ローリング・ストーンズ

雨が降っていた。
星乃珈琲でコーヒーを飲んでボーッとしていた。
高い天井からジャズが流れている。
彦星ブレンドを頼んだつもりが星乃ブレンドが運ばれてきた。滑舌が悪いせいだ。僕は軽く会釈をし、それを置いてもらった。悪いのは僕です。すみません。僕はそれを黙ってすすった。カップの中にも雨が降っていた。

2月の雨は妙な物質を街に撒き散らした。街中の人が頭痛を訴えた。僕は病んでしまった。サリンジャーみたいに世界から忽然と消えたいと思った。銀閣寺荘を終の棲家にしようやっぱり。じめじめする思い出を力強く抱いた。全身をリーズナブルな服で固めた僕を、テーブルの上のコーヒークリームがバカにした。「俺はいつでもこのクリームピッチャーをお前に向けて倒すことができるぜ。でもお前の服なんか俺で汚す価値もないな。」僕は読みかけのポール・オースターの「ガラスの街」を閉じた。ニューヨーカーになったつもりでいた。詩的な文章にうっとりしていた。ハドソン川に去年の僕の亡骸を捨てた。


死にそうな街へドライブ行こう。こんな雨の日に、時速150キロで、途中田んぼの真ん中のアメリカンダイナーにドリフト駐車し、ハンバーガーを食べよう。真っピンクの液体を飲もう。それから街の入口にそびえる100メートル級の仁王像の股下をくぐり、その先に待ち構える室伏みたいな屈強な番人を轢き殺す。街に入れば、住民はもう世紀末が待ち遠しいと嘆くから、嘆きッスを僕はそいつらにかまそう。儚く澱んだ雲は神様を召喚する準備ができてた。でも現れたのはやはり悪魔だった。悪魔がくれたのは1億の雷と震度9の揺れのプレゼントだった。ノイズまみれのローリングストーンズのようだった。僕は真っ直ぐ歩こうと思った。ヨダレを垂らしてでも、真っ直ぐに。全身燃えながらも、真っ直ぐに。いつも僕は、一人で歩いているから。
死にそうな街で。
ノイズまみれのローリングストーンズ。

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