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新宿区の先生190名が、描いて感じた!「グラフィックレコーディングで広がる、教師や子どもの新しいコミュニケーションのかたち」

7月末のある日。
新宿区四谷小学校に、新宿区の先生達が研修のため集まりました。
その数、なんと190名!

新宿区教育委員会は毎年夏に、新宿区の区立小・中・特別支援学校、幼稚園・子ども園の先生方を対象に、夏季集中研修を行っています。今年、その研修テーマの一つとして挙げられたのが、グラフィックレコーディング。

新宿区落合第六小学校での取り組みを見て、教育委員会の方がグラフィックレコーディングに関心をよせてくださったことがきっかけとなり、実施が決まりました。

先生方190名が一堂に会して、手を動かし、五感や身体をフルに使って描きながら、新しいコミュニケーションのかたちを考えた3時間。
この記事では、研修の様子をお伝えるとともに。先生方が描きながら感じた「新しいコミュニケーションのかたち」を、みなさまにお届けしたいと思います。

【お知らせ】
落合第六小学校や、この研修で実施したプログラムを抜粋したワークショップを、激動する時代の「未来の描き方」イベントで体験いただけます。関心をお持ちの方はぜひご参加ください!


激動する時代の中で、新しいものを生み出すために


研修の最初には、「なぜ、いま絵を「描くこと」に注目が集まっているのか?」という社会背景についてお話しました。
人口減少、価値観の多様化、産業競争力が下がっている日本経済。
「作れば売れる」時代ではなく、経営者も現場も、様々な立場の人が悩んでいます。

そんな激動する時代の中で、正解のない未来を捉えて前へ進み、新しいことをつくるのは、容易なことではありません。新しいものを生み出す足掛かりとなり、考えるエンジンとして注目を集めているのが「絵を描くこと」なのです。

社会背景とあわせて。
・企業:事業戦略の立案・クリエイティブな人材の育成等、企業の様々なシーンで活用されている事例、関わった人たちの変化
・落合第六小学校:総合学習の時間で新しい活動を創出するときのエンジンとして活用されている事例、生徒や先生方におきた変化
という、グラグリッドが携わったプロジェクトについてもご紹介しました。

新しいものを生み出す第一歩!「状態」を描こう!

早速、一人一本ペンを持って、ワークをスタート!
自由な線で、「状態」を描いていきます。まずは「楽しい!」

「自由な線て何だろう?」
出されるお題に、最初は戸惑う先生たちも。でも、どんどん手を動かすにつれて、何か感覚がつかめてきたようです。

ペンの色数も増えて、問題もどんどん進みます。
「今日の私の体調」「今ここにいる先生たち」「体育館のにおい」。
そして、「給食で一番おいしかった味」。
視覚だけでなく、五感を呼び起こして、状態を表現していきます。

給食でおいしかった味をシェアしあった瞬間、一気に体育館が盛り上がりました。
具体的ではない、抽象的な「状態を表す」絵を描いていく中で、先生達は自分の内なる思いに気づき、表出していっていました。さらに、内なる思いを互いに伝え、読み解きあうことで、相手への関心もぐっと強くなっていったのです。

「それ何?」「そこが印象的だったんだ!」会話がどんどん広がっていきました。

自分の「状態」も、相手の「状態」も。
「状態」を感じる力は、手を動かしながら描くことで、どんどん広がっていったのです。

“意味”を絵で描いてみよう

次は、とあるモノの特徴(状態や価値)を描いていくワーク!
それが何なのかを考えるのではなく、状態や価値を、描きながら探っていきます。

「それは、どこへでも持って行けるものです。」
「そして、そこには、たくさんのアイデアが詰まっています。」
「そしてそれは、悩んだ時にヒントをくれることもあります。」
先生達は探り探り、手を動かしながら、自分が感じた状態や価値を考え、表現していきます。

最後の問いは「それって、どんな存在でしょう?」。
抽象的に表現をします!

「生きるための存在」「はてなとなるほどの存在」
グループで見ると、同じ問いから、様々な状態や価値を描いて、それぞれが一人一人異なる意味をみいだしているのがわかります!

そしてここで種明かし!
実は、「それ」は、私たちにとっての「ノート」でした。
問いは、「ノート」の持つ特徴でした。特徴から、状態や価値を探って描くことで。「ノート」の持つ隠された意味を一人一人が見出すことができたのです。その意味は、「ノート」という具体的なものから考えていては、なかなか見出すことができないものばかり!!

「ペン一本、紙数枚で、これだけの発想をひきだせるのか!」
改めてグループ内の紙を見て、おどろきの声があがりました。


身体をダイナミックに動かして。さあ、隠れた意味を見つけにいこう!

さてさて、会場では、グラフィックレコーディングも同時に行っていました。体育館の前方の壁を大きく使った、ダイナミックなグラフィックレコーディング!

休憩後には参加者全員で体操も!
体操で体をあたため、ゆるめた後。最後のワーク「隠れた意味」を見つけるワークです。

まずは、グループで「先生」という仕事の特徴をあげていった後。選んだ
2つの言葉(状態や価値)を1枚の絵で表現します!

手が動くごとに、どんどん広がっていく思考。
絵が完成したら、描いた絵をじっくり見て、「それって、どんな存在?」を考えます。隠れた意味が、どんどん見えてきました!

存在を考え、隠れた意味を見出したら。
全員で、隠れた意味を見出す旅に出ます!絵を胸に抱えて、全員でシェアタイム!

「でんきのような存在」
生徒の様々な発言に、時に心に汗をかくときもあれど。その発言をうけとめて、新たな発見を見出して、照らす存在だそう。

「夜行性動物のような存在」
早朝に起床して読書して、ラッシュをさけて朝早くに通勤。働いていたら昼があっというまにおわり気づいたら夜!というライフスタイルを捉えました。

「駅のような存在」
回転ずしのお皿が、駅にとまっているという面白い絵!
様々な個性をもつ回転ずしのお皿(=生徒)がとまるプラットフォーム(=先生)があり、そこから旅立っていくという状況を例えたそう。

こうした一つ一つを見合うと、お互いに見ていなかった世界を見出すきっかけにもなり、体育館中に楽しい笑いが溢れました。


教育現場での、価値ある活用へ向けて

最後に、描いたグラフィック(壁画!)を用いてワークショップ全体を振り返り、「自分の現場で、どんな風に活かせそう?」を話し合いました。

社会の時間で、人物をどうとらえるか考えるとき。
学級づくりの中で、学級目標を掲げるとき。
総合学習での、ゴールが見えない話し合いのとき。
家庭科で、生徒達自らが工夫する手段として。
そして、生徒一人一人とむきあうための方法として。
先生方それぞれの持ち場で考える、様々なシーンが語られていきました。

いつのまにかある、既存の「枠」の存在

今回の新宿区の先生方向けのワークショップを私たちが実施して、一つ気づいたことがあります。
それは、いつのまにか「そういうものだ」と考え捉えている「枠」の存在でした。

特に、先生方の中でよく語られて、ふりかえりの中でもでてきていたのは。
「学校で描く絵は、具体的なものを描くものだと考えていた」
「学校の中では、言葉を使って、思考し、コミュニケーションをしていくものだと考えていた」
というような、絵・言葉の役割についての枠でした。こうした「枠」の存在は、これまでの教育の積み重ねの一端なのかもしれません。

だからこそ。最初に私たちが「自由な線で、自由な色で、自由に描いていこう!」とはじめたとき、先生方の中には戸惑いの表情を見せる方もいらっしゃいました。
「自由な線って何だろう?」「難しい!」と。

でも、そんな戸惑いの表情を見せていた先生も。
手を動かすごとに、どんどん自分の状態を感じて、五感を研ぎ澄まし、気持ちを表し、解放していったのです。

先生方が、自分におきた解放について、気が付いた時。
「枠」から外れた解放が、描くことでいつのまにか起きていたということ
自分が何かしらの「枠」に、いつのまにかはまっていた(そして実は、それが枠であることに気づかなかった)ということ
にも同時に気づかれていたのが、とても興味深かったです。

また、その「枠」から解放されたとき。
相手のことをより深く知りたくなって会話がうまれたり、違いを受け入れる状態にもなれるという感想をいただけました。

あえて具体ではなく、抽象で描くことで生まれる「コミュニケーション」

実は、「具体」で描こうとすると、(特に絵が得意ではない人は)「枠」から出ることはとても難しくなってしまうシーンを、私たちはこれまで何度も見てきました。

たいてい「上手に描こう」と考え、もともとある枠に、どんどんどんどんはまっていってしまうのです。大人であればなおさらかもしれません。
(そして、同じことは「言語」でも起こりうると考えています)

↑具体で描こうとして「うまくかかなきゃオバケ」にのっとられると。いつの間にか五感や自分の心、他者などの様々な感覚から自分を遮断し、枠にはまってしまうのです。
「うまくかかなきゃオバケ」にのっとられて、「そういうものだ」という「枠」に入ってしまうのって、ほんとにいつのまにかなんですよね……

対して、抽象で描く(自由な線で、自由に描く)というマインドでいると。うまくかかなきゃオバケを退散しやすくなるので、おのずと感じることに集中しやすくなるのだと考えています。
五感、自分の心、他者。様々な感覚を感じられることで、いつのまにか「枠」を超えて、新しいつながりをつくることができるのです。

先生達がこうして今回、抽象を描くことで、解放されて、このワークショップ型研修に価値を感じてくださった背景には。
先生方みなさんが日々、切実に考えている「主体的・対話的で深い学びを、授業で実践するには?」という問いがあるのだと、新宿区の教育委員会の先生から伺いました。

描くことでうまれる、自分とのコミュニケーション、そして異なる他者とのコミュニケーション。
「その広がったコミュニケーションこそが、教育現場で主体性を育み、対話をよびおこし、既成概念から飛び出た、新しい活動の土台となる」ということをたくさんの先生方に感じていただけたことを、とても私たちは嬉しく感じました。


ファシリテーター:和田あずみ
グラフィックレコーダー:三澤直加
ファシリテーションサポート:名古屋友紀、小野奈津美


(和田)

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