分が「サービスデザイン」に関わることへの意義と使命感も感じてきました。

そんな私がこれまでのカンファレンス等々で感じてきたこと。それは…。

「いやー。もう、ツールの話はお腹いっぱい…。」

「綺麗なカスタマージャーニーマップを作ったのは分かった。ブループリントも精度が高いよね。でもさ、それで、結局、現場の人の労働環境やお客さんとの関係性はどうなったのよ?」

「オンラインだろうが、オフラインだろうが、サービスの授受に関わる人間の気持ちが、置き去りにされている。もしくは、カスタマー側だけに力点が置かれ過ぎている。それは、双方向のものであるはずなのに、片方の矢印しか議論されてなくない?」

A TOOL IS JUST A TOOL

私は、2013年の夏にロンドン芸術大学のセントラル・セイント・マーティンズ(通称:CSM)で行われたサービスデザインのサマーコースに参加しました。そのコースワーク中に他の参加者に「とにかく、ツールの話ばっかりするのは止めようよ!」と私が呼び掛けた時の一言。それが、A TOOL IS JUST A TOOL でした。一瞬、静まり返りましたが、数秒の沈黙の後、「そーだ、そーだ」となんだかみんなが気に入ってくれ、なんならFavorite quote of this decade! とまで言ってくれ、紙に書いて、コース期間中、ずっと貼り出してくれていました。

もう、ずっと同じことを思ってきた私…。

こういった私の視点を理解し、励まし、サポートしてくれる先生方も、仲間ももちろん居ます。ただ、やっぱり、これまでは、自分は「エイリアン」的な感じでした。少なくとも自分自身がそう感じることが多かった。

「止まらない未来」と「人間」の関係をサービスデザインは、どう捉えていくのか?


サービスの基本は「人間でしょ」と話を単純化するつもりはありません。

道義的、道徳的な問題は常にあるとしても、A.I. の進歩は、止まることはないし、Big Data も集められ続ける。だから、それらに対して、「良し悪し」を論じるのではなく、では、それらとどう向き合っていくのか?サービスデザインには、何ができるのか?

オニオンピーラーとしてのサービスデザイン

サービスデザインは、「バズワード」として飛びつかれ、消費され、やがては廃れていくコンセプトやフレームワークではない。ましてや、目先のマーケティングやマネタイズの手段でもない、と私は思っています。

ServDes. 2018 in Milanoへの参加を通して、サービスデザインがオニオンピーラーのような役割を果たせるのではないか、と感じました。

イメージしたのは、これからますます複雑になっていくであろう暮らしの中で、玉ねぎの皮を向いていくように、「真ん中にあるもの」を探る上での一助としてのサービスデザインです。

余談ですが、私と一緒にカンファレンスに参加したぐらぐり君。殆どの人に「玉ねぎか?」と聞かれました。「違うよ。栗だよ。」と言い、グラグリッド(Glagrid )の社名の由来と日本語の「クリ」と「ーグリ」の音の近さなど渾身の説明をしましたが、「なるほど。分かった。でも、玉ねぎに見える。」と言われました…。↓こちら、玉ねぎとして可愛がられたぐらぐり君。



「人間ではないもの」が発展していけば、してくほど、「人間」について深く考えていくことになる。その中で、サービスデザインは、ある一定の拠り所になり得るのではないか?

そんな可能性を感じさせてくれるカンファレンスでした。

もう、ツールが云々という話は殆どありませんでした。

ただ予算を投じて、こんなことをして、こんなに上手くいったよ。という話も殆どありませんでした。

単に成功体験を見せ合う場ではなく、「ぐるぐるしていること」を「ぐるぐるしたまま」一緒に考えていく。「ぐるぐる」を楽しむ。そういう感じでした。

だから、発表のテーマも、参加者も、多岐に渡っていました。もう、私は、「エイリアン」ではなかった

「潮流や傾向」についての記事を書こうと考えた時、「今年は、〇〇業界でのサービスデザインの事例が多かった」とか「A.I.やBig Data は、サービスデザインにおいてもビッグなトピックですね。」とか、そういう、分かり易くて、はっきりしたことを書いた方がいいかな、と思いました。でも、自分が感じたことは、そういう形では書き表せなかった。そういう視点でのレポートは、他の人に任せて、私は、自分が感じた「空気感」を素直に伝えようと思い、こういうレポートになりました。

次回の第3弾でServDes. 2018のレポートは最後になる予定です。心の真ん中にズシンと響いたワークショップ "Between Sertvitude and Collaboration, A Service Design Choice?"について詳しく書きたいと思っています。

最後までお付き合い頂き、ありがとうございました。

Written by M.Tamada




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